令和5年8月17日付けで「令和○年○月頃,私が○○警察署に郵送した告発状の対応が分かる告訴告発事件処理簿,それに付随する書類中の私に関する情報」の保有個人情報開示請求を行った(鹿児島県警)

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答申保第78号
令和6年10月22日
(諮問保第100号)

1 審査会の結論

鹿児島県警察本部長(以下「実施機関」という。)が,本件審査請求の対象となった保
有個人情報について不開示とした情報のうち,別表の「審査会の判断」の欄で「開示」と
記載した情報については,開示すべきである。
2 審査請求の内容
⑴ 審査請求の経緯
審査請求人は,個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「法」とい
う。)第77条第1項の規定に基づき,令和5年8月17日付けで「令和○年○月頃,私が
○○警察署に郵送した告発状の対応が分かる告訴告発事件処理簿,それに付随する書類
中の私に関する情報」の保有個人情報開示請求を行った。
これに対し実施機関は,令和5年8月30日付け鹿捜一第148号で,保有個人情報一部開
示(以下「本件処分」という。)を行った。
その後,本件処分を不服として,行政不服審査法(平成26年法律第68号)第2条の規
定に基づき,令和5年11月21日付けで審査請求がなされたものである。
⑵ 審査請求の趣旨
本件処分を取り消すとの裁決を求めるものである。
⑶ 審査請求の理由
審査請求人が審査請求書及び反論書において述べている審査請求の主たる理由は,要
約すると次のとおりである。
ア 開示された文書が黒塗りばかりで内容が分からないので開示してほしい。
イ ○○警察署,○○課の方は,私の畑の中に国道○号線の境界標が移動されているの
に,私と立会いの現場検証も行っていません。私の畑の中の構造物が壊されているの
に,現地での確認もしていない捜査です。告発事件処理簿は事件性無しだけで,全て,
黒塗りです,秘密なことが書かれているのでしょうか。私には知る権利があります。
国道○号線の境界標は移動されていないと嘘の記載があるから,全てが黒塗りになっ
ているのではないでしょうか。せめて,私の畑の中にある境界標が移動されているか,
移動されていないかを知りたいです。
ウ 告発状の事件処理簿は「事件性なし」以外,黒塗りはなぜでしょう。現場にて私の
立会いのもと,確認されていません。○○市がどのような発言をされたのか,○○県
がどのような発言をされたのか,県民として,市民として,私には知る権利がありま
す。○○市と○○県のおかげで,大変な被害に合っていますから,私には知る権利が- 1
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あります。
エ ○○警察署から何度も問い合わせても,告発不受理の理由を教えてもらえないとい
うのは,おかしい。○○警察署は,事件性はないと言うことは,どういうことなので
しょうか。
オ 私の畑の中に境界標が移動されているから,私の畑に入って,わたくしどもと,現
場検証,確認されていたら,器物損壊罪であることは明白なのに,○○警察署の担当
者の方は,黙殺されている。
3 審査請求に対する実施機関の説明要旨
実施機関から提出された弁明書及び口頭による説明の要旨は,次のとおりである。
⑴ 審査請求人は,「黒塗りばかりで内容が分からない」と主張しているが,実施機関は
文書開示に当たり,法第79条に即して,法第78条第1項第2号(開示請求者以外の個人
に関する情報),同項第5号(公共の安全等に関する情報)及び同項第7号(事務又は
事業に関する情報)に該当する不開示情報について,不開示部分が明らかにならないよ
うにするための最良の方法である黒塗りの措置を講じたものであり,原処分は法に則っ
て行われ,適法かつ妥当である。
⑵ 告訴告発事件処理簿には,○○警察署が審査請求人から告発状の送付を受けてから,
告発状の不受理に至った捜査経過等が記載されている。
これらを開示することにより,捜査手法が犯罪者側に知られると,関係者との口裏合
わせなど容易に証拠隠滅が可能となることなど捜査手法や捜査の着眼点が明らかにな
り,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそ
れがある。
また,開示することにより,事情聴取先や各種照会先等を明らかにすることで,その
後の相手先からの捜査協力が得られなくなるなど,将来の捜査に支障を生じるおそれが
あることに加え,警察の捜査の内容や捜査項目等を明らかにすることで,告訴等の受理
不受理の判断の詳細が公に周知されることなど捜査の判断や処理方針,その判断等に要
する日数に関する情報が明らかになり,当該事務の性質上,その適正な遂行に支障を及
ぼすおそれがある。
⑶ 警察職員の氏名や押印について,警部補以下を不開示としている。
4 審査会の判断
⑴ 審査の経過
審査会は,本件審査請求について,以下のような審査を行った。
年 月 日
審査の経過
令和5年12月8日 諮問を受けた。
令和6年1月25日 実施機関から弁明書の写しを受理した。
3月28日 実施機関から反論書の写しを受理した。
7月24日 諮問の審議を行った。(実施機関から処分理由等を聴取)- 2
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9月27日 諮問の審議を行った。
⑵ 審査会の判断
ア 本件処分に係る対象保有個人情報として実施機関が特定したのは「令和○年○月○
日,○○警察署が相談受理したあなたが告発人になっている告発状に係る告訴・告発
事件処理簿中のあなたに関する情報」である。
実施機関は,これらのうち,決裁欄,「相談受理者」欄,「捜査主任官」及び「処理
担当者」欄の一部を法第78条第1項第2号,「捜査経過」等と記載された資料の「年
月日」欄及び「捜査経過」欄を同項第5号及び同項第7号に該当するとして一部開示
決定を行った。
審査請求人は,本件処分の取消しを求めていることから,これらの情報が実施機関
の主張する法律第78条第1項第2号(開示請求者以外の個人に関する情報),同項第
5号(公共の安全等に関する情報)及び同項第7号(事務又は事業に関する情報)に
該当するか検討する。
イ 法第78条第1項第2号(開示請求者以外の個人に関する情報)該当性について
法第78条第1項第2号
法第78条第1項第2号は,「開示請求者以外の個人に関する情報(事業を営む個人
の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日そ
の他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの(他
の情報と照合することにより,開示請求者以外の特定の個人を識別することができ
ることとなるものも含む。)若しくは個人識別符号が含まれるもの又は開示請求者以
外の特定の個人を識別することはできないが,開示することにより,なお開示請求
者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を不開示情報として規定して
いる。
また,同号ただし書において,「イ 法令の規定により又は慣行として開示請求
者が知ることができ,又は知ることが予定されている情報」,「ロ 人の生命,健康,
生活又は財産を保護するため。開示することが必要であると認められる情報」,「 ハ
当該個人が公務員等である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報
であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る
部分」のいずれかに該当する情報については,同項本文に該当する場合であっても,
開示しなければならない旨規定している。
本件対象保有個人所法の法第78条第1項第2号該当性
警察職員(警部又は同相当職以上の職員を除く。)の「氏名」及び「印影」は,開
示請求者以外の特定の個人を識別することができる情報であって,法第78条第1項
第2号の開示請求者以外の個人に関する情報であり,同号ただし書のいずれにも該
当しない。
したがって,警察職員(警部又は同相当職以上の職員を除く。)の「氏名」及び
「印影」を法第78条第1項第2号に該当するとして不開示とした実施機関の判断は
妥当である。- 3
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ウ 法第78条第1項第5号(公共の安全等に関する情報)該当性について
法第78条第1項第5号
法第78条第1項第5号は,「開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,
公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあ
ると当該行政機関の長又は地方公共団体の機関が認めることにつき相当の理由があ
る情報」を不開示情報と規定している。
開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他
の公共の安全と秩序び維持に支障を及ぼすおそれがある情報については,その性質
上,開示・不開示の判断に犯罪等に関する将来予測としての専門的・技術的判断を
要することなどの特殊性が認められることから,司法審査の場においては,裁判所
がこの号に規定する情報に該当するかどうかについての実施機関の第一次的な判断
を尊重し,その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるか否
か,いわゆる相当の理由の有無について審理・判断するのが適当であり,このよう
な規定となっている。
法第78条第1項第5号該当性
実施機関は,「捜査経過」等と記載された資料の「年月日」欄及び「捜査経過」
欄については,関係者等に事実確認を実施した上で告訴等の不受理を判断するとい
う捜査手法が知られると,関係者との口裏合わせなど容易に証拠隠滅が可能となる
ことなど,捜査手法や捜査の着眼点が明らかになり,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,
その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあり,また,「捜査経過」
欄については,その記載内容の全てが捜査に直結するものであると説明する。
対象保有個人情報ついて,審査会で見分したところ,「捜査経過」等と記載され
た資料の「年月日」欄及び「捜査経過」欄には,実施機関が告発状について捜査し
た捜査状況や,関係者への聞き取り状況,本件終結に至った判断等が記載されてお
り,実施機関の捜査手法や捜査の着眼点等が明らかになる部分であることが認めら
れる。
したがって,これらの情報を開示することによって,捜査手法や捜査の着眼点が
明らかになり,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,その他の公共の安全と秩序の維持に支
障を及ぼすおそれがあるものとした実施機関の判断には相当な理由があると認めら
れることから,法第78条第1項第5号に該当する。
しかし,「年月日」欄の3行目及び「捜査経過」欄の16行目2文字目ないし24文
字目,17行目,18行目,19行目1文字目ないし16文字目については,請求人も当然
知りえる情報であると考えられ,これらを開示しても犯罪の予防,鎮圧又は捜査,
その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるとは考えにくい。
したがって,「年月日」欄の3行目及び「捜査経過」欄の16行目2文字目ないし2
4文字目,17行目,18行目,19行目1文字目ないし16文字目について,法第78条第
1項第5号の犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安
全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の
理由がある情報とは認められない。- 4
本答申は情報公開・個人情報保護審査会条例第15条に基づき公表しています。
エ 法78条第1項第7号(事務又は事業に関する情報)該当性について
法第78条第1項第7号(事務又は事業に関する情報)
法第78条第1項第7号は,「国の機関,独立行政法人等,地方公共団体又は地方
独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって,開示することにより,次
に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行
に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開示情報として規定している。
法第78条第1項第7号該当性
実施機関は,事情聴取先や各種照会先等を明らかにすることで,その後の相手先
からの捜査協力が得られなくなるなど,将来の捜査に支障を生じるおそれがあるこ
とに加え,警察の捜査の内容や捜査項目等を明らかにすることで,告訴等の受理不
受理の判断の詳細が公に周知されることなど捜査の判断や処理方針,その判断等に
要する日数に関する情報が明らかになり,当該事務の性質上,その適正な遂行に支
障を及ぼすおそれがあると説明する。
対象保有個人情報について,審査会で見分したところ,「捜査経過」等と記載さ
れた資料の「年月日」欄及び「捜査経過」欄には,実施機関が告発状について捜査
した捜査状況や,関係者への聞き取り状況,本件終結に至った判断等が記載されて
おり,事情聴取先や告訴等の受理不受理の判断,判断等に要する日数が明らかにな
る部分であることが認められる。
当該部分は,法78条第1項第7号に該当するとして実施機関は不開示としている
が,上記ウ のとおり,同項第5号にも該当することから,同項第7号該当性を論
ずるまでもなく,不開示情報に該当する。
しかし,「年月日」欄の3行目及び「捜査経過」欄の16行目2文字目ないし24文
字目,17行目,18行目,19行目1文字目ないし16文字目について,審査請求人も当
然知りうる情報であると考えられ,これらを開示しても,当該事務の性質上,その
適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは考えにくい。
したがって,「年月日」欄の3行目及び「捜査経過」欄の16行目2文字目ないし2
4文字目,17行目,18行目,19行目1文字目ないし16文字目について,法第78条第
1項第7号の当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を
及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報とは認め
られない。
オ その他の主張について
審査請求人は,その他種々主張しているが,いずれも上記の判断を左右するもので
はない。
よって,「1 審査会の結論」のとおり判断する。- 5

別表
1 告訴・告発事件処理簿(相談受理:令和2年7月28日)
対象保有個人情報
不開示理由
(実施機関が不開示とした部分) (法第78条第1項)
第2号 第5号 第7号
・決裁欄の一部(警察職員の印影) ○ 妥当
・「相談受理者」欄の一部
・「捜査主任官」欄の一部
・「処理担当者」欄に一部
審査会の判断
・「捜査経過」等と記載された資
料の「年月日」欄及び「捜査経
過」欄
○ ○ 一部開示
①「年月日」欄の3行目
②「捜査経過」欄の16行目
2文字目ないし24文字目
③「捜査経過」欄の17行目
④「捜査経過」欄の18行目
⑤「捜査経過」欄の19行目
1文字目ないし16文字目


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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