告発状(案)(以下「本件対象文書」という。)を非公開とした部分についての判断は、妥当である。(福井県警)

答 申 書
(答申第90号)
平成27年4月15日
福井県公文書公開審査会
第1 審査会の結論
第2の1に記載した公文書の公開請求に対して福井県知事(以下「実施機関」という。)
が行った一部公開決定のうち、第2の2の文書№3に含まれる告発状(案)(以下「本件
対象文書」という。)を非公開とした部分についての判断は、妥当である。
第2 異議申立てに至る経過
1 公開請求の内容
異議申立人は、平成26年2月10日付けで、福井県情報公開条例(平成12年条例
第4号。以下「条例」という。)第5条の規定により、実施機関に対し、次の内容の公文
書の公開請求(以下「本件公開請求」という。)を行った。
平成25年4月から請求日の間に福井県丹南土木事務所長が「砂防指定地管理条例
違反」を告訴事実として、福井県越前警察署長あて執り行った刑事告発に関し、この
稟議・決裁、関係行政庁との協議および関係行政庁の意見聴取等の経緯事跡を示す一
切の公文書
2 実施機関の決定
実施機関は、平成26年3月25日付け丹土第232号による公文書一部公開決定を
行った。
〔公文書一部公開決定の内容〕
文書№
公文書の名称
決定
内容 公開しない部分
1 供覧処理票(平成25年 7
月10日供覧開始)
一部
公開
警察官(階級が警部
補以下であるものに
限る。)の氏名
公開しない理由
条例第7条第1号該当(個人
に関する情報であって、特定の
個人を識別することができるた
め)
2 供覧処理票(平成25年 8
月8日供覧開始)
「越前警察署との協
議」の「協議結果」
および「考え方」の
内容
一部
公開
警察官(階級が警部
補以下であるものに
限る。)の氏名
条例第7条第3号該当(犯罪
の捜査に関する情報であって、
公にすることにより、公共の安
全と秩序の維持に支障を及ぼす
おそれがあるため)
条例第7条第1号該当(個人
に関する情報であって、特定の
個人を識別することができるた
め)
3 砂防指定地管理条例違反
行為者に対する告発状の
提出について(砂防指定
地 ○○川 ○○○)(平
成25年8月20日起案)
・「越前警察署との協
議」の「協議結果」
の内容
・「越前警察署との協
議」の添付資料
一部
公開
告発状(案)
条例第7条第3号該当(犯罪
の捜査に関する情報であって、
公にすることにより、公共の安
全と秩序の維持に支障を及ぼす
おそれがあるため)
条例第38条の4該当(条例
の規定を適用しないこととされ
ている刑事訴訟法第53条の2の
訴訟に関する書類に該当するた
め) -1-
3 異議申立て
異議申立人は、平成26年3月25日付け丹土第232号による公文書一部公開決定
のうち、本件対象文書に係る部分(以下「本件処分」という。)を不服として、平成26
年4月21日付けで実施機関に対して異議申立てを行った。
4 諮問
実施機関は、平成26年6月6日付け砂防第280号で、条例第18条第1項の規定
により、福井県公文書公開審査会(以下「当審査会」という。)に対して、本件異議申立
てについて諮問を行った。
第3 異議申立ての内容
1 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、本件処分は法令を不当に類推拡大した違法かつ重大な瑕疵
ある行政処分であるから、その取消しを求めるものである。
2 異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書、意見書および当審査会での意見陳述で主張している異議
申立ての理由は、要約すると次のとおりである。
条例第38条の4において、条例の適用除外として規定する刑事訴訟法(以下「刑訴
法」という。)第53条の2の訴訟に関する書類(以下「訴訟に関する書類」という。)
は、刑事訴訟手続に関与する検察官・検察事務官、司法警察職員、特別司法警察職員お
よびそれぞれ対応する検察・警察機関・捜査機関が保有管理する告訴・告発状、訴訟資
料・捜査資料、証拠物・押収物としての公文書を指し、かかる機関等に対し、犯罪申告
や告訴・告発をし、また当事者として係属関与する私人や団体等「提訴・提出した側」
が保有する文書等を指すものではない。
また、訴訟に関する書類は、刑訴法を司る行政庁(機関)が保有する当該書類および
当該押収物のほか、当該行政庁以外の行政機関の保管に係るケースとしては、刑訴法手
続として差押えもしくは保全処分を受け、または刑訴法執行庁の依頼要請を受け、刑訴
法執行庁以外の施設や機関、つまり公営倉庫・研究機関その他の機関ではあるが刑訴法
執行庁への移送や同庁での保管困難等の事由でこの保管をする行政施設などでの保管に
係るものが想定されるところ、そうでない告訴・告発当事者である行政庁が保管するも
のを想定するものでないことは明らかである。
なぜなら、前述したとおり、当該条項をもって刑訴法が守ろうとする法益は、個人情
報保護法令や行政情報開示法令とは全く趣を異にし、それは捜査・公判維持遂行への不
当な影響、すなわちかかる支障排除であり、例えばこの目的達成のため、広く告訴・告
発をした当事者が保管する告訴・告発状の案文や控えまで、訴訟に関する書類と定義す
ることは極めて不合理である。
このように眺めれば、刑訴法当該条項の縛りは、司法警察機関が保有するものおよび
当該機関による差押えや委託を受け、訴訟に関する書類・押収物等を預かり、保管する
行政施設・機関が保有するものに限定されることは明らかである。 -2-
この告発状は、防災施設に関わるものなので、本来なら県民に内容を知っていただく
べきであり、「検察庁が保有する告発状と内容が同じだから公開できない」という非公開
理由では、捜査機関にどのような告発をしたのかが不明である。ただし、特定の企業名
や個人の氏名はマスキングすればよい。
また、条例を適用した上で、公開により捜査に支障があり、ひいては県民益を害する
ことになるという理由等で条例第7条第3号等の規定により個別具体的に公開の可否を
検討すべきである。行政機関が警察機関と同じように訴訟に関する書類であると言うか
らおかしい。
したがって、本件処分は、法令の誤った解釈による違法な行政処分である。
第4 実施機関の説明
実施機関が、理由説明書および当審査会での説明聴取で主張している本件処分の理由
は、要約すると次のとおりである。
条例第38条の4は、訴訟に関する書類および押収物については、条例を適用しない
と規定しているが、訴訟に関する書類および押収物の取扱いについては、刑訴法におい
て定められており、また、情報公開法の制定に伴い、訴訟に関する書類および押収物に
ついては情報公開法の規定を適用しないとされたことを考慮し、条例の規定を適用しな
いこととしたものである(福井県情報公開条例の解釈運用基準(平成12年6月23日
付け 総務部長通達)P68参照)。
刑訴法第53条の2の立法趣旨として、第142回国会衆議院内閣委員会における政
府見解では、「刑事訴訟に関する書類の適正確保は、司法機関である裁判所により判断さ
れるべきものであること」、「刑訴法は、裁判の公正の確保、訴訟関係人の権利保護等の
観点から、訴訟に関する書類を公判の開廷前に公開することを原則禁止する一方、事件
の終結後においては、一定の場合を除いて何人にも訴訟記録の閲覧を認めていること」
等から、その開示、不開示の要件および手続について完結的な制度が確立しているため、
情報公開法の適用除外としたものと説明されており、この立法趣旨を踏まえ、条例にお
いても第38条の4により適用除外について規定している。
刑訴法において、訴訟に関する書類とは、一般に、被疑事件または被告事件に関し作
成された書類をいい、種類および保管者を問わないと考えられることから、条例第38
条の4においても、主に警察本部長において管理されている被害届、告発状、告訴状、
実況見分調書、供述調書、捜査関係照会および回答書などが想定されるが、他の実施機
関において同様の物を管理している場合も条例の適用はしないこととなるものである
(福井県情報公開条例の解釈運用基準(平成12年6月23日付け 総務部長通達)P
68参照)。
本件対象文書は、丹南土木事務所長が砂防指定地管理条例違反事案について、越前警
察署あて告発状を提出するに当たり、平成25年8月20日付けで丹南土木事務所管理
用地課の担当者が起案し、所長の決裁を受けた後、同土木事務所において管理している
ものであり、越前警察署あて提出した告発状と全く同じ内容であることから、訴訟に関
する書類であることは明らかである。 -3-
仮に、「提訴・提出した側」が、本件対象文書を公開した場合、刑事訴訟手続に関与す
る司法機関や捜査機関が告発状を公開していなくても、事実上公開されたのと同様の結
果となり、先の政府見解や総務省見解に示されている「捜査・公判に関する国の活動の
適正確保は、司法機関である裁判所により図られるべき」とする刑訴法第53条の2の
立法趣旨が損なわれ、犯罪捜査・公判に支障を来たすおそれがある。
本件対象文書には、公開することにより、犯罪事実の行為者等による証拠の隠滅、秘
匿等のおそれがあるため、犯罪の捜査に支障を及ぼすおそれがあると認められる情報(条
例第7条第3号に掲げる犯罪捜査等情報)が含まれているものといえる。しかし、本件
対象文書は、捜査機関に提出した告発状と全く同じものであり、本件対象文書は、訴訟
に関する書類に該当すると考え、条例第38条の4の規定により非公開とすることが妥
当であると判断した。
以上のことから、本件公開請求について、本件対象文書が訴訟に関する書類に該当す
るため、条例第38条の4の規定に基づき条例を適用除外し、非公開とした本件処分は
妥当である。
第5 審査会の判断
当審査会は、異議申立人および実施機関の双方の主張を審査した結果、次のように判
断する。
1 本件処分について
本件処分は、本件対象文書が訴訟に関する書類に該当するため、条例第38条の4の
規定に基づき条例の適用除外となることを理由に非公開としたものである。
これに対して、異議申立人は、訴訟に関する書類について、刑事訴訟手続に関与する
検察・警察機関・捜査機関が保有する公文書を指すのであって、告発状を提出した行政
機関が保有する文書等を指すものではないから、本件対象文書は訴訟に関する書類に該
当しない、また、条例を適用した上で、条例第7条第3号等の規定により個別具体的に
公開の可否を検討すべきであると主張していることから、以下に、本件処分の妥当性に
ついて検討する。
2 訴訟に関する書類の該当性(条例第38条の4該当性)について
情報公開法の制定に伴い、刑訴法第53条の2の規定により、訴訟に関する書類およ
び押収物については情報公開法の規定を適用しないこととされたことを考慮し、条例第
38条の4においても同様に、訴訟に関する書類等は条例の規定を適用しないこととさ
れている。
刑訴法第53条の2において、訴訟に関する書類を情報公開法の規定の適用対象から
除外した趣旨は、「訴訟に関する書類および押収物については、①刑事司法手続の一環
である捜査・公判の過程において作成・取得されたものであるが、捜査・公判に関する
国の活動の適正確保は、司法機関である裁判所により図られるべきであること、②刑訴
法第47条により、公判開廷前における訴訟に関する書類の公開を原則として禁止する
一方、被告事件終結後においては、刑訴法第53条および刑事確定訴訟記録法により一
定の場合を除いて何人にも訴訟記録の閲覧を認め、その閲覧を拒否された場合の不服申-4-
立てにつき準抗告の手続によることとされるなど、これらの書類は、刑訴法(第40条、
第47条、第53条、第299条等)および刑事確定訴訟記録法により、その取扱い、
開示・不開示の要件、開示手続等が自己完結的に定められていること、③これらの書類
および押収物は、類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるととも
に、開示により犯罪捜査、公訴の維持その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼす
おそれが大きいものであること(「詳解情報公開法」総務省行政管理局編)」によるも
のと解される。
次に、 訴訟に関する書類とは、一般に、被疑事件または被告事件に関し作成された書
類をいい、告発状は当然に訴訟に関する書類に該当するものである。
本件対象文書については、実施機関の説明によれば、丹南土木事務所が警察署あて告
発状を提出するに当たり、同事務所の担当者が起案し、所長の決裁を受けた決裁文書で
あって、当該告発状と全く同じ内容であるとしていることから、当該告発状と同一の内
容が記載されているものと認められる。
そうすると、本件対象文書は、公にすることにより、犯罪捜査、公訴の維持その他の
公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが大きく、かつ、類型的に秘密性が高く、
その大部分が個人に関する情報であると認められる。
このため、こうした文書の取扱いについては、条例の規定を適用するよりも、捜査・
公判に関する国の活動の適正確保を図る立場にある、司法機関である裁判所により判断
されるべきであり、裁判の公正の確保、訴訟関係人の権利保護等を図るための自己完結
的な制度が確立している刑事訴訟手続に委ねることが公共の福祉を維持する上で必要で
あると考えられる。
したがって、本件対象文書は、刑訴法第53条の2の趣旨に照らせば、訴訟に関する
書類に該当するものと解される。そうでなければ、本件対象文書には条例の規定が適用
され、一方、告発状には刑訴法等が適用される結果、それぞれの判断に矛盾が起こるお
それが生じてしまう。
また、異議申立人は、訴訟に関する書類は検察・警察機関等が保有するもののみに限
定されると主張するが、本件対象文書は、告発の過程で丹南土木事務所が作成し、保管
するものであり、刑事司法手続の適正確保を図る上で、警察署に提出された告発状と性
質を異にするものとは言えないため、保管者を検察・警察機関等に限定すべきものとは
解されない。仮に、訴訟に関する書類の保管者を検察・警察機関等に限定すれば、行政
機関の保有する全ての訴訟に関する書類が公開請求の対象とされることとなり、このよ
うな事態に至れば、前述した訴訟に関する書類を適用除外とした刑訴法の趣旨を没却す
ることとなる。なお、情報公開において保管者が行政機関であっても訴訟に関する書類
に該当すると判断している答申は、内閣府情報公開審査会平成13年11月27日答申
(平成13年度(行情)第57号)をはじめ、国や他県において多数存在しているとこ
ろである。
このため、訴訟に関する書類については、保管者を検察・警察機関等に限定すべきで
はなく、行政機関が保管する場合も、やはり、訴訟に関する書類に該当するものと解さ
れる。
以上より、警察署あて告発状を提出した丹南土木事務所が保有する本件対象文書につ
いても、当該告発状と同様に、訴訟に関する書類に該当するものと解される。 -5-
なお、異議申立人は、丹南土木事務所等の行政機関が保有する本件対象文書は訴訟に
関する書類には該当せず、条例を適用した上で、条例第7条第3号等の規定により個別
具体的に公開の可否を検討すべきであると主張する。
仮に、本件対象文書が訴訟に関する書類に該当しないとし、条例を適用するとするな
らば、犯罪捜査等情報等を非公開情報として掲げる条例第7条第3号等の該当性の問題
になると考えられる。
しかしながら、本件対象文書については、前述のとおり訴訟に関する書類に該当する
と判断したため、条例が適用されることにはならない。したがって、個別具体的に条例
に掲げる非公開情報の該当性を検討する必要はない。
3 まとめ
以上のことから、本件対象文書は、訴訟に関する書類に該当すると解されるため、条
例第38条の4の規定に基づき条例の規定の適用を除外し、本件対象文書を非公開とし
た実施機関の判断は、妥当である。
したがって、実施機関が行った決定は妥当であると判断し、冒頭の結論に至った。 -6-
-7-

第6 審査の経過
当審査会は、本件異議申立てに係る諮問について、下記のとおり審査した。

年 月 日 審査の経過
平成26年 6月 6日 ・諮問書の受理
平成26年 6月18日 ・審議(第1回)
平成26年 8月 6日 ・審議(第2回)
平成26年10月21日 ・審議(第3回)
平成26年11月26日 ・実施機関からの説明聴取
・審議(第4回)
平成26年12月17日 ・異議申立人からの意見聴取
・審議(第5回)
平成27年 1月29日 ・審議(第6回)
平成27年 3月10日 ・審議(第7回)
平成27年 4月15日 ・答申

福井県公文書公開審査会委員名簿

〔第2回まで〕 (五十音順)
氏 名 備 考
稲 田 真 紀
川 村 一 司
四 戸 友 也 会長職務代理者
清 水 和 邦 会 長

〔第3回以降〕
(五十音順)



稲 田 真 紀

川 村 一 司
会長職務代理者
北 島 三 男
清 水 和 邦

前 田 清 作
長 -8-


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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