恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対処の徹底について(通達)(警察庁)
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対処の徹底につ
いて(通達)
ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等をはじめとする恋愛感情等のもつれ
に起因する暴力的事案は、加害者の被害者に対する執着心や支配意識が非常に強い
ものが多く、加害者が被害者やその親族等(以下「被害者等」という。)に対して
危害意識を有している場合には、検挙されることを顧みず大胆な犯行に及ぶことも
あるなど、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいものである。この
種事案の対処に当たっては、「人身安全関連事案への対処体制等について(通
達)」(令和6年5月15日付け警察庁丙少発第32号ほか。以下「対処体制通達」と
いう。)に基づく対処のほか、下記事項に留意しつつ、迅速かつ的確な対処を徹底
されたい。
なお、「恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対応の徹
底について(通達)」(令和6年3月28日付け警察庁丙人少発第23号ほか)は廃止
する。
記
1 組織的かつ継続的な対処の徹底
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案は、事態が急展開して重大事件に発
展するおそれが大きいこと等の特徴があることを十分理解した上で、この種事案
への対処に当たっては、被害者等の安全の確保を最優先に、刑罰法令を駆使した
加害者の検挙等による加害行為の阻止、一時避難等による被害者等の保護措置等、
組織的かつ継続的な対処を徹底すること。
2 本部対処体制における対処
(1) 本部対処体制における指導等
本部対処体制(対処体制通達3(1)の「本部対処体制」をいう。以下同じ。)
は、警察署から速報のあった事案について、必要に応じて警察本部の関係課と- 1
連携の上、警察署長による事案の認定及び危険性・切迫性の評価、対処方針及
び署対処体制(対処体制通達3(2)の警察署における対処体制をいう。以下同
じ。)の決定並びにその後の継続的な管理状況等について、警察署に対し指導
・助言を行うとともに、事案に応じて現場支援要員の派遣等必要な支援を行う
こと。
また、警察署において、相談に係る行為が刑罰法令に抵触すると認められる
にもかかわらず事件化しないこととする場合には、その対処の適否を判断し、
必要な措置が執られていないと認めるときには、当該警察署に対して速やかに
指導を行うこと。
さらに、警察署から速報のあった事案については、本部対処体制において、
報告受理の都度、各種照会業務により照会を行い、当該加害者に係る過去の取
扱状況や、加害者が他の都道府県において、恋愛感情等のもつれに起因する暴
力的事案の当事者となっていないかどうかについて確認を行うこと。
(2) 関係場所が複数の都道府県にわたる事案への対処
ア 事案認知時の対応
認知した恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に関係する場所が複数
の都道府県にわたるものについては、関係都道府県警察が連携を密にして確
実に情報を共有すること。この場合において、当該事案の対処に当たってス
トーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号。以下「ストー
カー規制法」という。)等に基づく行政措置を講じる必要性を認めるときに
は、関係する都道府県警察間において協議の上、当該措置の実施に向けた調
整を主導的に行う主管警察本部を決定すること。
イ 連絡担当者の指定
関係都道府県警察間の情報共有は、本部対処体制において恋愛感情等のも
つれに起因する暴力的事案を担当する警視又は警部の階級にある者1名以上
を連絡担当者に指定し、原則として緊急時も含め当該連絡担当者相互間で行
うこと。
連絡担当者は相互の密接な連絡体制を維持するものとし、事案に係る関連
情報を認知した本部対処体制は、その連絡担当者を介し、他の関係する警察
本部の連絡担当者全員に対し、即時にその旨を連絡することとし、連絡を受
けた警察本部においても、関係警察署において即応態勢を確立するなどによ
り対処すること。
ウ 被害者等の立場に立った対応
継続的に対処している事案の被害者等が県外に転居したとの情報又は他の
都道府県警察で対処している事案の被害者等が転居してきたとの情報を把握- 2
した本部対処体制は、当該被害者等の求めに応じた切れ目のない保護措置が
講じられるよう、関係警察本部間の情報共有を徹底するとともに、関係都道
府県警察と連携して被害者等の保護措置に当たること。
ストーカー規制法の警告等については、これらに係る申出をした者の住所
若しくは居所若しくは行為者の住所等の所在地又は当該行為が行われた地を
管轄する警察本部長等又は公安委員会が行うこととされている(同法第14
条)ところ、警告等の申出があった場合には、申出人の保護に最も資するの
はどこかという観点から、警告等の主体を決定すること。
被害届の受理に関しては、犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第
2号)第61条において、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどう
かを問わず受理しなければならないとされているところ、被害の届出の申出
を受けた都道府県警察は、被害者の便宜を十分に考慮し、関係都道府県警察
と相互に連絡するなどして適切に対応すること。
3 警察署における対処
(1) 相談等への対応
ア 生活安全部門と刑事部門の連携
対処体制通達4(4)において、人身安全関連事案に係る相談等への対応に当
たり、生活安全部門の担当者と刑事部門の担当者が共同で聴取を行うことと
している。したがって、より的確な判断に資するため、恋愛感情等のもつれ
に起因する暴力的事案に係る相談等について、その内容や相談等に至る経緯
等からみて明らかに刑罰法令に抵触せず事件性が認められない場合、危険性
・切迫性が認められない場合等を除き、原則として、両部門の担当者が共同
で聴取を行うこと。
なお、共同で聴取した結果、その時点では事件性等が認められず生活安全
部門において継続的に相談を受けることとなった事案及び生活安全部門にお
いて事件化することとした事案についても、刑事部門の担当者は、生活安全
部門の担当者からの要請に基づき、引き続き共同で相談等への対応に当たる
こと。
イ 制度等の教示
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の相談等への対応に当たっては、
別に定める意思決定支援手続に基づき、可能な限り早期に、被害者に対し、
執り得る刑事手続及び証拠の確保のために必要な事項並びにストーカー規制
法又は配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年
法律第31号)に基づき執り得る措置について、それぞれの要件とその効果等
を確実に説明し、積極的な意思決定を支援するとともに、有事の際に110番通- 3
報すべき旨や自衛手段も教示すること。
ウ 被害者の親族等との協力等
被害者の中には、被害の届出をするか否かを決めあぐねる者が見受けられ
ることから、可能な限り、親族等の協力を得て被害者に被害の届出を促すと
ともに、加害者の行為が被害者の親族等にまで及ぶ可能性もあることから、
その親族等に対し、警察の執り得る保護を含めた措置と被害防止上の注意事
項を教示すること。
(2) 警察署長及び本部対処体制への速報
警察署において恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案を認知した場合及
び当該事案に係る危険事象(対処体制通達4(1)の「危険事象」をいう。)を認
知した場合には、その全てについて、警察署長に速報するとともに、並行して、
本部対処体制に速報すること。
なお、例えば、元交際相手との金銭貸借をめぐるトラブルのように、直ちに
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案であると認定することが困難な事案
も含まれることに十分留意し、警察署長及び本部対処体制への報告は幅広に行
うこと。
(3) 警察署長による指揮
ア 組織的な対処の徹底
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る相談等については、加害
者の検挙措置等と被害者等の保護措置等を並行して実施する必要性が高い場
合が多いことから、警察署長以下の幹部が相談事案に関する情報を共有し、
被害者にとって最も適切な解決策を講じる必要がある。
したがって、(2)の速報を受けた警察署長は、事案の内容を正確かつ詳細に
把握した上で、対処体制通達3(2)によりあらかじめ指定している人身安全統
括責任者のほか、必要と認める課長等の補佐を受けるとともに、本部対処体
制の指導・助言を受けて、速やかに当該事案の対処方針及び署対処体制を決
定すること。
対処方針及び署対処体制を決定した際は、本部対処体制に報告するととも
に、その後も、対処の経過を本部対処体制に随時報告し、署対処体制を見直
した場合には、新旧の担当者間で当該事案に関する情報を確実に引き継ぐよ
う指示すること。
イ 危険性・切迫性の評価と即応態勢の確立
当該事案の危険性・切迫性の評価及び事件性の的確な判断に当たっては、
被害者等から加害者の具体的言動等を十分に引き出すとともに、危険性判断
チェック票を活用するなどにより、組織的に実施すること。特に、- 4
(ア) 加害者において、被害者等又は自己の生命・身体に対する危害言動があ
る。
(イ) 加害者において、被害者等へ物理的に接近しようとする行為がある。
(ウ) 加害者の居所が定まらず、又は所在不明である。
(エ) 加害者について、過去に粗暴犯や凶悪犯の犯罪歴や110番通報等による取
扱いがある。
(オ) 近隣住民その他関係者等から(ア)~(ウ)のような内容の相談が複数にわた
りなされている。
等の危険事象を認知した場合には、警察署長は即応態勢を確立し、本部対処
体制と連携しながら対処すること。また、複数にわたる相談等がある事案に
ついては、個々の相談等ではなく、事案の全体像を俯瞰的に捉えて危険性・
切迫性を評価すること。
ウ 事件化の判断等
相談事案に係る行為が刑罰法令に抵触するにもかかわらず、被害者等に被
害の届出の意思がない場合、これをそのまま受け入れるのではなく、事件化
を図らない場合に起こり得る事態について、被害者等に対して十分に説明し
た上で、被害者等に被害の届出の働き掛け及び説得を行い、説得等にもかか
わらず被害の届出をしない場合であっても、警察に相談をするに至っている
という事情を十分酌み取り、事案の危険性・切迫性を見極めること。警察署
長は、担当者が被害者に被害の届出の意思がなく事件化を図らないと判断し
た場合には、更に慎重な検討を加え、事案を見極め事件化の要否を判断する
こと。
なお、被害者等の真意を酌み取り、より正確に当該事案の危険性・切迫性
を評価するため、相談場所、対応者、同伴者を同席させるかどうかなどの対
応方法等に十分配意し、被害者等がより相談しやすい環境を確保すること。
(4) 被害者等の保護措置
ア 保護措置の徹底
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への対処に当たっては、事案を
認知した段階から終結に至るまで、その危険性・切迫性を正確に評価し、被
害者等の生命・身体の安全の確保のための措置を最優先に講じる必要がある。
したがって、危険事象を認知した場合には、被害者等を帰宅させることな
く、安全な場所へ速やかに避難させることとし、やむを得ない事情があり避
難させられない場合には、被害者等の身辺の警戒等の措置を確実に行うこと。
また、危険性・切迫性が高いことを否定できないとき、又は判断できないと
きについても、危険性・切迫性が高いものとみなして、同様に対処すること。- 5
あわせて、被害者等の避難措置を円滑に行うため、当直時間帯においても、
確実に、女性相談支援センター、配偶者暴力相談支援センターその他関係機
関・団体と連携し、一時避難等安全確保のための措置が適切に執られるよう、
平素より緊密な協力関係を確立しておくとともに、各都道府県警察における
「被害直後における犯罪被害者等への一時避難場所の確保に係る公費負担制
度」の積極的な活用、避難措置及び身辺警戒の実施のほか、110番緊急通報登
録システムへの登録、ビデオカメラや緊急通報装置等の資機材の積極的な活
用等、できる限りの保護措置を講じること。
イ 加害者に対する指導・警告等の実施
刑事事件として立件が困難と認められる場合であっても、被害者等に危害
が及ぶおそれがある事案については、速やかに加害者を呼び出し、必要に応
じて担当者が赴くなどして、事情聴取や指導・警告を行うこと。その際には、
加害者の言い分に耳を傾けつつ、加害行為をしていることの自覚を促すなど、
沈静化を図る観点からの対応にも配意すること。
なお、加害者への対応に当たる際には、被害者等の安全が確保されている
かを常に念頭に置いておくよう、職員への指導を徹底すること。特に、加害
者への接触の時期や方法については、加害者の性格、加害者と被害者等との
これまでのやりとりや接触状況等を踏まえつつ、加害者が警察の関与に対し
反発や逆上するおそれを十分に考慮し、加害者の現状を可能な限り把握した
上で決定するものとする。
また、相談事案について事件化し、又は加害者に対する警告等を行った後
は、加害者の再犯性や報復のおそれの有無等を考慮し、再被害防止対象者に
指定するなど、被害者等の保護措置の万全を図ること。
(5) 各種照会等の実施
警察署長は、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案を取り扱った担当者
に対して、「警察共通基盤システムにおける相談業務・人身安全関連業務等シ
ステムによる横断照会等実施細則」(令和5年12月15日付け警察庁丁人少発第1
531号ほか別添)に基づく照会を行わせるなどして、当該事案の加害者に係る過
去の取扱状況や、加害者が他の都道府県において、恋愛感情等のもつれに起因
する暴力的事案の当事者となっていないかどうかについて、確実に確認を行う
こと。
また、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る相談等を受理した場
合には、おおむね受理した翌日までに、「警察共通基盤システムにおける相談
業務・人身安全関連業務等システムによる相談情報管理業務実施要領」(令和
5年12月15日付け警察庁丙企画発第62号ほか別添)に基づく相談情報管理業務- 6
又は「警察共通基盤システムによる相談情報管理業務実施要領」(令和5年12
月15日付け警察庁丙企画発第61号ほか別添)に基づく相談情報管理業務への登
録を行うこと。
なお、「警察共通基盤システムにおける相談業務・人身安全関連業務等シス
テムによる人身安全関連事案に係る情報管理業務実施要領」(令和5年12月15
日付け警察庁丙人少発第42号ほか別添)に基づく情報管理業務を行っている都
道府県警察にあっては、同情報管理業務への登録を併せて行うこと。
(6) 夜間等の当直体制時や交番・駐在所における相談受理時の措置
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る相談等については、夜間等
の当直体制時や交番・駐在所において受理する場合が少なくないところ、そう
した場合においても、当該相談等を取り扱った担当者は、警察署長及び本部対
処体制に速報し、必要な指揮等を受けること。また、警察署長の指揮等を受け
るいとまがなく緊急の措置を執る必要があると認められるときは、当該措置を
執った上で、実施した措置について速やかに報告し、必要な指揮等を受けるこ
と。
4 関係機関との連携
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案に係る危険事象をいち早く認知し、
被害の未然防止・拡大防止を図るため、関係行政機関、民間団体、学校等と緊密
な連携を確保すること。
5 教養の徹底
(1) 全ての職員に対する教養
恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案は、相談窓口のみならず、110番通
報や被害届の受理といった種々の警察活動の過程で認知し、対応する可能性が
あることから、全ての職員に対して、本通達及び対処体制通達に記載の事項に
ついての教養を実施すること。特に当直責任者に対しては、警察署長及び本部
対処体制への速報要領等に関する教養を徹底すること。
(2) 担当者に対する教養
警察署及び警察本部において恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案を担
当する者に対しては、ストーカー規制法等関係法令に関する教養を行うととも
に、本通達及び対処体制通達に記載の事項について周知を徹底すること。また、
都道府県警察学校において、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案対策に
係る専科教養を実施するなど、この種事案に対して、より迅速かつ的確な対処
が執られる教養を推進すること。- 7
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。