住民監査請求の監査結果について(県警が告訴状の返送に要した郵送料に関する件)【神奈川】
令和6年12月26日
参考資料
住民監査請求の監査結果について
(県警が告訴状の返送に要した郵送料に関する件)
県民から、地方自治法第242条第1項の規定に基づく住民監査請求があり、同条第5項の規
定に基づき監査を行い、請求人の主張には理由がないと認め、棄却することとし、請求人に対し
て別紙2のとおり通知しましたので、お知らせします。
1 請求書を受理した日
令和6年10月29日
2 請求人
(略)
3 監査結果の決定日
令和6年12月25日
4 監査結果の概要等
監査結果の概要は別紙1、請求人に通知した文書は別紙2のとおり
(請求人の氏名及び住所並びにこれらが特定され得る情報は省略している。)
5 備考
請求人へ監査結果通知が到達したことを確認できた後に発表するため、監査結果の決
定日と発表日が異なっています。
問合せ先
神奈川県監査事務局総務課
課長
村上 電話045-285-5053
副課長
新井 電話045-285-5054
住民監査請求の結果の概要
別紙1
(県警が告訴状の返送に要した郵送料に関する件)
住民監査請求の概要(請求人の主張)
請求人は、請求人が県警察本部刑事部捜査第二課告訴センター(以下「告訴センター」という。)
に提出した告訴状は犯罪捜査規範第 63 条に基づき受理しなくてはならない公用文書であるため、
警察職員がこれを受理せずに請求人に返送することは公用文書等毀棄罪に当たり、受領する意思が
ない請求人に対する告訴状の返送に要した郵送料相当額は県の財産の損失であるため、知事は警察
職員に損害賠償請求権を行使しなければならない、と主張している。
1 監査の結果
令和6年10月29日に受理した住民監査請求について、令和6年12月25日、監査委員の合議に
より、本件監査請求には理由がないと認め、請求を棄却した。
2 判断の理由(要旨)(別紙2 P12~P14)
昭和59年12月14日大阪高裁決定では、告訴について、その申立の内容その他の資料から判断
して、申立にかかる犯罪が成立しないことが明らかであるような場合には、申立を受けた司法警察
員において、告訴として受理することを拒むことができると解するのが相当であることが判示され
ている。
こうしたことを踏まえ、神奈川県警察告訴・告発取扱要綱(以下、「取扱要綱」という。)におい
ても、告訴の要件を満たしていない場合又は犯罪事実が成立しないと認める場合は、告訴を受理し
ないものとすることが定められていることから、犯罪捜査規範第63条第1項において、「司法警察
員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどう
かを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない」と定められていると
しても、必ずしも全ての告訴状を受理しなくてはならないとはいえない。
告訴センターは、本件告訴状を不受理と判断するに当たり、告訴状で主張されている神奈川県行
政書士会(以下、「神奈川会」という。)の処分公表の根拠となる神奈川会会員の処分に関する規則
と、過去に日本行政書士会連合会による処分公表について争われた控訴審判決(以下、「別件控訴審
判決」という。)等を確認し、本件告訴状で述べられている処分公表は神奈川会の正当業務行為であ
り、違法性阻却事由が認められると判断し不受理を決定した。
別件控訴審判決においては、規則に基づく公表行為が控訴人の社会的評価を低下させるものであ
ったとしても違法性を欠くものというべきである、処分公表は当該行政書士が信任し得るかどうか
を判断するのに必要な情報を提供する趣旨の制度であり、名誉棄損行為としての違法性阻却事由が
認められる、と判示されており、本件事案と照らし合わせても、状況は一致しているため、同一の
見解が適用できると認められる。
したがって、告訴センターが本件告訴状を不受理と判断したことは妥当であったと認められる。
また、告訴状の扱いについて、不受理の告訴状を保管することは受理されたものと請求人が勘違
いし、後々紛議になる可能性があることから、配達状況を確認できるレターパックライトや特定記
録郵便等により返送することとしており、取扱要綱において、告訴を受理しないときは、不受理の
理由等を十分に説明するとされていることから、レターパックライトを用いて不受理の理由を記載
した文書を同封の上、告訴状を返送したことは、取扱要綱等に沿ったものであり、妥当であったと
いえる。
その後、請求人が受領拒否した告訴状を定形郵便・特定記録を用いて3回返送したことについて
は、請求人に対する説明責任及び、告訴状返戻の目的を果たすために必要であり、また、過去の例
から、郵送で告訴状を返戻する場合は4回までの返送で受領されていることからも、過剰に返送を
繰り返したともいえないことから、妥当であったといえる。
そのため、上記の4回の返送による合計1,132円の郵送代は、職務の遂行に当たり、必要な支出
であったと認められる。
よって、県は警察職員に対する損害賠償請求権を有しておらず、知事が違法又は不当に財産の管
理を怠る事実は存在しないため、本件監査請求には理由がない。
別紙2
監第 1202 号
令和6年12月25日
請求人 (略) 様
神奈川県監査委員 大 竹 准 一
同
吉 川 知 惠 子
同
同
同
中 家 華 江
加 藤 元 弥
青 山 圭 一
住民監査請求に基づく監査の結果について(通知)
令和6年10月29日に受理した住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)について、
地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第242条第5項の規定に基づき、
監査を行ったので、その結果を次のとおり通知する。
第1 請求に対する判断
請求を棄却する。
第2 請求の内容
1 請求人から提出された令和6年10月26日付け請求書の内容
(原則、内容は原文「1.請求の要旨」及び「2.監査委員の監査に代えて個別外部
監査契約に基づく監査によることを求める理由」のまま。ただし、「2.監査委員の監
査に代えて個別外部監査契約に基づく監査によることを求める理由」のうち、当該理由
が記載されている箇所以外は略している。)
1. 請求の要旨
請求者は、令和6年5月29日付で、神奈川県警察の告訴センターに刑事告訴状を提
出した。その告訴状の内容は次のとおりである。
告訴状
告訴人 (審査請求者の表示がある)
被告訴人 被疑者不詳
令和6年5月29日
神奈川県相模原警察署長 様 - 1 -
告訴の趣旨
被告訴人の告訴事実記載の行為は、告訴人に対する刑法 230 条1項の名誉毀損罪に
該当すると考えるので、被告訴人を厳罰に処することを求め告訴する。
告訴事実
被告訴人の行為
証拠1のとおり、令和6年5月24日現在、Google検索で告訴人の氏名だけを入れて
検索すると、(URL略)として、神奈川県行政書士会(以下書士会という)サイトによる
告訴人の会の処分情報の公表が上位に表示され、告訴人の知人友人顧客他すべての市
民に知られる状態にさらされ被害を被っている。この公表行為は令和5年8月以前か
らされている。この公表行為は(本件公表行為という)、公然と事実を適示して、告訴
人が会則に違反をし処分を受けたという、客観的に告訴人がルールを守らない人格で
あるとの印象を他人に与えるものであるから、告訴人の社会的評価を低下させること
が明らかであり名誉を毀損する行為である。会則違反は民間団体にすぎない書士会と
告訴人の私人間の権利義務関係に過ぎないし、その実質的内容である会費についても
書士会と告訴人の私人間の事柄に過ぎず、このことを公表しないと不利益を被る市民
がいるわけではないから公共の利害にかかわるものではない。そして当該行為に違法
阻却事由がないことは後記のとおりである。よって、被告訴人は本件公表行為をして告
訴人の名誉を毀損し、違法阻却事由もないため、被告訴人を厳罰に処することを求め告
訴する。
添付書類
証拠1 令和6年5月24日現在の、google検索で表示された書士会の本件公表内容
証拠2 告訴人から令和5年8月ごろ神奈川県行政書士会に送付した手紙(同意し
ていないことの証明)
このように適式な刑事告訴状が提出された場合、「捜査規範第 63 条 司法警察員た
る警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件である
かどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。
司法巡査たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、直ちに、こ
れを司法警察員たる警察官に移さなければならない。」と規定され、「刑法(公用文書等
毀棄)第二百五十八条は、公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、三
月以上七年以下の懲役に処すると規定される。」と規定されている。したがって、本件
告訴状は神奈川県県警察の事務所に到達した時点で受理しなければならない公務所の
用に供する文書となる。ところが神奈川県警察の職員は、受理しないと言って本件刑事
告訴状を請求者に返送した。この行為は神奈川県警察内から当該公用文書の効用を失
わせる行為であり公用文書等毀棄罪にあたると考えられる。そのため、請求者に返送し
てはならず、請求者がこの返送を受け取ることも同犯罪の共犯となるため、その旨返送
した警察官に伝え、開封せずに郵便法に従い受領を拒否する旨付箋を付けて受領を拒
否し返送した。しかしながら神奈川県警察の職員は、請求者の不受領意思が明白にもか
かわらず無駄に告訴状をその後2回請求者にしつこく返送し続け、そのたびに請求者
は同様の方法で受領拒否し返送した。この3回の返送のうち1回は、令和6年7月 31- 2 -
日に請求者に返送した。この令和6年7月31日の返送に要した郵送料は、神奈川県は
無駄に損失し、その郵送料相当額は神奈川県の財産の損失となるので、損失をさせた警
察職員はこれを神奈川県知事に賠償すべき義務を負い、神奈川県知事は損失をさせた
警察職員に対し損失額を請求すべきである。なぜなら警察職員は、捜査規範第63条熟
知しており、返送してはならないことを熟知していたにもかかわらず故意に返送した
からである。しかし、神奈川県知事はこの請求を怠っているので、神奈川県の「執行機
関は、違法に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実がある」ので、地
方自治法第242条第1項の規定により住民監査請求をする。
2. 監査委員の監査に代えて個別外部監査契約に基づく監査によることを求める理由
(略)令和6年9月10日に同内容の監査請求をし、監査請求人が告訴状の返送を受
けているため、監査請求書に記載された事実が、告訴状の返送を受けたことの証言を兼
ねていることは明らかなので、監査請求書の事実の記載が事実証明を兼ねるので援用
する旨主張したところ。監査委員である村上、吉川知惠子、中家華江、加藤元弥、青山
圭一は、「請求人が主張する事実を証する書面が添付されているとは認められない」と
の理由で却下処分をした。地方自治法に事実証明書の内容について定めた規定がない
にも関わらず、事実証明書の意味を勝手に厳格化し事実証明にあたらないとして監査
に支障がないにもかかわらず却下して、監査をしない上記監査委員の関心事がどこに
あるのか疑問で、資質に欠け住民監査請求制度が歪められるのみで、本件監査を適正に
実施することは不可能である。
2 請求人
氏名 (略)
住所 (略)
3 請求人から提出された事実を証する書面
・令和6年7月31日に告訴状が返送され請求人に届いたときの封筒写真
・告訴状の返送を受けた者が、告訴状の返送を受けた事実を証言した供述書
第3 請求の受理
本件監査請求は、実際に受け付けた令和6年10月29日付けをもって受理した。
第4 個別外部監査契約に基づく監査を行わなかった理由
請求人は、「第2 請求の内容-1 請求人から提出された令和6年10月26日付け
請求書の内容」のとおり、令和6年9月10日付けの本件と同内容の住民監査請求(以
下「前回請求」という。)について、「地方自治法に事実証明書の内容について定めた規
定がないにも関わらず、事実証明書の意味を勝手に厳格化し事実証明にあたらないと
して監査に支障がないにもかかわらず却下」したとし、「監査をしない監査委員の関心
事がどこにあるのか疑問で、資質に欠け住民監査請求制度が歪められるのみで、本件監
査を適正に実施することは不可能である」ことなどを理由に、法第252条の43第1項- 3 -
に規定する個別外部監査契約に基づく監査によることを求めている。
しかしながら、前回請求については、請求人が主張する事実を証する書面が添付され
ているとは認められないことを理由として却下したものであり、これをもって、監査委
員の資質に欠けるため監査を適正に実施することは不可能であるとする請求人の主張
には理由がない。
また、本件監査請求は、不受理とした告訴状の郵送料相当額を財産の損失とし、知事
が財産の管理を怠っているとするものであり、財産管理上の行為の違法性等について
の判断を行うに当たって、特に監査委員に代わる外部の者による判断を必要とする事
案であるとは認められない。
以上のことから、本件監査請求において、個別外部監査契約に基づく監査によること
が相当であるとは認められない。
第5 監査の実施
1 請求人からの証拠の提出及び陳述
⑴ 証拠の提出
請求人から新たな証拠の提出はなかった。
⑵ 陳述の内容
請求人から陳述を行わない旨の申し出があったので、陳述は実施しなかった。
2 監査対象事項の特定
請求人は、本件監査請求において、以下のとおり主張していると認められる。
請求人が県警察本部刑事部捜査第二課告訴センター(以下「告訴センター」という。)
に提出した告訴状は犯罪捜査規範第63条に基づき受理しなくてはならない公用文書で
あるため、警察職員がこれを受理せずに請求人に返送することは公用文書等毀棄罪に
当たり、受領する意思がない請求人に対する告訴状の返送に要した郵送料相当額は県
の財産の損失であるため、知事は警察職員に損害賠償請求権を行使しなければならな
い。
こうした請求人の主張を踏まえ、監査の実施に当たっては、警察職員が告訴状を不受
理とし、返送した行為の妥当性について調査し、知事が警察職員に対する損害賠償請求
権を行使せず、違法又は不当に財産の管理を怠る事実が存在するか否かについて監査
することとした。
3 監査対象箇所への調査
本件監査請求に関し、監査対象箇所として、本件告訴状を取り扱った告訴センターを
選定した。そして、令和6年11月27日13時55分から県庁新庁舎3階第1監査室に
おいて告訴センターの職員調査を実施し、本件告訴状を不受理とし、返送した行為の判- 4 -
断過程について聴取を行った。
なお、職員調査後も必要に応じて電話等で追加聴取を行った。
告訴センターの主張の要旨は、次のとおりであった。
⑴ 告訴を不受理とすることの根拠について
ア 請求人は、「『捜査規範第63条司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首
をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定
めるところにより、これを受理しなければならない。司法巡査たる警察官は、告訴、
告発または自首をする者があつたときは、直ちに、これを司法警察員たる警察官に
移さなければならない。』と規定され」とし、これを根拠に「本件告訴状は神奈川
県県警察の事務所に到達した時点で受理しなければならない」と主張しているが、
この受理についての考え方はどのようになっているか。
犯罪捜査規範第63条第1項において、「司法警察員たる警察官は、告訴、告発ま
たは自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、こ
の節に定めるところにより、これを受理しなければならない」と定められているが、
昭和59年12月14日大阪高裁決定では、「刑事訴訟法第230条は、犯罪により害
を被った者は、告訴をすることができる旨を定めているけれども、告訴権は犯罪捜
査の端緒として認められていることから考えて、その申立の内容その他の資料か
ら判断して、申立にかかる犯罪が成立しないことが明らかであるような場合には、
申立を受けた検察官あるいは司法警察員において、告訴として受理することを拒
むことができると解するのが相当である」と判示されており、必ずしも全ての告訴
を受理しなければならないものではないと解されている。
イ 告訴を不受理とすることについて、根拠となる規程等はあるか。
神奈川県警察告訴・告発取扱要綱第29条第1項では「運用副責任者は告訴・告
発の相談及び申出の内容を検討した結果、告訴・告発の要件を満たしていない場合
又は犯罪事実が成立しないと認める場合は、告訴・告発を受理しない」と規定され
ている。
ウ どのような場合に告訴を不受理とするのか(可能な範囲で先例、具体例等を記載)。
そのような場合としては
・申告している犯罪事実が不明確で、犯罪事実の申告とはいえないもの。
・明らかに罪とならない事実を告訴事実とするもの。
・申告に係る犯罪事実につき、既に公訴時効が完成しているもの。
・処罰を求める意思の存否が不明確であるもの。
などがある。
告訴を不受理とし、それが裁判でも認められた例として
・犯罪の日時の記載がなく、手段方法等も具体性に欠けること等を理由として、
告訴に係る犯罪事実はその同一性を認め得る程度には特定しておらず、告訴
は不適法であって、受理しなかった措置に違法はないとしたもの。(大阪地判
昭和52.7.25) - 5 -
・記載の誤りがあったというだけで、いまだ公文書偽造行使その他の犯罪事実の
申告ということはできず、告訴として取り扱わなかったとしても、違法な職務
執行であるとはいえないとされたもの。(東京高判昭和56.5.20)
・申立ての内容その他の資料から判断して、申立てに係る犯罪が成立しないこと
が明らかである場合には、申立てを受けた検察官あるいは司法警察員におい
て、告訴として受理することを拒むことができるとするもの。(大阪高決昭和
59.12.14)
がある。
⑵ 本件告訴を不受理と判断した理由について
ア 本件告訴を不受理と判断した理由はどのようなものか。
請求人の処分公表は、神奈川県行政書士会の会則や規則に従って公表されてい
ることから、同会の正当業務行為と認められる。
また、日本行政書士会連合会に係る控訴審において「行政書士として登録されて
いる控訴人は、公表規則に従うべき義務を負い、公表規則の条項に基づいて処分に
係る情報が公表される限りこれを受忍する義務を負っているというべきであるか
ら、その公表行為が控訴人の社会的評価を低下させるものであったとしても違法
性を欠くべきものというべきである」という判決がされていたことから、判決の趣
旨を踏まえて考えれば、神奈川県行政書士会の規則に基づいて処分が公表された
本件においても、同様に処分公表は違法性阻却事由に当たると考えられた。
以上を踏まえ、告訴の不受理を判断した。
イ 判断に当たり神奈川県行政書士会にどのような確認を行ったか。
神奈川県行政書士会に赴き、同会職員から
・神奈川県行政書士会会則
・神奈川県行政書士会会員の処分に関する規則
・事業、財務及び懲戒処分等の情報の公表等に関する規則
・平成31年3月13日判決言渡の東京高等裁判所の判決文
・平成30年9月28日判決言渡の東京地方裁判所の判決文
の各写しを入手し、処分公表した際の根拠について説明を受け、同規則に基づく処
分公表であったことが明らかになったほか、控訴審判決等における裁判所の見解
が明らかになった。
なお、同規則が判決時から変更のないことも確認した。
⑶ 告訴を不受理とする際の事務手続きについて
ア 告訴を受け付けてから不受理と決定するまで、告訴センターにおいてどのような
手続きがされているか。
告訴状が提出された場合、要件充足性を適正に見極め、受理又は不受理の判断を
する。
裁判例等の見解を踏まえた告訴受理の要件としては - 6 -
・形式的要件
①告訴権があること
②告訴期間内の告訴であること
③告訴取消後の再告訴でないこと
・実質的要件
①犯罪事実が特定されていること
②犯人に対する処罰意思があること
がある。
一方、告訴が受理され捜査が開始されると被告訴人をはじめ関係者に多大な影
響を及ぼすことから、捜査機関とすれば被告訴人等の人権保護の観点からも、要件
審査は慎重に行わなければならないのであり、明らかに要件を欠く告訴は受理す
る必要はないと考えられている。
告訴を不受理とする場合、相談簿の処理結果欄に不受理の理由その他の所要事
項を記載するなどの手続きがとられる。(神奈川県警察告訴・告発取扱要綱第29条
第2項)
イ 告訴人から提出された告訴状の扱いはどのようになっているか。
告訴の受理、不受理の要件審査を行い、受理した告訴状は刑事事件で裁判所に提
出されることが予定される文書になり、受理しなかった告訴状は、返戻することが
通例である。
ウ 事務手続きについての規程等はどのようになっているか。
神奈川県警察の組織に関する規則第56条において
告訴センターは、刑事部捜査第二課の所管犯罪に係る事件相談、告訴・告発事
件の受理及び捜査その他必要な事務の処理に当たる。
とされており、捜査第二課の所管犯罪については、同規則第23条において
・詐欺(神奈川県警察特殊詐欺対策室の所掌に属するものを除く。)、背任、横領、
偽造その他の知能的犯罪の捜査に関すること。
・名誉及び信用に関する犯罪の捜査に関すること。
・汚職の罪に関する犯罪の捜査に関すること。
・不動産侵奪及び境界損壊に関する犯罪の捜査に関すること。
・公職の選挙、国民審査その他の投票及び住民の直接請求に係る犯罪の捜査に関
すること。
とされている。
⑷ 本件告訴状を告訴人に郵送した理由について
ア 本件告訴状を告訴人に郵送で返戻した理由はどのようなものか。
不受理の告訴状を保管することは受理されたものと請求人が勘違いし、後々紛
議になる可能性があるので、配達状況を確認できるレターパックライトや特定記
録郵便等により返送することが通例である。 - 7 -
⑸ 告訴人との具体的なやりとりの状況及び本件告訴状の取扱いについて
ア 本件告訴において、不受理の決定や告訴状の郵送に当たり、告訴人と文書や電話
でやり取りした具体的な内容はどのようになっているか。
郵送で告訴状を返戻する場合は、状況により異なるが、過去には1回から4回ま
での返送で受領されていたことから、本件についても同回数を目途に返送するこ
ととした。
告訴の不受理を令和6年6月12日に決定し、請求人に対して不受理の理由を記
載した文書を同封の上、告訴状をレターパックライトで返送した。
同月14日、請求人から郵便物の在中物を確認する電話が告訴センター宛にあっ
たことから、告訴状を返送したことを伝えると受領を拒否された。
同月18日、請求人から告訴状が在中したレターパックライトが受取拒絶で告訴
センターに届いたことから、同月20日、請求人に対し、告訴センターから電話を
かけ、不受理の理由等を説明するため、請求人に対して来庁を求めたが拒否された
ので、不受理の理由を伝えるも理解は示されなかった。
同月24日、今後、複数回のやりとりが予想されたことから、不受理の理由を記
載した文書を同封の上、告訴状をレターパックライトよりも安価な特定記録郵便
で返送した。
同月25日、請求人から告訴センター宛に電話があったが、告訴センター係員が
不在であったため、同月26日、請求人に対して電話をかけたところ、郵便物の在
中物を確認する内容であったため、告訴状を返送したと伝えた。
同年7月1日、請求人から告訴状が在中した特定記録が受取拒絶で告訴センタ
ーに届いたことから、同月9日、不受理の理由を記載した文書を同封の上、告訴状
を特定記録郵便で返送した。
同月16日、請求人から告訴状が在中した特定記録が受取拒絶で告訴センターに
届いたことから、同月26日、今後、受取拒絶の場合は告訴状ではなく資料として
保管する旨を告訴センターから請求人に電話をかけて伝えた上、同内容の趣旨を
記載した文書を同封し、告訴状を同月30日に特定記録郵便で返送したところ、同
年8月5日、請求人から告訴状が在中した特定記録が受取拒絶で告訴センターに
届いた。
イ 告訴人への郵送に要した郵送料はどのようになっているか。
レターパックライトの郵送料は、370円(料金改定前)である。
特定記録郵便の郵送料は、県警察本部総務部総務課で県警察本部の郵送物をま
とめて郵便局にて発送していることから、個別の郵送料金の明細等はないが、本件
郵便物の重量を測定したところ、25gを超え 50g以内であったため、定形郵便物
の郵送料は94円(料金改定前)であり、特定記録郵便の料金は160円(料金改定
前)である。また、本件郵送物を含む発送において、大量発送による料金の割引は
なかったことから、1回の郵送料は254円と認められる。
特定記録郵便は、3回郵送しているため、合計762円であり、レターパックライ
トの郵送料は、370円であったので、4回の郵送料は、合計1,132円と認められる。 - 8 -
第6 監査の結果
1 認定した事実
職員調査による告訴センターからの説明、提出書類等を踏まえ、認定した事実は次の
とおりである。
⑴ 告訴状の不受理について
ア 「第5監査の実施-3 監査対象箇所への調査-⑴ 告訴を不受理とすることの
根拠について-ア 請求人は、「『捜査規範第63条司法警察員たる警察官は、告訴、
告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問
わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。司法巡査た
る警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、直ちに、これを司法
警察員たる警察官に移さなければならない。』と規定され」とし、これを根拠に「本
件告訴状は神奈川県県警察の事務所に到達した時点で受理しなければならない」
と主張しているが、この受理についての考え方はどのようになっているか。」のと
おり、犯罪捜査規範第63条第1項において、「司法警察員たる警察官は、告訴、告
発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わ
ず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない」と定められて
いるが、昭和59年12月14日大阪高裁決定では、「刑事訴訟法第230条は、犯罪に
より害を被った者は、告訴をすることができる旨を定めているけれども、告訴権は
犯罪捜査の端緒として認められていることから考えて、その申立の内容その他の
資料から判断して、申立にかかる犯罪が成立しないことが明らかであるような場
合には、申立を受けた検察官あるいは司法警察員において、告訴として受理するこ
とを拒むことができると解するのが相当である」と判示されており、必ずしも全て
の告訴を受理しなければならないものではないと解されている。
また、「第5監査の実施-3 監査対象箇所への調査-⑴ 告訴を不受理とするこ
との根拠について-イ 告訴を不受理とすることについて、根拠となる規程等はあ
るか。」のとおり、神奈川県警察告訴・告発取扱要綱(以下「取扱要綱」という。)
第29条第1項では「運用副責任者は、告訴・告発の相談及び申出の内容を検討し
た結果、告訴・告発の要件を満たしていない場合又は犯罪事実が成立しないと認め
る場合は、告訴・告発を受理しない」と規定されている。この、運用副責任者は、
取扱要綱において県警察本部に設置することが規定されている神奈川県警察告
訴・告発事件総括室(以下「総括室」という。)において、管理責任者が指定する
警部の階級にある警察官をもって充てることとされている。なお、管理責任者は総
括室において、本部事件主管課長をもって充てることとされている。
そして、「第5監査の実施-3 監査対象箇所への調査-⑴ 告訴を不受理とする
ことの根拠について-ウ どのような場合に告訴を不受理とするのか(可能な範囲
で先例、具体例等を記載)。」のとおり、申告している犯罪事実が不明確で、犯罪事
実の申告とは言えないもの、明らかに罪とならない事実を告訴事実とするもの、申
告に係る犯罪事実につき、すでに公訴時効が完成しているもの及び処罰を求める- 9 -
意思の存否が不明確であるものなどに当てはまる場合は告訴を不受理としている。
イ 「第5監査の実施-3 監査対象箇所への調査-⑶ 告訴を不受理とする際の事
務手続きについて-ア 告訴を受け付けてから不受理と決定するまで、告訴センタ
ーにおいてどのような手続きがされているか。」のとおり、裁判例等の見解を踏ま
えた告訴受理の要件として、形式的要件(①告訴権があること、②告訴期間内の告
訴であること、③告訴取消後の再告訴でないこと)、実質的要件(①犯罪事実が特
定されていること、②犯人に対する処罰意思があること)があり、告訴センターに
おいて、告訴状が提出された場合、要件充足性を見極め、受理又は不受理の判断を
している。
また、取扱要綱において「対応責任者は、告訴・告発を受理しない場合は、(告
訴・告発取扱・)相談簿の処理結果欄に不受理の理由その他の所要事項を記載する
もの」と定められている。この、対応責任者は、総括室において、運用責任者が指
定する警部補の階級にある警察官をもって充てることとされている。なお、運用責
任者は総括室において、管理責任者が指定する警視の階級にある警察官をもって
充てることとされている。
ウ 「第5監査の実施-3 監査対象箇所への調査-⑵ 本件告訴を不受理と判断し
た理由について-イ 判断に当たり神奈川県行政書士会にどのような確認を行っ
たか。」のとおり、告訴センターは本件告訴状を不受理と判断するに当たり、神奈
川県行政書士会(以下「神奈川会」という。)に赴き、同会職員から神奈川会会則、
神奈川会会員の処分に関する規則(以下「処分規則」という。)、日本行政書士会連
合会(以下「日本連合会」という。)の事業、財務及び懲戒処分の情報の公表等に
関する規則(以下「公表規則」という。)、平成31年3月13日判決言渡の東京高等
裁判所の判決(以下「別件控訴審判決」という。)文、平成30年9月28日判決言
渡の東京地方裁判所の判決文の各写しを入手し、処分公表した際の根拠について
説明を受け、処分規則に基づく処分公表であること及び、別件控訴審判決等におけ
る裁判所の見解を確認した。また、処分規則が別件控訴審判決時から変更のないこ
とを確認した。
エ 「第5監査の実施-3 監査対象箇所への調査-⑵ 本件告訴を不受理と判断し
た理由について-ア 本件告訴を不受理と判断した理由はどのようなものか。」の
とおり、告訴センターは、本件告訴状で述べられている処分公表は、神奈川会会則
や処分規則に従って公表されていることから、同会の正当業務行為と認められる
と判断した。また、日本連合会による処分公表について争われた別件控訴審判決に
おいて「行政書士として登録されている控訴人は、公表規則に従うべき義務を負い、
公表規則の条項に基づいて処分に係る情報が公表される限りこれを受忍する義務
を負っているというべきであるから、その公表行為が控訴人の社会的評価を低下
させるものであったとしても違法性を欠くものというべきである」と判示されて
いたことから、別件控訴審判決の趣旨を踏まえて、神奈川会の処分規則に基づいて
処分が公表された本件においても、同様に処分公表は違法性阻却事由に当たると
判断し、「第5監査の実施-3 監査対象箇所への調査-⑸ 告訴人との具体的なや- 10 -
りとりの状況及び本件告訴状の取扱いについて-ア 本件告訴において、不受理の
決定や告訴状の郵送に当たり、告訴人と文書や電話でやり取りした具体的な内容
はどのようになっているか。」のとおり、令和6年6月12日に不受理を決定した。
なお、不受理とすることについては、告訴・告発取扱・相談簿(以下「相談簿」と
いう。)に、6月12日に不受理として書類を返戻する旨が記載され、管理責任者ま
で報告されている。
⑵ 告訴状の返送について
ア 「第5監査の実施-3 監査対象箇所への調査-⑷ 本件告訴状を告訴人に郵送
した理由について-ア 本件告訴状を告訴人に郵送で返戻した理由はどのような
ものか。」のとおり、不受理の告訴状を保管することは受理されたものと請求人が
勘違いし、後々紛議になる可能性があることから、配達状況を確認できるレターパ
ックライトや特定記録郵便等により返送することが通例となっている。
イ 「第5監査の実施-3 監査対象箇所への調査-⑸ 告訴人との具体的なやりと
りの状況及び本件告訴状の取扱いについて-ア 本件告訴において、不受理の決定
や告訴状の郵送に当たり、告訴人と文書や電話でやり取りした具体的な内容はど
のようになっているか。」のとおり、郵送で告訴状を返戻する場合は、過去の例か
ら4回までの返送で受領されていたことから、告訴センターは本件においても同
回数を目途に返送することとし、告訴の不受理を令和6年6月12日に決定した後、
請求人に対して不受理の理由を記載した文書を同封の上、告訴状をレターパック
ライトで返送した。
同月14日、請求人から郵便物の在中物を確認する電話が告訴センター宛にあっ
たことから、告訴状を返送したことを伝えると受領を拒否された。
同月18日、請求人から告訴状が在中したレターパックライトが受取拒絶で告訴
センターに届いたことから、同月20日、請求人に対し、告訴センターから電話を
かけ、不受理の理由等を説明するため、請求人に対して来庁を求めたが拒否された
ので、不受理の理由を伝えるも理解は示されなかった。
同月24日、今後、複数回のやりとりが予想されたことから、不受理の理由を記
載した文書を同封の上、告訴状をレターパックライトよりも安価な特定記録郵便
で返送した。
同月25日、請求人から告訴センター宛に電話があったが、告訴センター係員が
不在であったため、同月26日、請求人に対して電話をかけたところ、郵便物の在
中物を確認する内容であったため、告訴状を返送したと伝えた。
同年7月1日、請求人から告訴状が在中した特定記録が受取拒絶で告訴センタ
ーに届いたことから、同月9日、不受理の理由を記載した文書を同封の上、告訴状
を特定記録郵便で返送した。
同月16日、請求人から告訴状が在中した特定記録が受取拒絶で告訴センターに
届いたことから、同月26日、今後、受取拒絶の場合は告訴状ではなく資料として
保管する旨を告訴センターから請求人に電話をかけて伝えた上、同内容の趣旨を- 11 -
記載した文書を同封し、告訴状を同月30日に特定記録郵便で返送したところ、同
年8月5日、請求人から告訴状が在中した特定記録が受取拒絶で告訴センターに
届いた。
ウ 「第5監査の実施-3 監査対象箇所への調査-⑸ 告訴人との具体的なやりと
りの状況及び本件告訴状の取扱いについて-イ 告訴人への郵送に要した郵送料
はどのようになっているか。」のとおり、本件告訴状の不受理に伴う返送に際し告
訴センターから4回郵送しており、1回目はレターパックライトを用いて 370 円
の郵送料を要した。2回目以降は定形郵便・特定記録を用いており、この場合県警
察本部警務部総務課が県警察本部の郵送物をまとめて発送しているため、個別の
郵送料金の明細等はないが、本件郵送物の重量から算出すると1通につき254円、
3通で計762円と認められ、大量発送による料金の割引はなかったことから、4回
の郵送料は合計1,132円と認められる。なお、金額は発送時点のものである。
2 判断の理由
本件監査請求に関し、「1 認定した事実」を踏まえ、知事が警察職員に対する損害賠
償請求権の行使を怠っているか否かについて、以下のとおり判断した。
本件監査請求において、請求人は、請求人が告訴センターに提出した告訴状は犯罪捜
査規範63条に基づき受理しなくてはならない公用文書であるため、警察職員がこれを
受理せずに請求人に返送することは公用文書等毀棄罪に当たり、受理する意思がない
請求人に対する告訴状の返送に要した郵送料相当額は県の財産の損失であるため、知
事は警察職員に損害賠償請求権を行使しなければならない、と主張している。
⑴ 本件告訴状を不受理としたことの妥当性について
告訴を受理しないことについて、昭和59年12月14日大阪高裁決定は「刑事訴訟
法第230条は、犯罪により害を被った者は、告訴をすることができる旨を定めている
けれども、告訴権は犯罪捜査の端緒として認められていることから考えて、その申立
の内容その他の資料から判断して、申立にかかる犯罪が成立しないことが明らかで
あるような場合には、申立を受けた検察官あるいは司法警察員において、告訴として
受理することを拒むことができると解するのが相当である」と判示している。
こうしたことを踏まえ、「1 認定した事実-⑴ 告訴状の不受理について-ア」のと
おり、取扱要綱においても、告訴の要件を満たしていない場合又は犯罪事実が成立し
ないと認める場合は、告訴を受理しないものとすることが定められており、総括室で
は、通常の告訴状に係る運用においても、申告している犯罪事実が不明確で、犯罪事
実の申告とは言えないもの、明らかに罪とならない事実を告訴事実とするもの、申告
に係る犯罪事実につき、既に公訴時効が完成しているもの及び処罰を求める意思の
存否が不明確であるものなどに当てはまる場合は告訴を不受理としていることから、
犯罪捜査規範第63条第1項において、「司法警察員たる警察官は、告訴、告発または
自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に- 12 -
定めるところにより、これを受理しなければならない」と定められているとしても、
必ずしも全ての告訴状を受理しなくてはならないとはいえない。
「1 認定した事実-⑴ 告訴状の不受理について-ウ」のとおり、告訴センターは、
本件告訴状を不受理と判断するに当たり、告訴状で主張されている神奈川会の処分
公表の根拠となる処分規則と別件控訴審判決等を確認し、「1 認定した事実-⑴ 告
訴状の不受理について-エ」のとおり、本件告訴状で述べられている処分公表は神奈
川会の正当業務行為であり、別件控訴審判決の趣旨を踏まえると、違法性阻却事由が
認められると判断し、令和6年6月12日に不受理を決定した。
別件控訴審判決は、神奈川会に所属する行政書士であり、神奈川会から会費の滞納
を理由に会員の権利を2年間停止する処分を受けた控訴人が、上記処分に関する事
項を公表した日本連合会に対し、その公表行為が控訴人に対する不法行為を構成す
ることを主張し、争ったものであり、本件告訴状における処分公表との状況の一致が
認められる。
判決においては、「行政書士として登録されている控訴人は、公表規則に従うべき
義務を負い、公表規則の条項に基づいて処分に係る情報が公表される限りこれを受
忍する義務を負っているというべきであるから、その公表行為が控訴人の社会的評
価を低下させるものであったとしても違法性を欠くものというべきである」、「公表
規則による行政書士に対する処分に関する事項の公表が、権利義務又は事実証明に
関する書類の作成を行政書士に依頼しようとする者に対し、当該行政書士が信任し
得るかどうかを判断するのに必要な情報を提供する趣旨の制度」であり、「本件公表
も公表規則に基づくものであるから、公共の利害や公益目的とも関連するし、控訴人
が会費を滞納したこと及びこれを正当化することができ」ず、よって、「本件公表に
は名誉棄損行為としての違法性阻却事由が認められる」と判示されており、本件事案
と照らし合わせても、神奈川会に所属する行政書士が処分規則により処分され、処分
に関する事項の公表について名誉棄損を主張している状況は判決と一致しているた
め、同一の見解が適用できると認められる。
したがって、告訴センターが本件告訴状を不受理と判断したことは妥当であった
と認められる。
⑵ 本件告訴状を返送したことの妥当性について
「1 認定した事実-⑵ 告訴状の返送について-ア」のとおり、不受理の告訴状を保
管することは受理されたものと請求人が勘違いし、後々紛議になる可能性があるこ
とから、配達状況を確認できるレターパックライトや特定記録郵便等により返送す
ることとしている。また、取扱要綱において、告訴を受理しないときは、不受理の理
由等を十分に説明するとされていることから、「1 認定した事実-⑵ 告訴状の返送
について-イ」のとおり、レターパックライトを用いて、不受理の理由を記載した文
書を同封の上、告訴状を返送したことは、取扱要綱等に沿ったものであり、妥当であ
ったといえる。
また、その後、「1 認定した事実-⑵ 告訴状の返送について-イ」のとおり、請求- 13 -
人が受領拒否した告訴状を定形郵便・特定記録を用いて3回返送したことについて
は、請求人に対する説明責任及び、告訴状返戻の目的を果たすために必要であり、ま
た、過去の例から、郵送で告訴状を返戻する場合は4回までの返送で受領されている
ことからも、過剰に返送を繰り返したともいえないことから、妥当であったといえる。
そのため、上記の4回の返送に伴い、「1 認定した事実-⑵ 告訴状の返送について-ウ」のとおり、合計1,132円の郵送代は、職務の遂行に当たり、必要な支出であっ
たと認められる。
したがって、県は警察職員に対する損害賠償請求権を有していないため、知事が損
害賠償請求権を行使せず、違法又は不当に財産の管理を怠る事実は存在しない。
3 結論
以上のことから、警察職員に対する損害賠償請求権を有せず、知事が違法又は不当に
財産の管理を怠る事実は存在しないため、本件監査請求には理由がない。 - 14 -
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。