警察が裁判所へ令状請求したときの撤回と却下の違い【元刑事が解説】
令状には種類が複数あります。逮捕状、捜索差押許可状(ガサ状)などは、テレビドラマなどでもおなじみだと思います。その他に身体捜索許可状や検証許可状などもあります。こういった令状は、警察官が裁判所に行って請求し、審査を受けた上で発付を受けます。警察が請求すれば、簡単に発付を受けられるだろうと思ったら大間違いです。朝一番(7:30頃)に行って裁判所令状請求受付前に行って並びます。8:30に受付が開く頃には、各警察署や、本部員、麻薬取締官などがざっと十数名が並んでいます。運良く一巡目に受付をしてもらっても、令状が発付されるのは最短でお昼少し前くらいです。書類がドッチファイル4冊くらいになる複雑な事件では、定時の17:15を過ぎることもあります。
また、審査の途中で呼び出しを受けることはほぼ毎回で、裁判官から書類の間違いを指摘されたり、書類だけではわからないことを質問されたりします。間違いがあればその場で訂正し、足りない資料があれば、署に電話してファックスで送ってもらいます。2度、3度と呼びだれることも珍しくありません。何しろ相手は裁判官殿ですから、呼び出される度にビクビクものです。
こうした結果、発付されればいいのですが、数十回に一回くらいの割合で発付されないことがあります。理由は様々ですが、ほとんどの場合、「○○○○の理由で今回は発付できないので『撤回』してください」と言われます。これは平たく言うと「令状を発付するには今一つ足りない要素があるので、あともう少しその点を充足してからまた来て下さい。今回は警察自ら請求を引っ込めた扱いにしておきます。残念でした、またどうぞ。」という感じです。
問題となるのはタイトルにある「却下」です。これは、「令状請求内容に小さからぬミスや不備があり、裁判所としては見過ごす訳にはいかないので請求を却下する」という意味になります。そして、どういうルートで連絡が行くのかわかりませんが、この「却下」の決定は、警察本部の刑事部にストレートに通報されてしまいます。通報を受けた刑事部では、その警察署の署長や刑事課長に対し、注意や叱責を行い、罰として、その年のその署刑事課の評価は大幅に下げられます。これはその署の刑事課長以上の幹部の人事に影響します。
幸い、私は「却下」は一度もありませんが、深夜DVの逮捕状を請求しにいったとき、被疑者の名前の漢字を一文字間違い、深夜に起こされて機嫌の悪い裁判官に「被疑者の名前という極めて大事な箇所を間違えるなんてどういうことだ。撤回しないなら却下にするぞ」と言われたことが一度だけあります。もちろん、撤回にして逃げ帰ってきました。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。
