告発魔の恐怖【元警視庁刑事のコラム】

 捜査二課聴訴室で勤務していた頃、職場内で有名な某県居住の告発魔の方がいらっしゃいました。この方は、告発状を作成し、告発事実の欄には「別添新聞記事のとおり」とだけ記載し、新聞や雑誌の事件記事をコピーしたものを添付して、毎月のように郵送で送ってきておりました。当時、郵送告訴・告発は、本人確認できないとの理由で受理せずに送り返していましたが、その度に抗議の電話が入り、その対応に長時間かかることが何度もありました。後にこの県の警察官が長期派遣で警視庁に研修に来たのですが、聞いて見たらやはり地元で超有名な方とのことでした。
 確かに、告訴と違って告発は誰でもできることになっているのですが、正直、この刑事訴訟法上の規定は早く改正すべきだと思います。告発という制度は何の制約もないのが実態であり、例えば、一人が1日100通の告訴状を作成して警察に送り、これを1年間続けることも可能なのです。これを1000人がやったらどうなるでしょうか? 1日あたり10万通の告発状です。日本には現在1150箇所の警察署があります。単純計算で割ると、1日あたり1署に告発状が87通届く計算になります。1年間では3万1755通になります。他の業務を全てキャンセルしても処理できる量ではありません。


告発制度の問題点と警察業務への影響|刑事訴訟法の改正は必要か?

警視庁捜査二課聴訴室で勤務していた頃、職場内で有名だった**「告発魔」と呼ばれる方がいました。この方は特定の事件について新聞記事や雑誌記事をコピーし、告発状に「別添新聞記事のとおり」とだけ記載**して、毎月のように郵送で送り続けていました。

当時、郵送による告訴・告発は、本人確認ができないという理由で受理せずに返送していました。しかし、その度に抗議の電話が入り、その対応に多くの時間を費やすことになりました。後に、告発者が住む県の警察官が長期派遣研修で警視庁に来た際に話を聞いたところ、地元でも超有名な人物であることが判明しました。

告発制度の問題点とは?

刑事訴訟法上、告発は誰でも可能ですが、この制度には大きな問題があります。例えば、1人が1日100通の告発状を警察に送付し、1年間続けることも理論上は可能です。仮にこの行為を1000人が行えば、1日あたり10万通の告発状が全国の警察に届くことになります。

現在、日本には1150の警察署があり、単純計算すると1署あたり1日87通、年間3万1755通の告発状が届くことになります。この状況が続けば、警察は通常業務をこなすことができなくなり、捜査や治安維持に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

刑事訴訟法の改正は必要か?

告発制度は犯罪の摘発を目的としていますが、現在の制度では悪意を持った大量告発や、嫌がらせ目的の告発も可能となっています。そのため、一定の制限を設けるべきではないかという意見もあります。例えば:

  • 告発の回数制限(一定期間内に可能な告発数の制限)
  • 告発の内容精査(単なる記事の添付ではなく、具体的な証拠の提示を義務付ける)
  • 電子化による管理強化(不要な告発を自動フィルタリングする仕組み)

このような対策を講じることで、警察の負担を軽減し、より効率的な捜査活動が可能になると考えられます。

まとめ|告発制度の見直しが求められる理由

現在の刑事訴訟法では誰でも自由に告発できる仕組みになっていますが、それが警察の業務を圧迫し、実際の犯罪捜査に支障をきたす可能性があります。悪用を防ぎつつ、適正な告発を確実に受理できるよう、告発制度の見直しと刑事訴訟法の改正が急務と言えるでしょう。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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