令和5年9月14日付で回答のあった苦情申出書に対する回答(公委第105号)の調査過程が分かる文書(愛媛県警)

答申第79号
答 申
「令和5年9月14日付で回答のあった苦情申出書に対する回答(公委第105号)の調査過程
が分かる文書」部分開示決定審査請求事案
第1 愛媛県情報公開・個人情報保護審査会(以下「審査会」とする。)の結論
令和5年10月26日付けで愛媛県公安委員会(以下「実施機関」という。)が行った保有個
人情報開示決定(部分開示)は、妥当である。
第2 審査請求に至る経緯
1 保有個人情報開示請求
審査請求人(以下「請求人」という。)は、令和5年9月20日、個人情報の保護に関す
る法律(平成15年法律第57号。以下、「法」という。)第77条第1項の規定に基づき、実
施機関に対し、「令和5年9月14日付で回答のあった苦情申出書に対する回答(公委第105
号)の調査過程がわかる文書」との内容により保有個人情報開示請求(以下「本件請求」
という。)を行った。
2 本件請求に対する決定
実施機関は、本件請求に係る個人情報が記録された地方公共団体等行政文書として、
実施機関を補佐する職員が、令和5年9月13日付けで作成した①「公安委員会宛て苦情
の調査結果について」を件名とする起案用紙並びに同起案用紙に添付された②「公安委
員会宛て苦情の調査結果について」(以下「本件対象公文書」という。)を特定した上で、
当該公文書の一部に、法第78条第1項第2号、同第5号及び同第7号に該当する不開示
情報が含まれていることから、当該情報については不開示とし、令和5年10月26日付で
保有個人情報開示決定(部分開示)(以下「本件処分」という。)を行った。
3 審査請求
請求人は、本件処分を不服として、令和6年1月9日、行政不服審査法(平成26年法
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律第68号)第2条の規定に基づき、実施機関に対して、本件処分を取り消すことを求め
て、審査請求を行った。
4 諮問
実施機関は、法第105条第3項において読み替えて準用する同条第1項の規定に基づき、
令和6年4月11日付けで、審査会に対して、本件処分に係る審査請求について諮問した。
第3 請求人の主張(要旨)
1 審査請求の趣旨
本件処分の取り消し(全部開示)を求める。
2 審査請求の理由
請求人が、審査請求書及び反論書において主張している審査請求の理由は、おおむね
次のとおりである。
⑴ 審査請求書
ア 巡査の電話対応に関する不満
「個人でしても無駄」などと発言したり、話の途中、請求人が了解していないの
に勝手に録音を開始したりしたにもかかわらず、実施機関の苦情調査においては、
それらの発言や録音した事実はなかったとされている点
イ 告発状提出時の受理方法に関する不満
犯罪捜査規範第63条第1項において告発状を受理する義務について規定されてい
るところ、実施機関の苦情調査においては『司法警察員たる警察官である上、告発
の受理検討のため、請求人に対し、告発状の写しに「検討用として写しを提出しま
す。」との記載と署名・押印を求めた上、告発状の写しを預かったことは犯罪捜査規
範第63条第1項の趣旨に反するものではない。』とされている点
ウ 告発状を不受理と結論付けた際の説明内容に関する不満
そもそも告発状を受理すべきである上、民事裁判と刑事裁判は性質を異にしてい
るにも関わらず、警部補が松山地方裁判所の判決文の一部を引用し、告発状は受理
できないと判断したことは明らかな法令違反であるが、実施機関の苦情調査におい
ては「警部補は、告発状の受理判断基準において、一部民事判決に触れた説明を行
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っているものの、最終的に本件告発を不受理と判断したのは、犯罪を構成しないこ
とが明らかであるからであり、請求人の主張する理由で不受理としたものではな
い。」とされている点
⑵ 反論書
ア 実施機関の苦情調査においては「警部補は、告発状の受理判断において、一部
民事判決に触れた説明を行っているものの、最終的には本件告発を不受理と判断
したのは、犯罪を構成しないことが明らかであるからであり、請求人の主張する
理由で不受理としたものではない。」とされている点について、反論する。
イ 松山地方裁判所裁判官の判断及び松山地方裁判所裁判官が請求を「棄却」した
理由を根拠として、愛媛県公安委員会は、本件処分は適正であり、請求人の主張
を容認する理由がないことから、「棄却」されるべきとの判断である。
松山地方裁判所が「棄却」したことが正当なのか。
松山地方裁判所裁判官は法令適用違反をしていることは明らかである。
ウ 裁判官の判断(愛媛県公安委員会)は間違っている。
収支報告書に記載がなされて計上することで支出したことが確定するとはどう
いう意味なのか。
要するに、「人を欺いて政務活動費を騙し取ろうと計画し、虚偽の領収書を使用
しても、収支報告書・出納簿に計算上正しく見せてもそれで良い。」との解釈にな
るということか。
エ 公安委員会委員長は弁護士であり、弁護士法第3条第2項では、「弁護士は、当
然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。」と規定されている。
なぜ、松山地方裁判所の判決を主たる根拠として令和5年9月11日起案の決裁
をしたのか残念ながら全く理解できない。
オ 告発状を認容し、司法警察員たる警察官としての職務執行と松山地方検察庁へ
の送付を求める。
第4 実施機関の主張(要旨)
実施機関が弁明書において主張する本件処分とした理由は、おおむね次のとおりである。
1 法第78条第1項第2号(警部補(同相当職を含む)以下の情報及び個人情報)の該当
性について
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⑴ 警部補(同相当職を含む)以下の氏名及び印影について
法第78条第1項第2号ただし書きに、開示請求者以外の個人に関する情報であった
としても開示される場合の例として、同号ハにより、当該個人が公務員等である場合
において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当
該公務員等の職及び当該職務執行の内容に係る部分と定められているが、当該公務員
等の氏名については、開示した場合、公務員等の私生活等に影響を及ぼすおそれがあ
り得ることから、私人の場合と同様に個人の情報として保護するに値すると位置付け
られている。
また、当該公務員等の氏名であっても、例外的に開示されるものとして、同号イに
より、法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ること
が予定されている情報と定められているが、警部補相当職以下の階級にある警察職員
の氏名に係る情報は、例外的に開示されるものには当たらず、同号において不開示と
定める開示請求者以外の個人に関する情報に該当し、開示請求者以外の個人を識別す
ることができるものであることから、不開示とした。
⑵ 警察官の年齢について
法第78条第1項第2号において不開示と定める開示請求者以外の個人に関す情報に
該当し、開示請求者以外の特定の個人を識別することができるものであることから、
不開示とした。
2 法第78条第1項第5号(擬律判断又は捜査に関する情報)の該当性について
告発状を不受理と結論付けた擬律判断について
捜査機関である愛媛県警察が、請求人からの告発の申し出を受け、同人が提出した関
係資料などをもとに、犯罪を構成するか否かの擬律判断や、当該告発を正式に受理し、
公訴の提起に向けた捜査活動を開始するか否かの判断を行ったことに関する情報であり、
開示すれば、本件告発に係る事案のみならず、今後の同種事案が発生した場合における
捜査に支障を及ぼすおそれがあることから、不開示とした。
3 法第78条第1項第7号(事務又は事業に関する情報)の該当性について
⑴ 関係資料をもとに他機関を評価した情報について
告発相談を受けた警察が、関係資料をもとに他機関を評価したことに係る情報であ
り、告発を不受理とする結論に至った理由の一つでもあるが、同情報を開示した場合、
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今後も反復して行われる告訴・告発の申出対応についても同種情報を開示する必要性
が生じるところ、仮に他機関や関係者に対する警察の評価に関する情報を開示した場
合、警察の判断に不服を感じた申出人が、それら第三者に対して、抗議・けん制等の
働きかけを行うなどのおそれがあり、そのような事態になれば、告訴・告発申出対応
業務の適正な遂行に支障が生じるおそれがあることから、不開示とした。
⑵ 告訴・告発の事務手続要領について
警察組織における適正な告訴・告発の事務手続要領に関する情報であり、開示すれ
ば、今後も反復して行われ、かつその内容に応じた個別具体的な対応を必要とする告
訴・告発相談対応において、申立人から事務手続要領と異なるなどといった無用の抗
議・けん制等が行われ、告訴・告発受付事務の円滑な遂行や、公正かつ適正な判断に
支障が生じるなどして、警察の告訴・告発申出対応業務の適正な遂行に支障が生じる
おそれがあることから、不開示とした。
⑶ 告発状を不受理と結論付けた擬律判断について
告発相談を受けた警察が、関係資料をもとに他機関を評価したことに係る情報であ
り、告発を不受理とする結論に至った理由の一つでもあるが、同情報を開示した場合、
今後も反復して行われる告訴・告発の申出対応についても同種情報を開示する必要性
が生じるところ、仮に他機関や関係者に対する警察の評価に関する情報を開示した場
合、警察の判断に不服を感じた申出人が、それら第三者に対して、抗議・けん制等の
働きかけを行うおそれがあり、そのような事態になれば、今後、開示されることの懸
念により第三者からの協力を得られなくなるなど、告訴・告発申出対応業務の適正な
遂行に支障が生じるおそれがあることから、不開示とした。
4 法第80条(裁量的開示)の該当性について
裁量的開示を適用する理由は認められなかった。
第5 審査会の判断の理由
1 本件審査請求の内容について
本件対象公文書は、令和5年9月20日に請求人が保有個人情報開示請求を行い、同年
10月26日に実施機関が部分開示決定をした際の文書である。
実施機関は、本件対象公文書に記載された「警部補(相当職を含む)以下の氏名及び
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印影」、「警察官の年齢」、「関係資料をもとに他機関を評価した情報」、「 告訴・告発の事
務手続要領」、「告発状を不受理と結論付けた擬律判断」について、それぞれ法の規定に
のっとり、不開示としたことを主張している。
これに対し、請求人は、本件処分の取り消しを求めると主張しているところであり、
以下実施機関による本件処分の妥当性について検討する。
2 処分に係る具体的な判断
⑴ 法第78条第1項第2号適用の可否について
実施機関は、本件対象公文書①の起案者欄及び②に記載のある対象職員の氏名につ
いては、不開示の例外とする公務員等の職務遂行に係る情報に含まれるところ、いず
れも警部補以下の警察官のものであり、同号イの、法令の規定により又は慣行として
開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている情報には該当しないこ
とから、不開示としたとしている。
また、実施機関は、本件対象公文書②内にある対象職員の年齢部分に記載された警
察官個々の年齢については、職務執行とは直接の関係がなく、これらを開示すれば、
個人の権利利益を害するおそれがあり、法第78条第1項第2号に該当することから、
不開示としたとしている。
これに対し、請求人は、前記第3の2審査請求の理由のとおり主張している。
当審査会において、実施機関が不開示とした氏名、印影及び年齢部分について見分
したところ、当該部分に警部補相当職以下の階級にある警察職員の氏名、印影及び対
象職員の年齢が記載されていることを確認した。
法第78条第1項第2号では、開示請求者以外の個人に関する情報であって、当該情
報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識
別することができるもの若しくは個人識別符号が含まれるもの又は開示請求者以外の
特定の個人を識別することはできないが、開示することにより、なお開示請求者以外
の個人の権利利益を害するおそれがあるものについては、開示しないと規定する一方、
同号ただし書きハでは、当該個人が公務員等である場合において、当該情報がその職
務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務
遂行の内容に係る部分については除くと規定している。
ただし、公務員等の職務遂行に係る情報に含まれる当該公務員等の氏名については、
開示した場合、公務員等の私生活等に影響を及ぼすおそれがあり得ることから、私人
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の場合と同様に個人情報として保護するに値すると位置付けられるとともに、同号た
だし書きイに規定する、法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることがで
き、又は知ることが予定されている情報に該当する場合には、例外的に開示すること
となると解されているものである。
「法令の規定により」とは、愛媛県情報公開条例(平成10年愛媛県条例第27号)に
基づく公文書公開請求があった場合における実施機関の公文書公開義務に関して、同
条例第7条第2項第1号ウは、非公開とすべき個人に関する情報の例外として、「当該
情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職
及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分(当該公務員等の氏名に係る情報にあ
っては、公にすることにより、当該公務員等の権利利益を不当に害するおそれがある
場合又は当該公務員等が、そのおそれがあるものとして公安委員会規則で定める職に
ある警察職員である場合の当該情報を除く。)」と定め、さらに、公安委員会が管理す
る公文書の公開に関する規則(平成13年愛媛県公安委員会規則第16号)第2条は、「愛
媛県情報公開条例(平成10年愛媛県条例第27号)第7条第2項第1号ウの公安委員会
規則で定める職は、警部補以下の階級にある警察官をもって充てる職及びこれに相当
する警察官以外の職員をもって充てる職とする」と定めており、警部相当職以上の氏
名に係る情報は非公開情報の例外とされている。
また、「慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている」
とは、職員の人事異動を報道等で公表する場合や、一般向けに販売又は閲覧に供され
ている職員録に氏名が掲載されているような場合など、不特定多数の者が知り得る場
合が、これに該当し、たとえ、請求者が当該職員の氏名を知っていたとしても、それ
が個別的な事例にとどまる限り「慣行として」には当たらない。
したがって、法第78条第1項第2号の規定にのっとって、警部補相当職以下の警察
官の氏名及び印影を不開示としたとする実施機関の説明は合理的である。
次に、対象職員の年齢について、先で述べたとおり、同号では、開示請求者以外の
者の個人情報が含まれる情報であったとしても、開示される場合の例として、当該個
人が公務員等である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるとき
は、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る情報と定めて
いる。
しかしながら、ここでいう「当該職務の遂行の内容に係る情報」とは、公務員等が、
その組織上の地位に基づいて所掌する事務を遂行したことにより記録された情報をい
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うと解されており、公務員の年齢に関する情報が、不開示情報の例外である職務の遂
行に関する情報に該当しないことは言うまでもなく、開示請求者以外の個人に関する
情報であることが明白である警察官個々の年齢を開示すれば、開示請求者以外の個人
の権利利益を害するおそれがあるとする実施機関の説明は合理的である。
これらのことから、法第78条第1項第2号に該当するとして不開示とした実施機関
の決定は、妥当なものと判断する。
⑵ 法第78条第1項第5号適用の可否について
実施機関は、本件対象公文書②の第3本件苦情に関する調査の不開示箇所(9頁33
行目から10頁17行目)については、告発状を不受理と結論付けた擬律判断に関する情
報であり、開示することにより、本件告発に係る事案のみならず、今後の同種事案が
発生した場合における捜査に支障を及ぼすおそれがあり、法第78条第1項第5号に該
当することから、不開示としたとしている。
これに対し、請求人は、前記第3の2審査請求の理由のとおり主張している。
当審査会において、実施機関が不開示とした本件対象公文書②の第3本件苦情に関
する調査の不開示箇所(9頁33行目から10頁17行目)について見分したところ、当該
部分には、犯罪を構成するか否かの擬律判断や、公訴の提起に向けた捜査活動を開始
するか否かの判断を行った情報が記載されていることを確認した。
法第78条第1項第5号では、公共の安全等に関する情報であって、開示することに
より、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序
の維持に支障を及ぼすおそれがあると当該行政機関の長又は地方公共団体の機関が認
めることにつき相当の理由がある情報は、不開示とすることを規定している。
同号は、捜査機関による刑事法の執行を中心とした情報に限定されており、当該行
政機関の長又は地方公共団体の機関が認めることにつき相当の理由がある情報という
のは、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号。令和
5年4月1日廃止)及び愛媛県個人情報保護条例(平成13年愛媛県条例第41号。令和
5年4月1日廃止)と同様に、公共の安全等に関する情報に該当するかどうかの判断
に当たっては、犯罪等に関する将来予測としての専門的・技術的判断を要するなどの
特殊性が認められることから、司法審査の場においては、裁判所が実施機関の第一次
的な判断を尊重し、その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであ
るか否かを審理・判断することが適当と解されるものと認められている。
当該不開示部分は、捜査機関が、請求人から提出を受けた告発状の写し及び関係資
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料をもとに捜査を行った結果、請求人が主張する犯罪の構成要件を満たさず、不受理
と結論付けた擬律判断であり、たとえ、不受理とする際に、請求人に対して口頭で説
明していたとしても、本件対象公文書で開示してしまうと、捜査機関の犯罪捜査に関
する情報が広く知れ渡るおそれがあり、個別具体的な事案によって犯罪の構成要件に
該当するか否か検討すべきものでも、「本件事案の際の擬律判断はこうであった」とい
った抗議・けん制等を受けたり、擬律判断に迷う領域で犯罪を敢行されたりと、本件
告発に係る事案のみならず、今後の同種事案が発生した場合における捜査に支障を及
ぼすおそれが十分予想される。
したがって、告発を不受理と結論付けた擬律判断に関する情報を開示すれば、
本件告発に係る事案のみならず、今後の同種事案が発生した場合における捜査に支障
を及ぼすおそれがあるとする実施機関の説明は合理的である。
これらのことから、当該不開示部分が法第78条第1項第5号に該当するとして不開
示とした実施機関の決定は、妥当なものと判断する。
⑶ 法第78条第1項第7号適用の可否について
実施機関は、本件対象公文書②の第2結論の不開示箇所及び第3本件苦情に関する
調査の不開示箇所(9頁18行目から19行目)については、告発相談を受けた警察官が、
請求人から提出を受けた関係資料をもとに他機関を評価した情報であり、開示すれば、
警察の判断に不服を感じた請求人が、それら他機関に対して、抗議・けん制等の働き
かけを行うなどのおそれが認められ、今後も反復して行われる告訴・告発の申出対応
業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるなどと説明している。
次に、本件対象公文書②の第3本件苦情に関する調査の不開示箇所(5頁25行目か
ら6頁2行目)については、告訴・告発の事務手続要領に関する情報であり、開示す
れば、実務上、個別具体的な対応を必要とする告訴・告発相談対応において、申立人
から事務手続要領と異なるなどといった無用の抗議・けん制等が行われ、今後も反復
して行われる告訴・告発受付事務の円滑な遂行や、公正かつ適正な判断に支障が生じ
るなどして、警察の告訴・告発申出対応業務の適正な遂行に支障が生じるおそれがあ
るなどと説明している。
そして、前記第5の2⑵において適用の可否について検討した、本件対象公文書②
の第3本件苦情に関する調査の不開示箇所(9頁33行目から10頁17行目)については、
告発を不受理と結論付けた擬律判断に関する情報でもありながら、告発相談を受けた
警察官が、関係資料をもとに他機関を評価したことに係る情報でもあり、開示すれば、
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警察の判断に不服を感じた申出人が、それら第三者に対して、抗議・けん制等の働き
かけを行うおそれがあり、今後、開示されることの懸念により第三者からの協力を得
られなくなるなど、告訴・告発申出対応業務の適正な遂行に支障が生じるおそれがあ
るなどと説明している。
これに対し、請求人は、前記第3の2審査請求の理由のとおり主張している。
当審査会において、実施機関が不開示とした、本件対象公文書②の第2結論の不開
示箇所及び第3本件苦情に関する調査の不開示箇所(9頁18行目から19行目)、(5頁
25行目から6頁2行目)(9頁33行目から10頁17行目)について見分したところ、当
該部分には、警察が他機関の判断を評価した情報、警察組織における告訴・告発事務
手続要領に関する情報及び告発状を不受理と結論付けた擬律判断に関する情報(公共
の安全等に関する情報を適用し不開示とした内容と同一部分)が記載されていること
を確認した。
法第78条第1項第7号では、地方公共団体等が行う事務又は事業に関する情報であ
って、開示することにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当
該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報は、不開示とすること
を規定している。
「次に掲げるおそれ」とは、同号イからトまで例示的に規定されているものをいう
が、これらのおそれ以外については、「その他当該事務又は事業の性質上、当該事務
又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」として判断されることとさ
れており、また、「当該事務又は事業」とは、当該事務又は事業に直接関わる個人情
報だけではなく、当該事務又は事業の実施に影響を与える関連情報を含むものである
と解されるほか、同種のものが反復されるような性質の事務又は事業にあっては、あ
る個別の事務又は事業に関する情報を開示すると、将来の同種の事務又は事業の適正
な遂行に支障が生じるような場合や、開示することにより、関係者間の信頼関係を損
なうことに繋がりかねない場合も該当すると解されている。
はじめに、本件対象公文書②の第2結論の不開示箇所及び第3本件苦情に関する調
査の不開示箇所(9頁18行目から19行目)については、告発相談を受けた警察官が、
請求人から提出された、請求人の質疑に対して他機関が回答した資料を読み解き評価
したものであり、これを開示すれば、実施機関が主張するように、警察の評価の判断
に不服を感じた請求人が、当該機関に対して、抗議・けん制等の働きかけを行うなど
のおそれがあり、そのような事態になれば、今後も対応を必要とされる告訴・告発申
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出対応業務における捜査等の過程において、将来的に保有個人情報開示請求が行われ
ることで、開示されることによる影響を懸念した第三者が、協力を拒否することや、
仮に協力を得られたとしても形骸的なものに留まることなどにより、正確な事実関係
の把握を行うことが困難になることが十分に予想され、当該事案のみならず、今後の
告訴・告発申出対応業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
次に、本件対象公文書②の第3本件苦情に関する調査の不開示箇所(5頁25行目か
ら6頁2行目)については、請求人からの、告発状提出時における受理方法が犯罪捜
査規範第63条第1項に反するという申立てに対して示された、警察組織における適正
な告訴・告発の事務手続要領に関する情報であり、これを開示すれば、実施機関が主
張するように、実務上、相談内容に応じて個別具体的な対応を必要とする告訴・告発
相談対応において、事務手続要領と異なるなどといった無用の抗議・けん制等が行わ
れることなどにより、公正かつ適正な判断に支障が生じ、今後の告訴・告発申出対応
業務の適正な遂行に支障が生じるおそれがあると認められる。
したがって、警察が関係資料をもとに他機関を評価した情報及び告訴・告発の事務
手続要領に関する情報を開示すれば、事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそ
れがあるとする実施機関の説明は合理的である。
最後に、本件対象公文書②の第3本件苦情に関する調査の不開示箇所(9頁33行目
から10頁17行目)については、告発を不受理と結論付けた擬律判断に関する情報が記
載されており、実施機関は、関係資料をもとに他機関を評価した情報であり、告発を
不受理とする結論に至った理由の一つでもあると説明している。
たしかに、警察が関係資料をもとに他機関を評価した情報であれば、先に検討した
とおり、開示されることによる影響を懸念した第三者が、警察の協力を拒否すること
や、仮に協力を得られたとしても形式的なものに留まることなどで、今後の告訴・告
発申出対応業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは否定できないが、実
施機関が、警察が他機関を評価するに至った関係資料の精査を行ったところ、請求人
が警察へ提出した客観的事実が記載されている資料をもとに、警察が捜査を行った上
で擬律判断したものであり、警察が他機関の判断を評価している情報とまでは言えな
いということが確認された。
したがって、請求人の主張を考慮するまでもなく、法第78条第1項第7号に該当す
るとして不開示とした実施機関の決定は、妥当ではないと判断する。
これらのことから、当該不開示箇所の事務又は事業に関する情報の該当性は認めな
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いものとするが、当該不開示箇所は、前記第5の2⑵において、該当性が認められた
公共の安全等に関する情報の不開示部分と同一であり、結局のところ、公共の安全に
関する情報として、不開示とされることに変わりはない。
⑷ 法第80条に規定される裁量的開示の可否について
法第80条は、行政機関の長等は、開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含ま
れている場合であっても、個人の権利利益を保護するため特に必要があると認めると
きは、開示請求者に対し、当該保有個人情報を開示することができると裁量的開示を
規定している。
実施機関は、本件請求については、裁量的開示を適用する理由は認められなかった
と説明している。
他方、請求人は、審査請求の理由として、前記第3の2審査請求書のとおり、電話
対応をした巡査が「個人でしても無駄」などと発言したり、勝手に録音を開始したに
もかかわらず、苦情調査においては、それらの発言や録音した事実はなかったとされ
ていることや、告発状の写しに「検討用として写しを提出します。」などと署名・押印
を求めた上、告発状の写しを預かったことは犯罪捜査規範第63条第1項の趣旨に反す
るということ、警部補が松山地方裁判所の判決文の一部を引用し、告発状は受理でき
ないと判断したことは明らかな法令違反であるなどと主張していることから、裁量的
開示を行使する理由の有無について検討することとする。
法に定める裁量的開示とは、法第78条各号に規定する不開示情報に該当すると判断
する場合であっても、当該規定により保護する利益と、開示されることにより保護さ
れる個人の権利利益とを比較衡量して、開示することの利益が優越し、特に開示する
必要があると認められるときに、行政機関の裁量により開示することができるという
ものであるが、行政機関による無制限の裁量を認めるものではなく、決して恣意的な
裁量がなされてはならないと解されている。
前記第5の2の⑴ないし⑶で検討したとおり、一部、事務又は事業に関する情報を
適用したこと以外に係る実施機関の判断は、法の規定にのっとった妥当なものである
と認められることから、それでもなお、開示することによる請求人の利益が、法の規
定により保護される請求人以外の個人の権利利益や事務又は事業の適正な遂行等を優
越し、特に開示する必要があると認められるか否かが争点となると認められる。
この点について、請求人の主張している内容は、実施機関としては、本件対象公文
書②に記載されているように、請求人からの苦情申出を受けて調査を行った結果、一
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連の職務執行は適正になされ、警察官の対応に問題は認められなかったと結論付けて
おり、苦情調査における事実の改ざんや、警部補が法令違反を犯しているという事実
が存在しない以上、請求人個人の独自の見解に過ぎず、実施機関が自らの裁量を行使
して開示する理由はない。
そもそも、行政不服審査法に基づく審査請求とは、行政処分に対する不服を申し立
てる制度であるが、請求人は、「本件処分の取り消しを求める理由」として、行政処分
には当たらない「苦情の調査結果」に対しての不満や更なる調査及び説明を求める旨
の趣旨を主張しており、本件処分を取り消して、全部開示するだけの合理的な理由に
はなり得ない。
これらのことから、法第80条を適用しなかった実施機関の決定は、妥当なものと判
断する。
3 請求人の意見について
その他請求人は警察への不満等を種々述べているが、これらは本件処分に対する審査
会の判断に影響するものではない。
4 まとめ
以上により、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断するものである。
第6 審査会の審議等の経過
当審査会の処理経過は、次のとおりである。
審査会の審議の経過
年 月 日
処理内容
令和6年4月11日
諮問
令和6年5月17日
審査会(第1回審議)
令和6年7月8日 審査会(第2回審議)
令和6年9月24日
審査会(第3回審議)
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答申に関与した委員(五十音順)
氏 名 現 職 備 考
光 信 一 宏 愛媛大学法文学部教授
武 田 秀 治 弁護士
豊 島 徳 子 元人権擁護委員
牧 本 公 明 松山大学法学部准教授
吉 武 理 大 松山大学人文学部准教授
会 長
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淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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