ち密な捜査推進対策要綱の制定について(例規通達)(群馬県警)

○ち密な捜査推進対策要綱の制定について(例規通達)
平成2年11月19日
群本例規第18号(捜一・防・備一・交企)
警察本部長
〔沿革〕 平成4年6月群本例規第18号(務)、5年12月第33号(捜一)、6年3月第9号(務)、12年9月第24
号(捜一)、13年3月第5号(務)、15年3月第7号(務)、19年10月第33号(刑企)、22年3月第6
号(務)、24年3月第5号(総企)、25年3月第6号(総企)改正
ち密かつ適正な捜査を組織的、実践的に推進するため、ち密な捜査推進対策要綱を別添
のとおり制定し、平成2年11月20日から施行することとしたから、次の諸点に留意して
その効果的な運用に努められたい。
なお、公判連絡制度運用要綱の制定について(昭和62年群本例規第13号)は、廃止す
る。

1 制定の趣旨
最近、裁判実務の変化、弁護活動の活発化等により、公判廷における自白の信用性・
任意性が争点になることが多く、また、事実認定のち密化傾向もみられるなど、捜査を
取り巻く環境は一段と厳しいものとなっている。
このような情勢に的確に対処するため、重要事件に限らず、日常的に発生するすべて
の事件についても必要な検討を行い、適切な公判対策を推進するとともに、無罪事件等
についても十分な分析検討を行って今後の捜査に生かすなど、ち密かつ適正な捜査を組
織的、実践的に推進することを目的として本要綱を定めたものである。
2 本部要指導事件の報告、指定
(1) 報告
警察署長及び警察本部執行隊長は、その捜査する事件が公判(少年事件における審
判も含む。以下同じ。)において立証上の問題が生じるおそれがあると認めたときは、
当該事件を本部要指導事件として警察本部長(以下「本部長」という。)に報告する
こととしたが、公判において立証上の問題が生じるおそれがあるか否かの判断に当た
っては、形式に流れることなく必ず所要の捜査を尽くした上で行わなければならない。
なお、事件処理等が繁雑になることをおそれ、当該事件の報告を省くことのないよ
う留意すること。
(2) 指定
本部要指導事件の指定は、本部が行うこととしたが、これは、報告を受けた事件に
ついて必要な検討を行い、その結果、公判において将来立証上の問題が生じるおそれ
があると認めた場合には警察署等に対する具体的な指導を行い、事後の公判対策に備
える必要があるからである。
3 本部要指導事件に対する指導
(1) 事件主管課による指導
警察本部による警察署等に対する本部要指導事件の指導は、当該事件の捜査を主管
する課(以下「事件主管課」という。)の管理官、調査官又は課長補佐をもって行う
ものとするが、その指導は捜査指揮ではなく、あくまでも警察署等に対する指導であ
る。したがって、第一次的な捜査又は捜査指揮の主体及び責任は警察署等にあり、事
件主管課の指導は、補完的・補充的立場から行うものである。
(2) 捜査資料の保管
本部要指導事件は、公判において立証上の問題を生じるおそれのある事件であるか
ら、当該事件主管課の指導を受けた上で警察署等が綿密な捜査を尽くしたとしても、
それらの事件の多くは起訴された場合に公判において争われる公算が高い。したがっ
て、公判において何が問題となるおそれがあるのかを常に念頭に置きこれに基づいた
適切な資料を作成し、保管しなければならない。
4 公判対応事件の報告
従来の「公判連絡制度運用要綱」においては、原則として群馬県警察が検察庁に送致
した事件で、かつ、公判維持が危ぐされる事件を「公判連絡対象事件」として公判維持
体制の確立を図っていたが、本要綱の制定に伴い当該事件を「公判対応事件」と改める
こととした。
また、事件主管課における指導体制をより明確にするとともに、対応事件の早期把握
を図るため公判対応事件は事件主管課を通じて本部長に報告することとした。
5 相互の緊密な連携
(1) 事件主管課及び警察署等の連携
事件主管課及び警察署等は、捜査の究極目的が公判に備え、有罪判決又は保護処分
の決定等を得ることであることを十分認識した上で、相互の意思疎通を図り、効果的
に推進するよう努めること。
(2) 事件管理係との連携
事件主管課及び警察署等は、本要綱に基づく諸対策の推進に当たっては、刑事部刑
事企画課事件管理係との連携を密にすること。
6 実践的な研修の実施
新任捜査担当課長研修については、従来から本部各部において実施してきたところで
あるが、今後は、一律的な教養でなく研修対象者の個々の経歴等を勘案し、実態に即し
た効果的な研修を行うように努めること。
7 無罪事件等の多角的な分析・検討
無罪事件や不起訴処分事件の分析・検討については、事件主管課が主体となってこれ
を行うこととしたが、その場合これを不適切事例としてとらえるのではなく、将来の捜
査に生かすとの観点に立ってその原因や教訓事項等を多角的に分析・検討するよう配意
すること。
別添
ち密な捜査推進対策要綱
第1 目的
この要綱は、最近の裁判実務の変化等を踏まえ、ち密かつ適正な捜査を推進するとと
もに、捜査指揮能力の向上を一層充実・強化するため、必要な事項を定めることを目的
とする。
第2 本部要指導事件
1 本部要指導事件の対象
(1) 本部要指導事件とは、警察署長指揮事件(以下「署長指揮事件」という。)の
うち、次に掲げる事件で、将来公判(少年事件における審判を含む。以下同じ。)
において立証上の問題が生じるおそれのある事件をいう。
ア 自白の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
イ 否認事件及び黙秘事件
ウ 被害者、重要な目撃者又は共犯者の供述の信用性に疑いを持たれるおそれのあ
る事件
エ 鑑定結果の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
オ 実況見分、検証の結果等の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
カ 微妙な擬律判断を必要とする事件
キ その他特に公判において立証上の問題が生じるおそれのある事件
(2) 前項各号の判断は、別表第1に掲げる「本部要指導事件一覧表」によるものと
する。
2 本部要指導事件の報告
警察署長及び警察本部執行隊長(以下「署長等」という。)は、その捜査する事件
が本部要指導事件に該当すると判断したときは、本部要指導事件報告書(別記様式第
1号)により、速やかに警察本部の当該事件の捜査を主管する課長(以下「事件主管
課長」という。)を通じて警察本部長(以下「本部長」という。)に報告するものと
する。
3 本部要指導事件の指定及び指導
(1) 本部長は、署長等から前項の規定による報告を受けた事件については、それま
での捜査状況や収集された証拠の内容等について確認、検討を加え、将来、公判に
おいて立証上の問題が生じるおそれがあると認めたときは、本部要指導事件として
の指定を行うものとする。
(2) 事件主管課長は、前記(1)の規定により本部長が本部要指導事件の指定をした場
合は、刑事部刑事企画課長(以下「刑事企画課長」という。)に通報するものとす
る。
(3) 本部要指導事件の検討、指導等は、事件主管課が行い、別表第2に掲げる「本
部要指導事件に対する指導事項」に基づき行うものとする。
この場合、当該事件の捜査状況、収集された証拠の内容及びこれらに基づいて
行うべき指導の内容については、本部各部内の管理官、調査官又は課長補佐(以下
「指導官等」という。)と密接な連絡をとって行うものとする。
(4) 事件主管課長は、前記(3)の規定により行った検討、指導等について、その都度、
刑事企画課長に通報するものとする。
4 事件指導簿の備付け
事件主管課長及び署長等は、事件指導簿(別記様式第2号)を備付け、捜査の状況
及び指導の経過を記録しておかなければならない。
5 捜査資料の保管
本部要指導事件については、捜査資料(未送致のものを含む。以下同じ。)を適正
に保管しておかなければならない。
6 本部長指揮事件に対する対応
捜査主任官は、本制度が創設された趣旨を踏まえ、本部長指揮事件の捜査に当たっ
ても、捜査幹部及び指導官等を交えた当該事件の証拠の綿密な検討、捜査過程の記録
化及び捜査資料の保管に一層配意すること。
第3 公判対応事件
1 公判対応事件の対象
公判対応事件とは、本部長指揮事件、署長指揮事件を問わず、署長等が送致した事
件のうち、次に掲げる事件をいう。
(1) 本部要指導事件として指定され起訴された事件
(2) 公判において否認に転じた事件
(3) 起訴後、検察官から補充捜査又は再鑑定の依頼があった事件
(4) 警察職員が証人として出廷する事件
(5) 第一審において無罪判決の事件
(6) 上訴のあった事件(量刑不当を理由とするものを除く。)
(7) 再審請求事件
(8) その他特に公判対応の必要性があると認められる事件
2 公判対応事件の報告
署長等は、捜査した事件が公判対応事件に該当すると判断したときは、当該事件の
詳細について公判対応事件報告書(別記様式第3号)により、速やかに事件主管課長
を通じて本部長に報告するものとする。
3 公判対応事件の指定
(1) 本部長は、署長等から前記2の規定による報告を受けた事件について事案の内
容を検討し、公判対応の必要性があると認めた場合は、公判対応事件として指定す
るものとする。
(2) 事件主管課長は、前記(1)の規定により本部長が公判対応事件の指定をした場合
は、刑事企画課長に通報するものとする。
4 公判経過等の報告
(1) 署長等は、公判対応事件の争点、捜査経過、公判経過等について、公判対応事
件経過報告書(別記様式第4号)により、事件主管課長を通じて本部長に報告する
ものとする。
(2) 事件主管課長は、前記(1)の規定により、本部長に報告した事項について、刑事
企画課長に通報するものとする。
5 公判連絡総括責任者及び公判総括責任者の指定
(1) 刑事企画課長は、公判連絡総括責任者として公判対応事件に対する組織的な公
判対応を図り、ち密かつ適正な捜査を推進するものとする。
(2) 事件主管課長及び署長等は、公判総括責任者として公判対応事件の争点の把握
に努めるとともに補充捜査の徹底を図るものとする。
6 公判連絡責任者の指定及び任務
公判連絡責任者は、事件主管課にあっては課長補佐、警察署等にあっては、当該事
件を担当する課長、副隊長又は分駐隊長とし、次に掲げる事項について積極的な措置
を講ずるものとする。
(1) 公判対応事件の争点の把握
(2) 公判対応事件の記録及び証拠品の点検と補充捜査
(3) 弁護人等の反証事実の検討
(4) 被害者及び証人対策
(5) 証人出廷者に対する指導教養
(6) 担当検察官との連絡調整
7 公判連絡責任者等との連携
公判連絡責任者相互及び刑事部刑事企画課事件管理係は、本要綱に基づく諸対策の
推進に当たっては常に連絡を密にし、的確な公判対応を図るものとする。
8 証人出廷
(1) 公判連絡責任者は、所属の職員が証人出廷の通知を受けたときは、速やかに召
喚状又は呼出状の内容を所属長に報告するとともに、証人出廷報告書(別記様式第
5号)により事件主管課長に報告するものとする。
(2) 公判連絡責任者は、所属職員の証人出廷結果について、速やかに所属長へ報告
するとともに、証人出廷結果報告書(別記様式第6号)により事件主管課長に報告
するものとする。
(3) 事件主管課長は、前記(1)、(2)の報告を受けた場合には、その内容を刑事企画
課長へ通報するものとする。
第4 新任捜査担当課長研修の充実強化
事件主管課長及び指導官等は、新たに警察署の捜査を担当する課長又は課長代理に任
用した者に対して警察本部に招致し、又は警察署を巡回するなどして、実践的な捜査の
指導・教養を行うものとする。
第5 無罪事件等及び困難な立証に成功した事件の分析、検討等
事件主管課長及び署長等は、無罪事件等及び困難な立証に成功した事件について次の
措置をとるものとする。
1 署長等の措置
署長等は、捜査した事件が次の事件に該当したときは、速やかに事件主管課長に報
告するとともに、刑事企画課長に通報するものとする。
(1) 無罪判決(少年事件における「非行なし」を理由とする不処分決定及び審判不
開始決定を含む。以下同じ。)が出された事件
(2) 被疑者を逮捕(常人逮捕を除く。)した事件及び起訴相当と認めて任意送致し
た事件のうち、「罪とならず」、「嫌疑なし」又は「嫌疑不十分」として不起訴と
された事件
(3) 必ずしも十分な直接証拠がないのにもかかわらず有罪判決を得た事件
2 無罪事件等の分析
事件主管課長又は指導官等は、前項の報告を受け又は自らこれを知ったときは、そ
の原因や教訓事項等を多角的に分析・検討するものとする。
この場合、無罪事件は、無罪事件検討結果報告書(別記様式第7号)、不起訴事件
は、不起訴事件検討結果報告書(別記様式第8号)、困難な立証に成功した事件は、
困難な立証に成功した事件検討結果報告書(別記様式第9号)により分析・検討した
結果を記録しておくものとする。
3 分析・検討結果の活用
前項の分析・検討の結果は、捜査幹部及び捜査員に対する指導教養等に活用するも
のとする。

別表第1
本部要指導事件一覧表
1 自白の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
(1) 自白内容が客観的事実と食い違う事件
(2) 自白の変遷が著しい、又は否認・自白を繰り返している事件
(3) 自白内容が経験則からみて不自然・不合理な事件
(4) 自白の裏付証拠がない、又は著しく乏しい事件
(5) 自首事件のうち、暴力団事件、家庭内の肉親間の事件等、自首した被疑者が替え玉で
あることを疑い得る事件
(6) 余罪に関する自白が、被疑者の過去の手口や客観的事実と食い違う事件等で、これら
の事情がその供述の信用性に影響を及ぼし得ると考えられる事件
(7) 自白の任意性が争われる可能性がある事件
(8) 特異被疑者(精神薄弱者、精神障害者、虚言癖等)の事件
(9) 日本語又は英語が通じない外国人被疑者の事件
2 否認事件及び黙秘事件
(1) 勾留延長時まで否認し又は黙秘し、しかも、前記1(3)から(7)までの要素も否定でき
ない事件
(2) アリバイを主張し又は犯人は別人である等被疑者以外の者が犯人であることを申し立
てている事件
(3) 全面否認ではないが犯行の核心部分について否認している事件
3 被害者、重要な目撃者等の供述の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
(1) 被害者、目撃者等の供述内容が、犯行現場の状況等の客観的事実と食い違う事件
(2) 被害者、目撃者等の供述と他の参考人の供述とが食い違う事件
(3) 被害者、目撃者等の供述の変遷が著しい事件
(4) 被害者、目撃者等の供述内容が、経験則からみて不自然・不合理な事件
(5) 被害者、目撃者等の供述内容があいまいな事件
(6) 被害者、目撃者等の供述の裏付け証拠がなく、又は著しく乏しい事件
(7) 被害者等に特殊な事情(幼児、精神薄弱者、精神障害者、虚言癖等)がある事件
(8) その他
○ 犯行から被害者による届出までに、合理的理由がないのに相当の時間が経過した事

○ 現場が著しく破壊され、又は消滅している事件
○ 訴出人が民事上の訴訟当事者ともなり得る告訴・告発事件
○ 事案の性質上、犯罪現場のない事件
○ 被害者の被害時の状況が特殊であった事件(酩酊、病気、疲労、極度の恐怖、その
他)
○ 能動的な被害等の届出ではなく、警察官やその他の者(両親、友人等)の説得等に
より被害を申告したり、目撃証言を行ったと考えられる事件
等で、これらの事情がその供述の信用性に影響を及ぼし得ると考えられる事件
4 共犯者の供述の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
(1) 共犯者の供述内容が客観的事実と食い違う事件
(2) 共犯者の供述が被害者、目撃者等の供述と食い違う事件
(3) 共犯者間の供述が重要部分において食い違う事件
(4) 共犯者の共犯部分に関する供述の変遷が著しい事件
(5) 共犯者の供犯部分に関する供述内容が、経験則からみて不自然・不合理な事件
(6) 共犯者の共犯部分に関する供述があいまいな事件
(7) 共犯者の供犯部分に関する供述の裏付証拠がなく、又は著しく乏しい事件
(8) 共犯者が特異被疑者(精神薄弱者、精神障害者、虚言癖等)である事件
(9) その他
○ 共犯者の状況が特殊であった事件(酩酊、病気、疲労、極度の恐怖、その他)
○ 被疑者と共犯者が特殊な関係にある事件
等で、これらの事情がその供述の信用性に影響を及ぼし得ると考えられる事件
5 鑑定結果の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
鑑定に付すべき資料そのものが変質をきたしているもの又はその資料の収集過程、保管
方法等の手続に問題があり、これらの事情がその鑑定結果の信用性に影響を及ぼし得ると
考えられる事件
6 実況見分・検証の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
犯行から実況見分、検証等までに時の経過があり、現場が破壊又は変容するなどして、
それが実況見分・検証の信用性に影響を与えているものと考えられる事件
7 微妙な擬律判断を必要とする事件
外形的事実の存在はうかがわれるが、例えば強姦における暴行・脅迫、恐喝における脅
迫、詐欺における欺罔行為、窃盗における不法領得の意思、業過事件における予見可能性
等の存在に疑義があり、当該事件を総合的に判断した場合に、犯罪として立証し得るか否
かが微妙な事件

別表第2
本部要指導事件に対する指導事項
1 自白の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
(1) 一般的確認項目
ア 取調官の選定、取調計画、取調手法、取調環境等が適切か否かを確認し、必要な場
合、その改善措置について検討したか。
イ 被疑者の特質(虚言癖等)について十分に検討したか。
ウ 自白に至った経緯、特に、取調べにおける任意性の確保、誘導の有無を総合的に確
認したか。
・ 自白に至るまでの状況
・ 自白の状況
・ 自白に至った経緯
・ 上申書の有無
(2) 個別的確認項目
ア 自白の変遷が著しい場合
○ 捜査の進捗状況と自白の変遷状況との相関関係を確認したか。
イ 自首事件のうち、暴力団事件、家庭内の肉親間の事件等、自首した被疑者が替え玉
であることを疑い得る事件
○ 被疑者に関連する人物(近親者、組織内の人物等)と事件との関連性についても
十分に解明させる。
○ 被疑者の供述を直ちに聞き入れることなく裏付捜査を十分に行ったか。
(3) 一般的指導項目
ア 既存の全証拠について再検討を行い、それによって立証可能な範囲について再確認
させる。
イ 立証のために今後新たに必要とされる証拠と、その収集の可能性について検討させ
る。
ウ 裏付捜査等を徹底させ、犯行の動機・方法・犯行前後の行動につき、その可能性、
合理性等について十分に確認させるとともに、その他の客観的事実とのそごや自白の
不自然・不合理性についても十分に確認させる。
この場合、一つの矛盾点を解明したことにより別に矛盾点が生じていないかについ
て十分に確認させる。
エ 秘密の暴露を獲得させる。
オ 自白調書に高い評価が与えられない場合でも事件を立件できる証拠固めを推進させ
る。
カ 否認後自白した被疑者の自白に至った経過等公判廷において争われるおそれのある
事項に関し、捜査の適法・妥当性を公判廷において立証し得るよう捜査過程の記録化
に十分配意させる。
(4) 個別的指導項目
ア 自白の変遷が著しい場合
○ 自白内容が変遷した合理的理由を調書上明らかにさせる。
イ 自首事件のうち、暴力団事件、家庭内の肉親間の事件等、自首した被疑者が替え玉
であることを疑い得る事件
2 否認事件及び黙秘事件
(1) 確認項目
ア 取調官の選定、取調計画、取調手法、取調環境等が適切か否かを確認し、必要な場
合、その改善措置について検討したか。
イ 被疑者の特質について十分に検討したか。
ウ 否認事件にあっては、被疑者の弁解に関する裏付捜査を徹底したか。
(2) 指導項目
ア 既存の全証拠について再検討を行い、それによって立証可能な範囲について再確認
させる。
イ 立証のために今後新たに必要とされる証拠と、その収集の可能性について検討させ
る。
ウ 否認・黙秘によっても事件を立証し得る証拠固めを推進させる。
エ 以上を尽くした場合においても心証を得られず、立証が困難な場合の措置等につい
て検討させる。
3 被害者、重要な目撃者等の供述の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
(1) 確認項目
ア 供述に係る裏付捜査を徹底し、補強証拠を収集するなどして疑問点を解明したか。
○ その他の供述の内容を十分吟味し、被害状況や目撃状況の再現等により、客観的
事実や他の目撃者・参考人の供述との食い違い又は不自然・不合理な部分を生じる
に至った原因を検討し解明したか。
○ 被害者の特性、被疑者との関係、被害時又は目撃時の状況を客観的に(図式化し
て)把握することにより、それが供述の信用性に与え得る影響について検討した
か。
○ その他、被害者等の供述について信用することを妨げる要因を分析・検討した
か。
イ 検討の結果、被害者、目撃者等から、より正確な供述を得ることができる場合には
これを調書化したか。
(2) 一般的指導項目
ア (1)イにより矛盾点を解明したことにより新たに他の部分との矛盾が生じていないか
十分に検討するとともに、供述が変還した合理的な理由について調書上明記させる。
イ 被害者、目撃者等から新たに供述が得られない場合、(1)アにおいて確定した供述の
証拠価値を前提とした捜査方針を樹立し、以後の捜査を誤らないよう留意させる。
ウ 被疑者が判明した場合には、その自供や他の諸証拠との全体的な整合性に配意さ
せ、綿密な立証を尽くすようにさせる。
(3) 個別的指導項目
ア 被害者等に特殊な事情(幼児、精神薄弱者、精神障害者、虚言癖等)がある事件
○ 取調状況等について確認させる。
イ 被害者、目撃者等の供述の変還が著しい事件
○ 供述の変還の合理的理由を調書上に明記させる。
○ 捜査の進捗状況と供述の変遷との相関関係について検討させる。
4 共犯者の供述の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
立証対象である被疑者に対する関係では参考人としての側面を有するので、被害者、目
撃者等と同様、3に掲げる諸項目を適用すべきであるが、特に、その信用性を高めるため
の方策、すなわち、例えば被疑者に関する秘密の暴露に準ずるような共犯者しか知り得な
い事実の発見に努めさせる。
一方、共犯者は被疑者としての側面を有し、身柄を拘束されている者も少なくない。し
たがって、自白の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件と同様、前掲の1(1)の諸項目
に関し確認・指導を行う。
5 鑑定資料そのもの、その収集・保管に問題があることから鑑定結果の信用性に疑いを持
たれるおそれのある事件
鑑定に用いられた資料、その収集、保管の適正さ及び事件における位置付けについて再
確認させ、当該鑑定の証拠としての価値を客観的に確定する。
6 実況見分調書・検証調書の内容の信用性に疑いを持たれるおそれのある事件
(1) 確認項目
ア 実施状況を総合的に検討した上で、実況見分・検証結果において、どの部分に信用
性があり、どの部分が信用性に乏しいかを把握しているか。
イ 各種供述内容との食い違いについて検討を行い、場合によっては再実況見分・再検
証を行ったか。
ウ 証拠品等の押収状況と、その実況見分調書・検証調書への記載状況について確認し
たか。
(2) 指導項目
(1)の結果に基づき、信用性に乏しい部分については他の捜査を通じて補強証拠を収集
するなどして、当該実況見分・検証の結果のみを前提としてその後の捜査を進めること
のないように配意させる。
7 微妙な擬律判断を必要とする事件
(1) 確認事項
ア 現在までに収集した証拠の評価の再確認及び現時点で立証可能な範囲についての検
討を行い、疑義を解消するためには何を立証しなければならないか、又は犯罪が成立
するためには何が不足しているかを明確にしたか。
イ その結果に基づき、新たに必要とする物証・人証の収集、再実況見分の実施及び供
述の補強のための諸措置を実行したか。
(2) 指導事項
(1)の結果から、立件するか否かを判断し、立件する場合の強制措置の行使の方法、今
後の継続捜査の方法等の捜査方針を確定させる。

別記様式省略


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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