詐欺罪は刑事泣かせの罪
詐欺罪は、刑法の中でも立件が最も難しい罪種の一つと言われることがあります。同じ財産犯でも、窃盗や横領は、被害者に無断で勝手に持ち去る(費消する)行為なので、多くの場合犯人は言い訳ができません。しかし、詐欺罪は、犯行時点においては、被害者は納得して財物又は財産上の利益を自ら進んで交付します。よって、犯人は「被害者は合意の上だった」として犯行を否認することがほとんどです。また、経験上の話しになるのですが、窃盗犯人や横領犯人は無口で話し下手で陰気な性格の人間が多いのと比べ、詐欺犯人は話し上手で陽気な人間が多く、騙すのが上手いと同時に言い訳も非常に上手く、取調べでも苦労したことが何度もあります。そのせいかどうかわかりませんが、刑務所では泥棒よりも詐欺師のほうが立場が上だと聞いたことがあります。
詐欺被害の相談を受けて、悩んだことが何度もあります。こういう例がありました。Aさんは、ある投資会社(実際は詐欺会社)の営業員から嘘の投資を勧められた。Aさんは、その嘘の投資話をすっかり信じてしまい、ぜひ購入したいと思ったが、あいにくお金の持ち合わせがなかった。そこで、友人のBさんがまとまったお金を持っていたことを思い出し、Bさんに会ってその投資話がいかに素晴らしいかを説明した。Bさんは、Aさんの話しを信じて、絶対儲かるものと思って、その投資会社に投資することにして、いきなりお金を振り込んだ。数か月後、投資会社は解散してドロンし、一円も返ってこなかった。という相談でした。詐欺罪は、騙して、その結果として財物を得ることで成立します。営業員は確かにAさんを騙しましたが、Bさんとは会ってもいませんし、話しもしていません。しかし、Bさんはお金を実際に振り込んでしまっており、財産上の損害を受けていることは間違いありません。刑法の本を読みましたが、これに類する事例を見つけることができず、警視庁本部の刑事総務課法令指導(非常に優秀な警察官だけが配属される部署です)にお伺いを立てました。回答は、営業員の行為はAさんに対する詐欺未遂だけが成立し、Bさんは被害者にならないとするものでした。この回答をしたところ、訴えることができないとわかってBさんはがっかりし、結局Aさんも被害届は出しませんでした。
こんな事件もありました。生活保護費の不正受給事件です。通常、生活保護費の不正受給詐欺は、役所に内緒で働き、翌月給料が入る予定なのに、それを隠して月初に支給される保護費を受け取る時点で詐欺罪が成立するとして犯罪事実を作ります(給与の振込予定があるのにそれを秘して保護費を受け取るという不作為欺罔の1項詐欺)。しかし、その事件では、被告訴人は働いておらず、月初に受け取った保護費はFX投資などですぐに使い果たし、お金が無くなるとその度に母親や不倫相手に金をせびり、毎月十数万円から数十万円を得ていたものでした。つまり、月初に保護費を受け取る時点では、母親や不倫相手からの入金は確定しておらず、黙っていても不作為欺罔行為にならないのです。そこで、生活保護法の条文をよく読んだ結果、受給者には保護費以外の現金収入があった場合は役所に対する申告義務があり、その場合役所はその分の返金を求める権利があることがわかりました。そこで、犯罪事実を、母親や不倫相手から入金があり、その申告義務があったのにそれを申告せず、役所の請求権を免れたとして、財産上利益の2項詐欺で作りました。この事実で検察官に相談に行き、検察官のOKをもらい、裁判所に逮捕状と捜索差押許可状の請求をして、大きな訂正もなく発付を受けました。結果として、被告訴人は起訴されて、執行猶予付きでしたが有罪となりました。
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。