犯罪実行者募集の実態(警察庁)
警 察 庁
犯罪実行者募集の実態
~ 少年を「使い捨て」にする「闇バイト」の現実 ~
非行防止・広報啓発活動従事者用資料
少年の健全育成に携わる皆様方へ
目先の利益を手に入れるため、少年が「闇バイト」に安易に応募し、特殊詐欺や強
盗等の重大な犯罪に加担してしまうことが大きな社会問題となっています。現在、社
会的に「闇バイト」という用語が使用されていますが、これは単なるアルバイトなど
ではなく犯罪です。「闇バイト」の募集は、犯罪実行役の募集にほかなりません。そ
の実態は、犯行グループが切り捨て要員の実行役を手広く募集するものであり、我々
は、これに関わることで少年にどのような危険が及ぶかについて、少年に伝え続けて
いく必要があります。
「危険を冒して次々と犯罪を実行したにもかかわらず、一切の報酬が支払われなか
った」「警察に密告された結果、逮捕されてしまった」といった事例に見られるよう
に、犯行グループは約束の報酬を元から支払うつもりはなく、少年を都合よく利用し
た後、簡単に「捨て駒」として切り捨てます。
このほかにも、犯行グループは入手した個人情報を基に、少年を執拗に脅迫し、恐
怖心を植えつけることで、少年が犯罪に加担することを断ったり、犯行グループから
離脱したりすることを阻止します。少年の家族に脅しがある事例もあります。
たった一度でも手を染めれば最後には必ず警察に検挙されます。なぜなら、脅し等
により、警察に逮捕されるまで使われ続けるからです。関わって得られるものは何も
ありません。
また、犯罪によって被害者やその家族に一生消えることのない深い傷を与えること
となり、他人の人生も台無しにするものです。
少年がこのような犯罪へ加担することを防止するためには、保護者、教職員、少年
警察ボランティアなど、少年の健全育成に携わる方々が、犯行グループによる犯罪実
行役の募集の実態や危険性、悪質性について具体的に少年に発信していただくことが
重要です。
本資料は、各都道府県警察への調査結果を基に、少年が「闇バイト」への応募をき
っかけに犯行グループに使い捨てにされた挙げ句、検挙されるまでの実態について、
広報啓発の場において、そのまま活用していただけることを念頭に作成したもので
す。是非、様々な場でご活用下さい。
少年への働き掛けに当たっては、「闇バイト」は犯罪であると少年の道徳心に語り
かけ、少年が自らの判断に基づき、犯罪加担行為を踏み止まれるよう少年等の心に響
く広報啓発を実施していただければと思います。その上で、少年から「先輩、知人等
から「簡単に儲かるバイトがある」と誘いを受けた」「友人が犯罪らしきことをやっ
ている」「不審な高額バイトに応募してしまった」といった話を耳にされた際は、ち
ゅうちょすることなく、早期に警察(少年相談窓口や少年サポートセンター等)に相
談するよう教示していただければと思います。
本資料が少年の健全な育成を期し、非行防止活動に携わる全ての皆様方の一助とな
ることができれば幸いです。
令和5年7月
警察庁生活安全局 人身安全・少年課長
目 次
1 応募から検挙されるまで ………………………………………………… 1
(1) 募集情報への応募 …………………………………………………… 1
(2) 犯行グループとのやりとり ………………………………………… 2
(3) 犯行グループへ個人情報を送信 …………………………………… 2
(4) 犯行グループによる脅迫行為 ……………………………………… 3
(5) 犯行グループの末端として犯罪行為に加担 ……………………… 3
2 「使い捨て」にされる少年たち ……………………………………… 4
3 勇気を持って犯罪から抜け出した少年たち ………………………… 5
4 検挙された少年たちの声 ……………………………………………… 6
5 被害者の声 ……………………………………………………………… 7
6 資料編 ~検挙事例等から確認できた犯罪実行者の募集の特徴等~… 9
1 応募から検挙されるまで
少年たちが「闇バイト」に応募し、犯罪行為に加担するまでの流れにはいくつか
のパターンが存在しますが、最も多く見られる基本的なパターンが、
① 自らSNSで「高額報酬」等を検索・応募
② 犯行グループから連絡が入り、以降、匿名性の高いアプリでやりとり
③ 犯行グループに言われるがまま個人情報を送信
④ 犯罪行為への加担を拒否すれば犯行グループが個人情報を基に脅迫
という流れになります。
ここでは基本パターンの4段階について、事例を交えながら紹介します。
(1) 募集情報への応募
少年たちは、自ら一般的なSNS、コミュニティサイトなどで「高額報酬」「闇バイ
ト」などと検索し応募します。また、少年の場合、自ら応募する以外にも「先輩・
友人に誘われた」といったものが一定数あり、少年が「闇バイト」に応募するきっ
かけの特徴の1つとして挙げられます。
【CASE1】少年たち自らが応募
・ Twitterに「お金に困っている」旨の書き込みをしたら、犯行グループか
ら「働いてみないか。大金を稼げる仕事がある」などのメッセージが届い
た。
・ Instagram で「仕事を探している」旨の書き込みをしたら、地元の先輩
から連絡があり、その後、知り合いのヤクザを紹介された。
・ パパ活をするためにTwitterを利用していたら、犯行グループから「パ
パ活ではないが、荷物を受け取るだけの仕事をしないか」旨の連絡が届い
た。
・ Twitterで副業募集専用のアカウントを作ったら、犯行グループから海
外の荷物の受け取りなどに関する仕事を紹介するメッセージが届いた。
【CASE2】先輩・友人・知人に誘われた
・ 仕事を探していたら、先輩・知人等から「闇バイト」を紹介された。
・ 先輩がSNSで見つけてきた「闇バイト」に誘われて一緒に加担した。
・ 先輩から金銭トラブルをふっかけられ、借金返済のため「受け子」の役目を
強要された。
・ 職場の社長が知人から紹介された「高収入」の仕事を請け負い、社長か
らの指示で「受け子」として犯行に加担した。
【CASE3】SNS で知り合った相手から誘われた
・ 遊興費欲しさにSNSで知り合った者に「金を貸して欲しい」旨の相談をし
たら、「銀行協会の委託の仕事を紹介する」などと言われ、犯行グループを紹
介された。
・ Instagram などの SNS で知り合った者から仕事を持ちかけられたり、女性
を紹介してもらったりした後、美人局のようなかたちで「受け子」を強要さ
れた。 - 1 -
(2) 犯行グループとのやりとり
応募が完了すると、犯行グループから応募者である少年たちへ連絡が入りま
す。犯行グループは少年たちに、一定時間が経過すると通信履歴が消去されるな
どの機能を有する匿名性の高いアプリ(Telegram、Signal等)を強制的にイン
ストールさせた上、以降のやりとりについてはこのアプリを使って行うよう指
示をしてきます。
【CASE】犯行グループが匿名性の高いアプリをインストールするよう指示
・ アルバイト求人サイトに正規のハンドキャリーの仕事(日給15,000円程
度)として人材募集広告が掲載されていた。履歴書を送らせるなど一見、正
当な仕事だと思ったが
○ 会社との面接は通話のみで実際に会うことはない
○ 会社の者からSignalを入れるように言われ、以後の指示等はSignal
のみで実施
○ 報酬の支払い方法は指定された場所に現金が置いてある
などの不審点がいくつもあり、実際の仕事内容は特殊詐欺の「受け子」だっ
た。
(3) 犯行グループへ個人情報を送信
少年たちは犯行グループとのやりとりの中で、「アルバイトをするための登録
情報として必要」などと言葉巧みに個人情報を要求され、言われるがまま、身分
証明書などの写真をアプリで送信してしまいます。
【CASE1】身分証明書と一緒に自分の顔写真を送信
・ Signalを使って写真と身分証明書を送るように言われ、保険証と一緒に
顔写真を送信してしまった。
・ Telegram で個人情報を送るように言われ、住民票と自撮りの顔写真を送
信してしまった。
【CASE2】家族や交際相手の個人情報を送信
・ 犯行グループから住所だけでなく、家族構成や名前、勤務先等まで聞かれ
て伝えてしまった。
・ 犯行グループから交際相手のことを聞かれ、彼女の名前や生年月日、顔写
真を送信してしまった。
【CASE3】動画等を送信
・ 犯行グループとの面接の際、スマホの中身(電話帳、写真、SNSの履歴
等)を長時間かけくまなく動画撮影された。
・ 自分が住んでいるマンションの入口から部屋までの道のりを動画撮影する
よう指示され、送信させられた。
・ 報酬を振り込むために必要と言われ、銀行名、名義、口座番号を伝えてし
まった。
・ 自分の名前や住所、連絡先等と一緒に上半身裸の写真を送信させられた。 - 2 -
(4) 犯行グループによる脅迫行為
個人情報の送信が完了すれば犯行グループから仕事の内容(詳細)が伝達され、
犯罪行為であることが明らかになります。少年たちが犯罪行為への加担を拒否し
ようとすれば、犯行グループは入手した個人情報を基に、少年たちが犯罪行為に
加担するまで執拗に脅迫します。
【CASE1】本人や家族に対する脅迫
・ 警察に捕まるリスクが大きいと思い断ると「自宅に押しかける。母親から
狙う」と脅され、仕方なく「受け子」をやった。
・ 「受け子」の仕事だと分かったが犯行グループから「逃げたらこうなる
よ」と男が殴られる動画が送信されてきて怖くなった。
・ 途中で詐欺だと気付き「辞めたい」と言ったら「家族全員殺すぞ」などと
脅迫されて「受け子」をやらざるを得なかった。
・ 犯行グループからの2回目の仕事を断ったところ、「この前の荷物はおば
あさんからだまし取ったお金だ。詐欺の運び屋に加担したな。あなたの顔写
真や住所を知っているので逃げられない」と脅され、以降も「受け子」とし
て加担せざるを得なくなった。
【CASE2】実家への押し掛け
※ 犯行グループの巧妙な手口
・ 「受け子」をして得た現金を別の犯行グループに横流ししたら、自身や実
父へ架電された後、実家に押し掛けられた。
犯行グループは、少年たちが素直に指示に従っているうちは、「お前が一
番かわいい後輩」「お前しかいない」「お前だけ特別」などと優しい言葉を掛
けてきます。しかし、少年たちが犯行グループから離脱する意思を示した途
端、態度を豹変させ、本人や家族に対する脅迫等、あらゆる手段を使って犯
行グループからの離脱阻止を図ります。
(5) 犯行グループの末端として犯罪行為に加担
犯行グループによる脅迫等の結果、少年たちは犯罪行為に加担せざるを得な
い状況となり、「受け子」などの役割を繰り返した結果、必ず検挙されることと
なります。脅し等により、逮捕されるまで使い続けられることが特徴です。
「受け子」などの犯行グループの末端として仕方なく犯罪行為に加担
たった一度でも犯罪行為に加担すれば犯行グループからの離脱は困難
(犯行グループは個人情報を基に少年たちを何度でも脅迫)
何度も犯罪行為をやらされ、逮捕されるまで使われ、逮捕されれば見捨てられる
(犯行グループは自分たちが逮捕されないよう少年たちを「捨て駒」として利用)- 3 -
2 「使い捨て」にされる少年たち
検挙された少年たちの大半が「遊ぶための金がほしい」といった理由で、「闇バ
イト」に応募し、犯罪に加担させられています。目先の遊興費を得るため、「1回
だけなら大丈夫」「嫌になったらすぐに辞めたらいい」といった安易な考えで応募
した結果、取り返しのつかない結果を招いています。
また、犯行グループによって顔写真等の身分証明書がSNS上に投稿されてしま
えばインターネットを利用する不特定多数の者が少年たちの個人情報を閲覧でき
ることとなってしまい、新たな犯罪等に巻き込まれる危険性があります。
【CASE1】犯行グループにだまされ報酬を得ることができなかった
・ SNSで「闇バイト」に応募した先輩に誘われ「受け子」をすることとなっ
たが、犯行グループから「金が必要になった」「振り込みをしてくれ」など
と言われた。言われるがまま指定された口座に「受け子」をして得た報酬を
全て振り込まされ、結局、一円も手にすることができなかった。
・ 遊ぶ金欲しさから「受け子」として詐欺行為に加担し被害者から現金を受
け取った。犯行グループからは事前に「被害者から受け取った金は全て回収
役に渡せ」「報酬は口座に振り込む」と言われていたので現金を全て渡し
た。しかし、その後、一向に報酬は振り込まれず、「次もやれば渡す」な
どと言われていたが、結局、報酬は一度も支払われることなく捕まった。
・ 犯行グループから「報酬は後でまとめて払う」などと聞いていたが、結
局、報酬が支払われることはないまま逮捕された。
・ 「受け子」としてキャリーケースを持って全国を転々とさせられた。逮捕
されるまで家にも帰れず、ホテルや漫画喫茶に寝泊まりしながら犯行を続け
ていた。
【CASE2】犯行グループに密告され逮捕された
・ 特殊詐欺の「受け子」として被害者からだまし取った現金を持ち逃げしよ
うとしたら犯行グループにばれてしまい、だまし取った現金を回収された
上、密告され逮捕された。
・ 遊ぶための金が欲しく、地元の不良グループ仲間と「闇バイト」に手当た
り次第応募した。だまし取った現金を全て自分たちのものにしようと企てた
が、犯行グループに密告され逮捕された。
・ 地元の先輩とキャッシュカードのすり替えを行い、一旦報酬を得たが、そ
の後、犯行グループから呼び出され、理由が分からないままペナルティなど
と称して、報酬を上回る金を巻き上げられた。さらに、犯行グループの一員
が金を持ち逃げしようとしたため、密告され逮捕された。
【CASE3】「詐欺加担者」として顔写真等の身分証明書をSNSに投稿された
・ 警察官がサイバーパトロール中、「詐欺犯罪者」とコメントの付いた顔写
真や身分証明書の画像がツイートされているのを発見した(「闇バイト」に
応募した後、犯行グループから離脱した者に対する制裁行為と思われる)。 - 4 -
3 勇気を持って犯罪から抜け出した少年たち
検挙された少年たちは、その後の取調べにおいて、「家族や警察に相談すればよ
かった」と供述しています。「怪しいバイトに応募してしまった」など、少しでも
不安に感じることがあれば、警察に相談することで犯罪への加担を未然に防ぐこ
とができます。
また、仮に、既に犯罪に加担してしまった場合でも、更なる重大な犯罪を行う前
に勇気を持って警察に相談することが大切です。ここで立ち止まり、反省し更生す
ることで、明るく幸せな将来をまた取り戻すことができるはずです。
【CASE1】「闇バイト」に気付きヤングテレホン(少年相談窓口)に相談
・ 女子大学生が犯罪実行役の募集であると気付かずに応募した後、実際に
犯罪行為に加担させられそうになったためヤングテレホン(少年相談窓
口)に架電し助けを求めた結果、女子大学生の居場所を特定した警察に無
事に発見・保護された。
【CASE2】警察官の親身な説得により改心
・ 財布を紛失した男子高校生が警察署を訪れたが、言動に不審な点が認め
られたことから問いただしたところ、「闇バイト」に応募し犯行先へ移動中
であることが判明した。対応した警察官による親身な説得の結果、男子高
校生は改心し、犯罪行為に加担することなく保護された。
【CASE3】母親が警察に相談し所在不明となっていた息子を発見
・ 母親から息子が書き置きを残し所在不明になった旨の相談を受理し詳細
を聴取したところ、「闇バイト」に応募していた事実が判明した。同人は、
犯行グループにマイナンバーカードの写真データを送信した後、怖くなり犯
罪行為への加担を拒否したが、犯行グループから執拗に脅され、自宅も知ら
れていたことから怖くなり、犯行グループから逃げるため所在不明となって
いたところ、居場所を特定した警察に無事に発見・保護された。 - 5 -
4 検挙された少年たちの声
「闇バイト」に応募する少年たちには、大きく「最初から犯罪行為であると知り
つつ加担する者」と、「犯罪行為であるとの認識が薄い(ない)まま、個人情報を
盾に脅され、仕方なく加担する者」との2種類のパターンがあります。
しかし、双方に共通する事柄として「犯罪行為に加担したことを後悔している」
という点を挙げることができます。
犯罪行為であると知りながら危険を犯してでも犯罪に加担する少年たちに対し
ては、検挙された後に待ち受ける悲惨な現実についてしっかりと伝え、少年たち自
らの道徳心に訴えかける啓発が効果的です。一方で、犯罪行為であるとの認識が薄
い(ない)少年たちに対しては、「犯罪に加担せざるを得なくなる、簡単には抜け
られなくなる仕組み」を伝えるとともに、そのような状況に陥らないための予防策・
対応策について啓発することが効果的です。
【CASE1】どのような情報があれば犯行を思いとどまることができたか
・ 「闇バイト」が犯罪実行役の募集であることやその仕組み、流れ。
・ 個人情報を握られ、自分だけでなく家族も脅迫されることで、犯行グルー
プから抜け出せなくなってしまうこと。
・ 警察に捕まるリスクや、刑の重さや罰金額。捕まれば、少年院に行かなけ
ればならないこと。
【CASE2】犯行前後の心境・同じ過ちを犯さないようにするため伝えたいこと
・ やりたくないけど後には引けない。警察に捕まったどうしよう。
・ 1回だけなら大丈夫だろう。
・ 犯行グループから脅されて抜け出せなかった。後悔している。
・ 詐欺だと分かったが、個人情報を送り脅された後だったのでやるしかなか
った。どうせ捕まるんだろうなと思っていた。
・ 捕まってしまったことで家族にも迷惑をかけてしまった。
・ もっと早く引き返せばよかった。
・ 家族に相談すればよかった。止めてくれて(捕まえてくれて)ありがとう
ございます。
・ 今後も犯行グループからしつこく誘われないか、家族に影響が及ばないか
と思うと不安で仕方ない。
・ 「受け子」などの紹介をしてくるやつは、「お前が一番かわいい後輩」「お
前しかいない」「めちゃ稼げる」「本当は教えたくないけどお前だから紹介し
てやる」など、言葉巧みに持ち上げてくる。しかし、裏ではパシリのように
しか思われていないのが現実。
・ 「闇バイト」に手を染めれば必ず捕まる。家族に相談するなどして勇気を
持って断って欲しい。 - 6 -
5 被害者の声
最後に特殊詐欺の被害に遭われた方々の手記等を紹介します。
犯罪によって被害者やその家族は悲惨な現実に直面することとなります。少年に
対する広報啓発に当たっては、自分が犯罪に加担することで被害者を含む多くの人
に身体的・精神的な傷を与え、経済的にも追い詰めることになることを丁寧に説き、
「犯罪は他人の人生を台無しにする」ことについて気付きを与えることが重要です。
【CASE1】息子を騙るオレオレ詐欺により老後の生活資金等を騙し取られた
オレオレ詐欺の被害に遭ったのは、昨年の5月、がんを患い入院していた妻が
手術を受ける前日のことでした。
私が、妻の手術成功を願い、神社でお参りをし帰宅したところ、自宅の電話が
鳴りました。普段であれば、留守番電話に設定しており、すぐに電話に出ないよ
うにしていました。けれども、妻の手術に備えて、離れて暮らす長男が自宅に来
る予定もあったので、私は、電話の相手は長男だと思い込んで電話に出てしまっ
たのです。
私は、自分の息子がトラブルに巻き込まれているのであれば何とかして助けな
ければという一心で、お金をかき集めました。そのお金は、これまでの人生で、
ぜいたくをせず、妻とコツコツと貯めたお金で、将来、私と妻の老後の生活のた
め、そして、息子や孫達のために使うつもりだった大切なお金でした。
犯人から再度電話があったとき、声が息子と違うような気がしました。けれど
も、本当に息子だったら大変なことになると思い、親心と焦る気持ちから3,000
万円という大金を渡してしまいました。
今思えば、お金を渡す前に、息子に電話して確認すれば良かったのですが、妻
の病気、手術と、大変なことが重なり、そこまで思いが至りませんでした。
翌日に手術を控えていた妻には、被害に遭った当初、お金をだまし取られたこ
とを話せませんでした。心配を掛けたくなかったからです。それでも、退院後、
被害を妻に打ち明けました。妻は、私を責めることなく、優しく慰めてくれまし
た。そんな優しい妻は、被害から2か月も経たずに、昨年7月、他界しました。
息子達は、私の傷口に触れないよう、今回の被害を話題にすることはありません。
それが一層心苦しいです。
大切な人を思う気持ちを逆手に取り踏みにじる、特殊詐欺という犯罪を許すこ
とはできません。
(男性・85歳) - 7 -
【CASE2】息子を騙るオレオレ詐欺により二度の被害に遭遇
私は、オレオレ詐欺の被害に二度も遭いました。二度とも、息子を思う親心に
つけこむ卑劣な手口でした。
一度目の被害は、6年前、息子を名乗る者から電話で、トラブルの解決に必要
と言われて200万円を振り込んでだまし取られました。二度目の被害は昨年の11
月のことでした。またも息子を名乗る男からの電話で、現金を用意できないかと
言われました。
私は、親として、息子を助けることは当然のことと思い、複数の金融機関を回
ってお金を下ろし、250 万円を準備しました。そのお金とキャッシュカードなど
を、家に取りに来た男に手渡しました。
私は、お金を渡したことで息子が助かったとすっかり安心しました。ところが、
金融機関からの連絡で詐欺の被害に気付いたのです。今思い返すと、確かに不審
な点はあったかもしれません。ですが、その時は、息子を助けたい一心だったの
です。
お金だけでなく、手渡したキャッシュカードも使われて、3つの銀行口座から
1,200 万円、根こそぎ引き出されました。会社名義の口座から引き出された被害に
ついては、今後、私が補填していくことになり、被害直後の12月はまさに茫然自
失で、気が付いたら年が明けていました。私が受けた精神的ダメージは、そのく
らい大きいものでした。
今後、このような被害に遭わないように、固定電話を使用しないこと、お金の
管理は家族にしてもらうことにしました。会社名義のお金も返さなくてはならな
いので、生活も切り詰めなければなりません。
特殊詐欺という犯罪は、私のような被害者に借金を背負わせたり、生活を一変
させたりしてしまう、卑劣極まりないものです。犯人には、お金はもちろん、私の
平穏な生活を返してほしいと強く思っています。
(女性・79歳)
【CASE3】被害に遭った結果思い悩み死を選ぶ悲惨な現実
NPO 法人「自殺防止ネットワーク風(かぜ)」代表で、自殺に関する相談を 30
年以上受けている篠原鋭一氏は、「特殊詐欺に関する相談の多くは、被害者であ
るにもかかわらず、財産をだまし取られたことを家族等から責められ、時には無
視や差別されるなど、周囲から孤立した結果、死を選ぶという悲惨なものである。
被害者が自殺した後、遺族が責任を感じ、後追い自殺した例もある。特殊詐欺の
被害に遭ったことにより、二次、三次被害として被害者や遺族を死に追いやって
いることから、いわば間接的殺人とも言える。被害者は高齢者が多く、家族の役
に立ちたい、我が子、孫を救いたいとの優しい思いから被害に遭っている。自責
の念に苦しむ被害者に、悪いのはあなたではなく犯人であるということを、家族
も周りの人々も受入れ、社会全体が連帯責任と受け止めて被害者を支える体制を
つくることが大切だ。」と言う。
(特殊詐欺被害者から自殺に関する相談を受けているNPO法人代表コメント)
※ (出典)本項【CASE1】~【CASE3】に記載している被害者の手記等については、「特殊詐欺の
手口と対策」(警察庁組織犯罪対策部 令和5年)P7~8から抜粋しています。 - 8 -
6 資料編 ~ 検挙事例等から確認できた犯罪実行者の募集の特徴等 ~
(1)応募動機等
ア 金銭目的
・「遊興費」 ・「酒・タバコ代」 ・「借金返済」 ・「バイク代」
・「携帯代」 ・「生まれてくる子供のため」
・「交際者と同居するための費用」 ・「中絶費用」など
イ 人間関係
・地元の先輩に誘われ、断りづらかった
・友達に誘われ、興味本位で
ウ 検索文言
・「闇バイト」・「裏バイト」 ・「UD(「受け子」・「出し子」)」
・「高額報酬」 ・「運び」
・「お金貸してください」など
(2) 犯行グループの手口
ア 募集広告の内容
・他の業務では考えられないような高額な報酬を提示
・業務内容が不明確
・募集内容から要求される資格や経験が不問
イ 募集文言
・「高額収入」 ・「高額バイト」・「安全に稼げます」
・「1件10万~、2件いけたら20万」・「犯罪ではありません」
・「学生可能」 ・「初心者大歓迎」 ・「国対応」 ・「保証金なし」
・「営業で地方へ出張する仕事」 ・「リスク無し」 ・「詳しくはDM」
・「ホワイト案件」 ・「高校生でもいける」 ・「詐欺ではありません」
・「誰にでもできる簡単な仕事」など
ウ 要求する身分証明書
・「学生証」 ・「運転免許証」 ・「マイナンバーカード」 ・「住民票」
・「キャッシュカード」など
(3) コンタクトツール
ア 募集に使われることが確認されているツール
a SNS
・【Twitter】 ・【Instagram】 ・【Facebook】 ・【iMessage】
b コミュニティサイト・掲示板
・【爆サイ】 ・【ジモティー】
c その他
・歓楽街の電柱に貼られたQRコード
・自宅ポストに投函された求人チラシ
・求人情報サイト、求人情報冊子
イ やりとりに使われることが確認されているツール
・【Telegram】 ・【Signal】 ・【WeChat】 ・【DingTalk】
※ 本項に記載している犯罪実行者の募集の特徴等については、各都道府県警察の検挙事例等から確認
できた事柄を記載していますが、犯行グループの手口やコンタクトツールを網羅的に紹介したもので
はありません。 - 9 -
淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。