業務上横領罪の特徴
告訴事件で一番多いのが詐欺と並んで業務上横領であるように感じます。詐欺もなかなか判断や立件が難しいのですが、犯行回数でいえば多くても3、4回です。しかし、会社内で行われた業務上横領の場合、数回ということはほとんどなく、100回を超えることも珍しくありません。そして、横領犯人は必ずといっていいほど、バレないように隠蔽工作を行い、さらに発覚を遅らせるために穴埋め行為を行います。
穴埋め行為とは、過去に横領したお金の不足分がバレないように、会社の別のところにあるお金を持ってきてそこに充当する行為です。具体的には、横領して残高の減ったA銀行の口座に、B銀行口座からお金を移す行為です。この穴埋め行為について、高等裁判所の裁判例(東京高裁判決、昭和26年12月27日)は、「穴埋めも横領である。」としています。しかし、私が麹町警察署時代に扱った業務上横領事件で、この穴埋め行為について検察官は消極解釈であり、送致前の相談段階で送致事実から外すようにと指示を受けました。私自身も、会社の口座間の資金移動が横領になるのは少し変だなと思います。これについてはいつか最高裁で判例が出るといいなと感じています。
詐欺事件の場合は、騙し取ったお金の使途先はそれほど重要視されません。しかし、横領罪の場合は、厳密に調べる必要があります。会社から横領したと思われたお金が、会社に戻っていれば横領と言えなくなるからです。使途先は、男性の場合はギャンブルか異性関係、女性の場合はホストクラブなどが多いです。先の麹町事件の犯人は、競馬が大好きで、横領した何千万円を全額競馬に使っていました。「大穴を当ててそれで横領した金を返済したかった。」と供述していましたが、絶対嘘です。大穴を当てて何百、何千万円を手にしたところで、その金も全部競馬に注ぎ込んでいたでしょう。この犯人は、酒も飲まず、女性にも興味はなく、本当に競馬だけが生きがいという男でした。この事件ときには、日本競馬会に行って競馬の年鑑を借りてきて、犯人に見せてどのレースに幾らかけたなんてことを聞いて調書にしました。もちろん、全部覚えているわけではありませんが、天皇賞などの大きなレースでは幾らかけて勝ったとか負けたとか結構覚えていました。
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。