ガサ現場から犯人に逃走された話【元刑事のコラム】

 O署刑事課勤務の頃、他の係が犯人宅にガサ(捜索差押)に行ったときの話です。捜査員4名で、犯人の家(マンションの3階)に行き、捜索差押許可状を犯人に示し、ガサを開始しました。ガサ終了後には、逮捕状を提示して通常逮捕し、警察署に護送してくる予定でした。
 しばらくして、その犯人が「刑事さん、観念しました。実は、俺チャカ(拳銃の隠語)持ってます。そこの押し入れの天袋のところに入っています。」と言って押し入れの一角を指さしました。捜査員の一人が踏み台を持ってきて天袋をのぞくと「あっ!」と叫びました。慌てて他の捜査員も一緒になってのぞくと、あるわあるわ、拳銃が7、8丁出てきたのです。警察内で、拳銃の押収は非常に評価点が高く、1丁上げただけで担当者は警視総監賞間違いありません。それが7、8丁ともなれば、警視総監賞どころか警察庁長官賞ももらえるかもしれません。捜査員たちは大喜びして天袋から拳銃を取り出し、手に取って眺めていたところ、捜査員の一人が再び「あっ!」と叫びました。他の捜査員がきょとんとしていると「ホシがいない!」と一言。なんと、捜査員たちが拳銃を見つけて大喜びしている間に、犯人は抜き足差し足で玄関から逃走していたのです。すぐに捜査員が窓から下の道路をのぞくと、犯人が全力疾走して逃げていくところでした。捜査員も急いで後を追ったのですが、間に合わず、逃げられてしまったのです。さらに、見つけて大喜びしていた拳銃は、よくよく見ると、精巧にできたモデルガンでした。
 その日からは、逃げられた係を中心に、逃走した犯人の追跡班が作られて、連日犯人探しが始まりました。幸い、1か月ほどで犯人の居場所がわかり、無事逮捕となりました。逮捕後の取調べで犯人は「いずれ警察が来るとわかっていたので、そのとき逃げられるように、あらかじめモデルガンを買って置いておいた。」と供述しました。ベテラン捜査員が4人もいて、こんなちゃちな工作にまんまと引っかかったのです。「ホシは飛ぶもの、逃げるもの」は刑事なら誰でも知っている言葉です。逃げるだけでなく、証拠品を隠したり、壊したり、飲み込んだりすることもあります。犯人から目を離さないことは刑事の鉄則なのです。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

Profile Picture