警察官の取調べに訓練はない?【元刑事が解説】

 私は警察官になる前に4年間自動車の営業員をしていました。入社し立ての頃は、先輩社員が客役になってくれて「ロールプレイング」という仮想商談の訓練をよくしてくれたものでした。
 警察に入った後は、取調べについて、同じように先輩や教官が犯人役になってくれてロールプレイング訓練があると思っていました。ところが、警察学校または刑事講習の際に、こうした訓練を受けた記憶がほとんどありません。では、どのようにして取調べのやり方を覚えていったかというと、先輩や上司の取調べに立ち会った際に見て聞いて覚えたのがほとんどです。座学的な指導教養が全くなかったわけではありませんが、否認や黙秘をしている被疑者をどうするのか、証拠はどのタイミングでぶつけるのか、供述調書はどの順番で作成するかなどの重要な技術は、ほとんど全て現場で体験して覚えたといっていいと思います。正に料理人や大工などと同じで、技は教わるものではなく、見て盗んで覚えるという職人の世界です。といっても、警察官も刑事も人間ですから、自分と性格やキャラが全くタイプが違う先輩のやり方をそのまま真似しても上手くはいきません。そこで、トライ&エラーを繰り返しながら、自分に合った取調べ方法を編み出していくわけです。私の場合は、強面でもなく、ガタイがいいわけでもなかったので、被疑者に無言の圧力をかけて取り調べるスタイルは向いていません。そこで、なるべく冷静に、淡々と、理詰めで調べるスタイルを取りました。初めは否認している被疑者であっても、証拠を小出しにして見せていくと、大抵の被疑者は徐々に表情が変わっていき、最後には「やりました」「盗みました」「だましました」となるのが普通です。偽医者による詐欺事件で、ずっとのらりくらりだった被疑者が、最後に落ちたときに半分泣きながら半分苦笑いした表情は10年近く経った今でも忘れることができません。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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