捜査員のための被害者等対応要領の改正について(通達)(警察庁)
捜査員のための被害者等対応要領の改正について(通達)
、「
捜査員による被害者等への対応については 捜査員のための被害者等対応要領の制定に
」
ついて (平成30年2月13日付け警察庁丙刑企発第31号ほか。以下「旧通達」という )等
、 、 、「
。
に基づき実施しているところ この度 別添のとおり 捜査員のための被害者等対応要領
を改正したので、各都道府県警察においては、それぞれの被害者等対応の実情を勘案しつ
つ、引き続き被害者等への的確な対応に努められたい。
なお、本通達の実施に伴い、旧通達は廃止する。
」
別添
捜査員のための被害者等対応要領
第1 はじめに
警察は、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持することをその責務とし
ており、犯罪の捜査により、被疑者を検挙し、事案の真相を明らかにするとともに、被害
者及びその家族又は遺族(以下「被害者等」という。)の犯罪被害等を軽減し、犯罪によっ
て侵害された状況を改善することにより、被害者等が平穏な生活に戻ることができるよう
努めることは、警察に課せられた重要な責務である。犯罪捜査を通じて、被害者等と最も
接する機会が多い刑事警察にとって、犯罪捜査の過程における犯罪被害者等支援は、重要
な任務の一つである。
警察では、これまでも被害者等の保護、支援等に努めてきたところ、犯罪被害者等支援
を更に推進するには、犯罪被害者等支援担当部門との連携を図りながら、捜査過程におけ
る被害者等の負担の軽減と二次的被害の防止に取り組むことが肝要であることから、本要
領を定めたものである。
第2 基本的事項
1 被害者等の心情の理解及び人格の尊重
(1) 被害者等の心情の理解
被害者等は、その直接的な被害に加え、精神的、経済的な被害も受けており、被
害を受けた事件に係る刑事手続、犯罪被害者等支援制度等に関する情報提供を含め
た各種支援を必要としている被害者等が多数認められる。
そのため、個々の被害者等の立場や心情の理解に努め、これを踏まえた適切な対
応を講じなければならない。
(2) 被害者等の人格の尊重
、
、「
捜査を行うに当たっては 犯罪捜査規範においては 被害者等の心情を理解し
その人格を尊重しなければならない 第10条の2第1項 とされているほか 個
、
。」(
)
、「
人の基本的人権を尊重しなければならない (第2条第2項)とされているが、こ
。」
れは被疑者のみならず、被害者についても当然に当てはまるものである。
また、犯罪被害者等基本法においても 「すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳が
、
重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する (第3条第1
。」
項)とされているところ、被害者等は被疑者の検挙のみならず、被害の軽減・回復
や再被害の防止についても警察に大きな期待を寄せており、警察こそが被害者等の
人権の第一の擁護者でなければならない。
2 二次的被害防止の重要性の理解
捜査過程における捜査員の被害者等への対応が不適切であれば 直接の犯罪被害 一
、
(
次的被害)に加えて、精神的負担等の「二次的被害」を与えかねず、万が一 「二次
、
的被害」を与えてしまうようなことがあれば、捜査活動に対する理解と協力を得るこ
とが難しくなり、結果として、被疑者の検挙も困難になりかねない。
捜査員は、被害の認知から被疑者の逮捕、事件の送致及び起訴に至るまでの犯罪捜
査の過程において、被害者等の立場やニーズに配意をするとともに、事情聴取等の手
続において受ける時間的、精神的負担を少しでも軽減するよう取り組み 「二次的被
、
」
。
、 、
害 の防止に努めなければならない そのためには 常に 被害者等の尊厳を重んじ
その心身の状態に十分に配慮することが肝要である。
(参考)
〈被害者の心的外傷後ストレス障害の例〉
、
(
、
・ 事件に関連する苦痛な記憶の反復的 不随意的な再起 事件に関連することが
繰り返し自分の意思とは関係なく思い起こされること等)
・ 反復的で苦痛な夢(内容が事件と関連している夢)
* 子供の場合ははっきりしない恐ろしい夢の場合もある。
、
・ 事件に関連する出来事を思い出させる活動や状況の持続的回避(事件現場を通
ることができなくなるなど)
・ 事件に関連する重要な局面の想起不能、持続的で過剰に否定的な信念や予想、
重要な活動への興味の減退、孤立感
・ 人や物に対する攻撃性やいらだたしさや激しい怒り、自己破壊的な行動、睡眠
障害、集中困難の発生
* このような症状の持続が、事件に関連する出来事にさらされてから、最短で
も3日から、最長1か月の間に見られる場合に 「急性ストレス障害」と診断
、
されることがある。
* 症状が1か月を超えて持続する場合 「PTSD(心的外傷後ストレス障害 」と
、
診断されることがある。
〈犯罪による二次的被害の例〉
・ 医療費の負担や失職、転職等による経済的困窮
)
・ 捜査や裁判の過程における不用意な言動等による精神的な負担
・ 周囲の人々の無責任な噂話やマスコミの取材、報道によるストレス、不快感
3 被害者支援の全体像の理解
捜査過程における被害者等への対応は、そのまま被害者支援に結びつくことを念頭
に置いて、被害者支援の全体像を理解することが必要である。
主な内容としては、
・ 捜査過程における被害者等への適切な対応
・ 被害者等への「被害者の手引」の配布等の適切な情報提供
・ 被害者への初診料、診断書料、緊急避妊費用等の公費による負担
・ 被害者等へのカウンセリング等の精神的ケア
・ 警察署地域警察官による訪問・連絡活動の実施に関する要望の有無の確認
・ 被害者連絡の実施及び被害者等からの問合せへの対応
・ 地方公共団体、犯罪被害者等早期援助団体を始めとする関係機関・団体等との連携
等がある。
第3 初動捜査における被害者等対応要領
1 臨場の際の留意事項
被害直後又は被害後比較的時間が経っていない場合は、事情聴取に先立って被害者
の怪我等の程度を確認した上、治療等が必要であれば、それを優先させなければならない。
重大事件であるほど、捜査員の誰しもが早期に犯人を検挙したいと思う余り、被害
者等への配慮を欠くおそれもあるので注意を要する。
《現場臨場時におけるチェック項目》
□ 死亡が明らかな場合を除き、人命救助、治療のための措置(救急車の手配、性
犯罪被害者が医療機関へ行く際の付き添い等)を適切に行っているか。
□ 性犯罪被害を認知し、被害者の自宅等に車両で赴く場合、可能な限り私服で一
般車両と見分けのつきにくい車両を使用するなどの配慮をしているか。
2 被害者等から事情聴取する際の留意事項
(1) 被害者等は、発生直後は、事件をどう受け止めたらよいのか分からず、混乱に陥っ
ていることがある。
被害者等からの被害申告等を受ける場合には、被害者等のこうした精神状態を理
解した上で、被害者等が落ち着くことができるような言葉を掛けるといった配慮が
必要である。
また、被害者等は、直接的な被害のほか精神的にもダメージを受ける。例えば、
不眠、動悸、食欲低下、震え等の身体的反応のほか、不安や恐怖、無力感、緊張や
いらだちを覚えるなど精神的反応を呈す場合がある。このため、ときとして事情聴
取に的確に対応できないこともあることを理解しておかなければならない。
さらに、強い精神的ショックを受けた際の反応として、被害者等は自分があたか
も外部の傍観者であるかのような感覚や、現実感が消失したような感覚を持続的に
体験することがある。そのため、事情聴取の際に、被害者が、精神的ショックを受
けているか否か分かりづらいことがある点にも留意する必要がある。
一方、被害者等への配慮とともに、捜査上必要な事項の把握や証拠保全のための
被害者等への協力依頼は、的確に行わなければならないため、個々の被害者等の状
態に応じた適切な対応ができるよう、特に精神的ショックが強いと認められる犯罪
の被害者等については、事件発生後早期の段階で犯罪被害者等支援担当部門と情報
を共有し、対応上の留意点を検討・確認すること等が必要である。
(2) 性犯罪被害に係る届出や相談があった場合には、被害者の立場に立ち、また、正
確な医学的・心理学的知識に基づき、被害者の被害状況、体調等について配意しな
がら、医療機関への早期受診を促す必要性等を判断するとともに、証拠の保全等の
必要な事項についても丁寧に説明しなければならない。
また、事情聴取に当たっては、被害直後の被害者は、被害状況を正確に想起した
り、整理して説明することが難しい状態にあり、時系列に沿った説明も困難な場合
があることを念頭に置く必要があるほか、薬物の影響によって、意識があるように
行動していても被害時の記憶が欠落している場合もあり、こうした「薬剤性の健忘
症状」にも十分留意する必要がある。
なお、被害者の申立て内容等から、薬物の使用が疑われる場合には、速やかな証
、
、
拠保全の必要性を説明し 被害者の同意を得た上で 採尿や採血を行う必要がある
(3) 被害届の受理に当たっては、その内容が明白な虚偽又は著しく合理性を欠くもの
。
である場合を除き、迅速・確実に受理するなど、被害者の立場に立って適切に対応
しなければならない。
また、性犯罪被害に係る届出や相談しやすい環境の整備に努めることも忘れては
ならない。
(4) 被害者等に対し、複数の捜査員が入れ替わり立ち替わり同じことを聴取するよう
なことは厳に慎み、被害者等の事情聴取に当たる担当者を選定して事案の概要及び
手配に必要な事項を優先的に聴取し、聴取した事項等を組織で確実に共有すること
により、被害者等に負担をかけないように配慮する必要がある。
3 被害者等のプライバシー等に対する配慮
(1) 自分が被害に遭った事実自体も周囲に知られたくないと思う被害者も少なくない
ことから、被害者等からの事情聴取を行う場合は、報道機関や近隣住民等の視線に
さらされないようにするなど、被害者等のプライバシーの保護に配慮しなければな
らない。特に、性犯罪の被害者に関しては、各種捜査活動において、情報の取扱い
に細心の注意を払うとともに、実況見分等の捜査活動や医療機関への付添い等の警
察施設外における活動の際は、可能な限り目立たないように配意する必要がある。
また、警察施設内であっても、被害者からの事情聴取等に際しては、被害者のプ
ライバシーが十分守られ、被害者が安心できる環境において行うように配慮しなけ
ればならない。
(2) 被害者等に対しては、被害届を出したからといって、直ちに事件の内容が報道さ
れるものではないことを説明し、報道に対する不安を払拭することにより、安心し
て事情聴取に応じられるように努めなければならない。
また、どのような形で取材が行われる可能性があるかを教示するとともに、報道
機関による集中的な取材が行われることが予想される場合には、犯罪被害者等支援
担当部門と連携の上、親族の家やホテル等に一時的に身を寄せるなどの助言等を行
うことも重要である。
さらに、警察においても、事件の内容を含めた被害者に関する情報の報道発表に
ついては、その可否や内容について慎重に検討を行った上で、被害者の意向にも特
段の配慮が必要である。
(3) 聞き込み捜査等においては、聞き込み先等の者が、被害者等や被害内容について
推知又は憶測することによって、被害者等の名誉が侵害されるおそれがあることに
留意し、被害者等に関する情報の取扱いに最新の注意を払わなければならない。
(4) 再被害防止への配慮が必要な事案については 「再被害防止への配慮が必要とさ
、
れる事案における逮捕状の請求等について (平成31年3月25日付け警察庁丁刑企
」
発第65号)に基づき、逮捕状請求の段階において、被疑者に知られるべきでないと
思われる被害者等に関する情報を被疑事実の要旨に記載しないなどの対応が必要で
ある。
(参考)
〈被害者のプライバシー保護に関する規定の例〉
○ 刑事訴訟法第196条
検察官、検察事務官及び司法警察職員並びに弁護人その他職務上捜査に関係のあ
る者は、被疑者その他の者の名誉を害しないように注意し、且つ、捜査の妨げとな
らないように注意しなければならない。
○ 犯罪捜査規範第9条第1項
捜査を行うに当たっては、秘密を厳守し、捜査の遂行に支障を及ぼさないように
注意するとともに、被疑者、被害者その他事件の関係者の名誉を害することのない
ように注意しなければならない。
《被害者等のプライバシー等に関するチェック項目》
□ 被害者等の立会いの下に屋外で実況見分を行う場合、周囲から見えにくい場所に
いてもらうなどの配慮をしているか。
□ 被害者等の立会いの下に屋内で実況見分を行う場合、外部からその様子が見えな
いよう、目隠しをする、カーテンや障子を閉めるといった配慮をしているか。
□ 繁華街、交通の要所等において実況見分を行う場合は、可能な限り人通りの少な
い曜日及び時間帯を選定しているか。
□ 性犯罪被害者等で、家族等に対しても被害事実を秘匿する必要がある場合、被害
者と捜査員との接触場所等に関する打ち合わせをしたか。
第4 捜査過程における被害者等対応要領
1 被害者等の呼出し
(1) 警察が被害者等を呼び出すことにより、被害者等は日常生活に影響を受けること
を常に念頭に置き、被害者等の精神的、物理的負担を少しでも軽減するよう配慮し
なければならない。
被害者等の協力が必要な場合は、時間や場所の選定に、可能な限り被害者等の都
合を考慮し、その意向を尊重するとともに、呼出しの目的を明確に説明し、呼出し
の時間・場所及び担当者を確実に伝達しなければならない。
(2) 被害者に連絡を取る場合には、被害者に迷惑が掛かることのないよう、連絡先や
連絡方法に十分配慮することが必要である。
(3) 検察庁から呼出し依頼を受けた場合には、被害者等にその理由を分かりやすく説
明するとともに、必要に応じて送迎についても配慮する必要がある。
《呼出し時におけるチェック項目》
□ 指定した時間に来訪した被害者等を長時間待たせていないか。
□ 指定した時間を変更する場合、被害者等に対し速やかに連絡したか。
□ 警察の都合で度々時間を変更してはいないか。
□ 必要と認められる場合には、被害者の送迎等の便宜を図っているか。
2 被害者等への事情聴取の実施
(1) 被害受理や捜査の過程で、捜査員の不用意な言動により、被害者等が自責の念に
苛まれたり、深く傷ついたり、本当のことを言えなくなってしまったりすることも
皆無ではない。また、被害者等への善意から出た言葉であっても、被害者等をかえっ
て傷つけてしまう場合もあることから、常に被害者等の心情に寄り添った言動を心
掛けなければならない。
よって、捜査員は、必要に応じて、部内外のカウンセラーの専門的知見を借りる
などし、被害者等の心理状態等に対する正しい理解に努めた上で、適切な対応を行
わなければならない。
さらに、強い精神的ショックを受けながらも自ら声を上げることが困難な幼少の
被害者家族及び遺族に対しては、関係部門と情報を共有し、必要な支援につなげる
ことも必要である。
(2) 事情聴取が長時間にわたる場合には、食事や休憩に配慮することはもとより、自
宅等に残されている被聴取者の家族(特に高齢者や幼児)等に対する配意を忘れて
はならない。
(3) 被害者等から、警察に対する要望等が伝えられた際には、組織的に検討して適切
な措置を講じなければならない。
《事情聴取する際のチェック項目》
□ 担当者の氏名等を明らかにして安心感を与えているか。
□ 事情聴取の開始前に「思い出したくないことや、つらいことを聞くかもしれませ
んが、捜査に協力していただけませんか 」等の言葉を掛けるなどして、事情聴取
。
に対する被害者等の十分な理解を得るように努めているか。
□ 面通しをする必要がある場合は、透視鏡等のある部屋を使用するなど、被害者等
と被疑者が直接顔を合わせないように配慮しているか。
□ その場で対応できるものを除き、被害者への対応時に生じた疑問、被害者から受
けた相談事項について、組織的に検討し、適切な対応を講じているか。
□ 事情聴取が終了した際に、謝辞と今後の協力依頼を行っているか。
【性犯罪被害者の場合】
□ 被害者の服装や生活態度等について、不用意な発言をしていないか。
□ 被害者の同意があったのではないか、あるいは被害者側に落ち度があったのでは
ないかなどと捉えられかねない言動をしていないか。
□ 被害者が被害の届出をためらっている場合であっても、証拠保全等の必要な措置
を講じているか。
□ 性犯罪の被害場面の再現が必要な場合は、被害者の体調や心情に配意しながら、
ダミー人形を使用し、又は警察官等が被害者の代役となって実施するとともに、写
真撮影の際に被害者の顔が写らないようにするなどの措置を講じているか。
【重傷傷害の被害者の場合】
□ 身体を楽にした状態で事情聴取を受けられるよう配慮しているか。
□ 医療機関において事情聴取を行う場合、医師等の承諾を得た上で、被害者の容態
を考慮して必要最小限の事情聴取にとどめているか。
3 事情聴取にふさわしい場所の選定
事情聴取に際しては、被害者のプライバシーが確保され、落ち着いて話をすること
ができる場所を選定しなければならない。原則として、相談室、応接室等の被害者等
からの事情聴取にふさわしい場所で行うべきであるが、やむを得ず取調べ室等を使用
する場合は、整理整頓された静かな環境を整え、被害者等に事情を説明した上で理解
を得なければならない。
また、特に性犯罪被害者からの事情聴取に際しては、警察施設への出入りを含め、
可能な限り来庁者や警察職員の目に触れないよう十分配慮する必要がある。
4 性犯罪被害者から事情聴取を行う捜査員の選定
性犯罪の被害者は、犯罪の性質上、事情聴取を行う際には、被害者が希望する性別
の捜査員が対応する必要がある。
また、事情聴取における性犯罪被害者の負担軽減のためには、捜査員個人の人格・
識見や捜査能力も重要であることから、性犯罪被害者の心情を踏まえ、これらを総合
的に検討して、適切に対応できる捜査員を選定すること。
5 性犯罪の被害者が精神に障害を有する場合の留意事項
性犯罪の被害者が精神に障害を有する事案への対応については 「性犯罪の被害者
、
が精神に障害を有する事案における検察との連携の試行実施について (令和4年6
」
月10日付け警察庁丁刑企発第54号ほか)に基づき、障害を有する性犯罪の被害者の負
担軽減及び供述の信用性担保のため、事情聴取に先立って、検察庁との協議を行い、
代表者が聴取を行うほか、聴取の場所、回数、方法等を考慮するなど、当該被害者へ
の配慮が必要である。
6 被害少年に対する適切な支援の実施
、
被害少年への対応については 「被害少年の状況に応じた適切な保護活動の推進に
)」
ついて(通達 (令和4年3月31日付け警察庁丙少発第24号)等に基づき、精神的被
害の回復を図るため、少年補導職員等の専門職員が、被害少年に対して適切な助言を
行うなど必要な支援を実施するほか、必要に応じて、関係機関等への紹介、個々の被
害少年の事情に応じた計画的なカウンセリングの実施、学校等と連携した環境調整等
の継続的な支援を適切に実施すること。
また、こうした支援業務は、担当職員のみでは効果的な実施が困難な場合も多いこ
とから、あらかじめ被害少年アドバイザーとして委嘱している臨床心理学、精神医学
等の助言を必要の応じて受けること。
7 被害児童からの事情聴取における関係機関との連携
児童を被害者とする事案への対応については 「児童を被害者等とする事案への対
、
応における検察及び児童相談所との連携について (令和4年4月1日付け警察庁丁
」
刑企発第22号ほか)に基づき、児童の負担軽減及び供述の信用性担保のため、事情聴
取に先立って検察庁、児童相談所等の関係機関との協議を行い、関係機関の代表者が
聴取を行うほか、聴取の場所、回数、方法等を考慮するなど、児童への配慮が必要で
ある。
8 遺族等に対する説明に際しての留意事項
死体の取扱いに当たっては、例えば、搬送に際し死体収納用の袋を使用して死体が
衆人の目に触れないようにするなど、礼意を失わないように注意するとともに、遺
族等の心身の状況、その置かれている環境等について適切な配慮をしなければならない。
また、司法解剖を行う場合は、遺族等に対しパンフレットを配布の上、司法解剖の
目的、手続等について説明する必要がある。
さらに、遺族等に死体及び所持品を引き渡すに当たっては、その後の犯罪捜査又は
公判に支障を及ぼさない範囲内において、死因その他参考となるべき事項の説明を行
わなければならない。
なお、死体の引渡し時には動揺が大きかったものの、その後時間が経過してから、
当該死体の死因等について改めて説明を受けたいと感じる遺族等もいると考えられる
ことから、死体の引渡し時に担当者の連絡先を教示するなどの措置を講じておく必要
がある。
第5 被害者支援に関する情報提供
1 「被害者の手引」を配布・活用した適切な情報提供
被害者等に対しては、被害者の手引等を活用し、刑事手続や法的救済措置、犯罪被
害者等支援制度等に関する適切な情報提供を行うことが必要である。
事件に遭遇し、困惑している被害者等にとって、この種の情報は、早期かつ包括的
に提供されることが必要であり、特に身体犯の被害者については、その必要性が極め
て高いことから、適切なタイミングで、十分な説明を行わなければならない。
2 地方公共団体、関係機関・団体等との連携
被害者等のニーズは生活上の支援を始め多岐にわたっており、警察においてその全
てに対応することはできず、地方公共団体や医療、福祉等の関係機関・団体等の活動
によるべきもの、あるいは警察がそれらの関係機関・団体等と連携して対応すべきも
のが多い。
そのため、各都道府県公安委員会が指定した「犯罪被害者等早期援助団体 (以下
。)
」
「早期援助団体」という (犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援
。
に関する法律(以下「支援法」という )第23条)のほか 「性犯罪・性暴力被害者の
、
」
ためのワンストップ支援センター (以下「ワンストップ支援センター」という )等
。
の被害者支援団体等と連携の上、当該団体等に関する情報を被害者等に教示するとと
もに、早期援助団体に対する情報提供制度(支援法第23条第4項)を積極的に活用す
ることが重要である。
また、被害者等によっては、専門的なカウンセリングを受けることが必要な場合も
あるため、事件発生後早期の段階で犯罪被害者等支援担当部門と情報を共有し、警察
部内外のカウンセラーやカウンセリングの費用の公費負担制度が適切なタイミングで
効果的に活用されるようにする必要がある。
なお、性的な被害を申し立てているものの、当該事実が犯罪を構成しない場合や犯
罪事実の特定に至らない場合には、当事者に対してその理由を丁寧に説明するととも
に、犯罪被害者等支援担当部門と連携し、ワンストップ支援センター等の関係機関・
団体による支援等へとつなげることが肝要である。
3 被害者連絡の確実な実施
被害者等にとって、事件の捜査状況や被疑者の処分結果等は重大な関心事であるこ
とが多く、特に身体犯の被害者に対するこの種情報の提供は、極めて必要性が高い。
このため 「被害者連絡実施要領の改正について(通達 (令和5年3月16日付け
、
)」
警察庁丙刑企発第8号ほか)に規定する身体犯の被害者等に対しては、同要領に基づ
き、捜査状況等を適切に連絡しなければならない。特に、被疑者の検挙を報道機関に
発表する場合には、事前に被害者等に連絡する必要がある。
また、被疑者又はその関係者から被害者等に対して面会の要望等があった場合の通
報についても指導しておく必要があるほか、可能であれば、判決があった場合、結果
を連絡することも必要である。
《被害者連絡に関するチェック項目》
□ 捜査が長期化する場合、定期的に経過を連絡しているか。
□ 異動等で担当者が交代する場合、確実な引継ぎと被害者等に対する連絡を行ったか。
第6 被害者等の安全の確保
1 被害者等に対する報復の防止
被害者等、特に暴力団犯罪の被害者等は、被害を警察に届け出たことによって被疑
者等から報復を受けるのではないかとの強い不安感を持っていることが多い。被疑者
等による報復が予想される場合には、被害者等の住居地を巡回連絡の受持区とする地
域警察官や関係部門との連携を緊密に行い、被害者等への連絡を励行し、その不安感
の解消と捜査への協力の確保に努めるとともに、被害者等の意向を尊重しつつ緊急通
報装置の設置等の適切な保護対策を講ずることが必要である。
なお、暴力団犯罪の被害者への連絡については 「保護対策実施要綱の制定につい
、
)」
て(依命通達 (平成31年3月28日付け警察庁乙刑発第6号ほか)に基づく保護対策
の実施との調整を図るものとされている。
《被害者等に対する報復の防止に関するチェック項目》
、
□ 機会をとらえ 「犯人等から報復されるのではないかという不安がある場合等
には、すぐに警察に通報してほしい」旨を被害者等に伝えているか。
□ 何らかの保護が必要と認められる場合、組織的に検討の上、必要な措置を講じ
ているか。
□ 暴力団犯罪等の被害者等が犯人からの報復等を受ける可能性が高い場合のみな
らず、つきまとい、いたずら電話(無言電話を含む )等の嫌がらせも含めて被
。
害者等保護の必要性を判断しているか。
2 的確な再被害防止措置の実施
同じ被疑者によって再び危害を加えられるおそれのある被害者等については 「再
」
、
被害防止要綱の改正について (平成31年3月27日付け警察庁丙刑企発第52号ほか)
に基づき、再被害防止対象者に指定し、関係機関等と連携を図り、被害者等に対して
再被害防止に資する関連情報を適切に教示するとともに、防犯指導を行うなどして的
確な再被害防止措置を実施することが必要である。
3 ストーカー事案、配偶者等からの暴力事案への適切な対応
ストーカー事案及び配偶者等からの暴力事案については 「恋愛感情等のもつれに
、
起因する暴力的事案への迅速かつ的確な対応の徹底について(通達 (平成31年3月
)」
29日付け警察庁丙生企発第71号ほか)に基づき、被害者等に危害が加えられる危険性
・切迫性に応じて、第一義的に検挙等により加害者を隔離すること等を検討し、被害
者等の安全確保を最優先とした組織的な対応を図ることが必要である。
《事件化の判断等に関するチェック項目》
□ 被害者に被害の届出の意思がない場合であっても、過去の事例から被害者のみ
ならず親族等にまで生命の危険が及び得ることを十分に説明した上で、被害者等
に被害の届出の働き掛け及び説得を行ったか。
□ 説得等にもかかわらず被害の届出をしない場合であっても、当事者双方の関係
を考慮した上で、必要性が認められ、かつ、客観証拠及び逮捕の理由がある場合
には、加害者の逮捕を始めとした強制捜査を行うことを積極的に検討したか。
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。