広島県情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問30(個)第6号)

広島県情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問30(個)第6号)
第1 審査会の結論
広島県警察本部長(以下「実施機関」という。)が,本件審査請求の対象とな
った保有個人情報を特定した上で,当該保有個人情報の一部を不開示とした決定
は,妥当である。
第2 審査請求に至る経緯
1 開示の請求
審査請求人は,平成30年3月6日,広島県個人情報保護条例(平成16年広島県
条例第53号。以下「条例」という。)第10条第1項の規定により,次の保有個人
情報の開示の請求を行った。(以下(1)に係るものの請求を「本件請求1」,(2)
に係るものの請求を「本件請求2」,(3)に係るものの請求を「本件請求3」と
いい,(1)から(3)までに係るものの請求を「本件請求」という。)
(1)「平成30年1月29日付・告発状」(以下「本件告発状」という。)に関して,
内部における意思形成過程・経緯・合意形成過程等の分る一切の資料等,その
意思形成過程・経緯・合意形成過程等において解釈・判断できる法的根拠・事
由・規定・基準・規程等の分る一切の資料等
(2)「2018年2月22日付・≪異議申立および再告発ならびに公開質問≫」(以下「本
件公開質問書」という。)に関して,内部における意思形成過程・経緯・合意
形成過程等の分る一切の資料等,その意思形成過程・経緯・合意形成過程等に
おいて,解釈・判断における法的根拠・事由・規定・基準・規程等の分る一切
の資料等
(3)「平成30年2月27日付・告発状の不受理決定について(通知)」(以下「本件
不受理通知」という。)に関して,内部における意思形成過程・経緯・合意形
成過程等の分る一切の資料等,その意思形成過程・経緯・合意形成等において
解釈・判断できる法的根拠・事由・規定・基準・規程等の分る一切の資料等
なお,実施機関は,本件請求について形式上の不備があったため,平成30年3
月12日に審査請求人に補正を求め,同月17日付けで審査請求人から補正書が提出
された。
2 本件請求に対する決定
(1)本件請求1について
実施機関は,次の情報を本件請求1の対象となる保有個人情報として特定し,
条例第14条第3号,第5号及び第7号に該当する情報が記載されていることを
理由に自己情報部分開示決定(以下「本件処分1」という。)を行い,平成30
年3月29日付けで審査請求人に通知した。
ア 平成29年12月26日付け告訴・告発事件相談受理票(相談者:○○)(以下
「本件対象文書1」という。) - 1 -
イ 平成30年2月19日付け告訴・告発事件相談受理票(相談者:○○)(以下
「本件対象文書2」という。)
ウ 平成30年2月23日付け「告発人に告発状を送付する理由について」と題す
る報告文書(以下「本件対象文書3」という。)
エ 平成30年2月27日付け「告発状の不受理決定について」と題する通知文書
(以下「本件対象文書4」といい,本件対象文書1から本件対象文書4まで
を総称して「本件対象文書」という。)
(2)本件請求2及び本件請求3について
実施機関は,本件対象文書3及び本件対象文書4を本件請求2及び本件請求
3の対象となる保有個人情報として特定し,条例第14条第3号及び第5号に該
当する情報が記載されていることを理由に自己情報部分開示決定(以下本件請
求2に対する決定を「本件処分2」,本件請求3に対する決定を「本件処分3」
といい,本件処分1から本件処分3までを総称して「本件処分」という。)を
行い,平成30年3月29日付けで審査請求人に通知した。
なお,同通知の開示しない部分及びその理由の説明において,誤って開示し
ている内容を開示しない部分として記載し,また,対象文書を示す番号にも誤
りがあったが,平成30年7月2日付けで,広島県公安委員会(以下「諮問実施
機関」という。)から審査請求人に対して送付された実施機関による弁明書に
おいて訂正されている。
3 審査請求
審査請求人は,平成30年5月17日,本件処分を不服として,行政不服審査法(平
成26年法律第68号)第2条の規定により,諮問実施機関に対し審査請求を行った。
第3 審査請求人の主張要旨
1 審査請求の趣旨
(1)「≪公開質問≫に係る回答をし,資料提供等による説明責任を果たせ」とす
る裁決を求める。
(2)「 自己情報部分開示決定」を取り消し,全部開示決定とする裁決を求める。
(3)上記(1)及び(2)の各事項を求めるに当たり,法的根拠ならびに論理的整
合性のある,憲法にそう情報公開法・条例あるいは個人情報保護法・県条例な
いしは行政手続法・条例等の規定に当てはめての裁決を求める。いずれも,請
求人の「公文書の所有権」と「知る権利」ないしは「情報へのアクセス権」な
どの保障となす運営と運用をはかるべきとする裁決を求める。
2 審査請求の理由
審査請求人が,審査請求書で主張している審査請求の理由は,おおむね次のと
おりである。
本件対象文書4においては,告発の不受理決定に至る内部における意思形成過- 2 -
程等が判明せず,不開示理由には正当性・合理性・法理性は見当たらず,公開質
問への対応もなく,請求人の知る権利,情報へのアクセス権の侵害である。本件
処分に係る通知書の別紙4における「開示手続について」とする「費用の内訳」
だけを全てとするのは,正当性・合理性・法理性のある開示手続きには当たらな
い。
行政文書存否応答拒否あるいは自己情報部分開示決定の態様・類型からみた場
合,なぜ行政文書存否応答拒否なのか,なぜ自己情報部分開示決定なのか,など
請求事項に係る情報作成・内実・手続に対して理解と納得できず,請求人の公文
書の請求権(公文書は「国民」・市域住民の財産である,など),知る権利(情報
を知ることで表現活動によって権力の恣意・横暴等を抑制させる,など),アク
セス権(情報作成の手続・内容等の透明性をはかる,など)を侵害しているとみ
る。
第4 実施機関の説明要旨
諮問実施機関が,当審査会に提出した実施機関の弁明書で説明する本件処分を
行った理由は,おおむね次のとおりである。
1 本件処分の経過
(1)本件請求に係る保有個人情報の前提となる事実
ア 平成29年12月26日,審査請求人は,廿日市警察署へ審査請求代理人ほか1
名の者とともに告発状を持参して来署したことから,同署は告発相談として
対応し,当該告発状について,告発事実及び被告発者の特定根拠の不十分を
指摘した。
審査請求人は,再度作成し直しする旨で退署したことから,廿日市警察署
は,同日付けの告訴・告発事件相談受理票を作成した。
平成30年1月24日,廿日市警察署は,審査請求人宅を訪問したところ,同
人から前記告発事実の端緒となる参考人の情報提供を受けたため,同人から
事情聴取を行ったが,やはり告発事実の特定には至らなかった。
平成30年1月31日,審査請求人は,廿日市警察署へ来署し,再び告発状を
提示したが,廿日市警察署は,同人に対して担当者から当該告発について被
告発者及び告発事実が特定できないことを理由に不受理とする説明を行い,
同日,平成29年12月26日付け告訴・告発事件相談受理票については終結とな
った。
イ 平成30年2月19日,廿日市警察署は,審査請求人から同人及び審査請求代
理人を告発人とする平成30年1月29日付け告発状の郵送を受けたことから,平
成30年2月19日付けの告訴・告発事件相談受理票を作成した。
なお,当該告発の内容は,やはり被告発人を特定する根拠が明らかではな
く,犯罪事実の特定もなされておらず,告発として直ちに受理できるもので
はなかったため,廿日市警察署は,審査請求人へ連絡し,当該告発状の原本
を返送した。 - 3 -
平成30年2月23日,廿日市警察署は,審査請求人から再度,平成30年2月
22日付け「≪異議申立および再告発ならびに公開質問≫」と題する文書,平
成30年2月22日付け告発状及び平成30年1月29日付け告発状の郵送を受け
たため,当該告発に関して不受理とする理由を記載した平成30年2月27日付
けの「告発状の不受理決定について(連絡)」と題する通知文書とともに審
査請求人から郵送された全ての文書の原本を同人に返送した。
(2)本件請求に係る保有個人情報について
前記(1)の事実に基づき,本件請求の対象となる保有個人情報が記載され
た行政文書を検索したところ,本件対象文書1から本件対象文書4までを特定
した。
(3)不開示部分の特定
本件対象文書中,不開示部分を次のとおり特定した。
ア 本件対象文書において不開示とした部分
警察職員のうち警部補(同相当職)以下の職にある者の氏名及び印影
イ 本件対象文書1及び本件対象文書2のうち,警察電話番号及び県警ブラウ
ザの番号
ウ 本件対象文書3の添付資料(「○○に対する対応状況」と題する文書)の
うち不開示とした部分
(4)本件処分の内容
本件請求1に対しては,本件対象文書を特定し,前記(3)のア,イ及びウ
を不開示部分とする本件処分1を行った。
また,本件請求2及び本件請求3に対しては,本件対象文書3及び本件対象
文書4を特定し,それぞれ前記(3)のア及びウを不開示部分とする本件処分
2及び本件処分3を行った。
2 弁明の理由
(1)不開示とした理由
ア 警察職員のうち警部補(同相当職)以下の職にある者の氏名及び印影(条
例第14条第3号に該当)
開示請求者以外の特定の個人が識別され,又は識別され得る情報であり,
かつ,条例第14条第3号ただし書に該当しないことから,これを開示するこ
ととなると,当該個人の権利利益が損なわれるおそれがあるため不開示とし
た。
イ 警察電話番号(条例第14条第7号に該当)
開示することとなると,警察事務の適正な遂行に支障を及ぼす恐れがある
ため不開示とした。
ウ 県警ブラウザの番号(条例第14条第7号に該当)
開示することとなると,警察事務の適正な遂行に支障を及ぼす恐れがある
ため不開示とした。 - 4 -
エ 本件対象文書3の添付資料(「○○に対する対応状況」と題する文書)の
うち不開示とした部分(条例第14条第3号又は第5号に該当)
開示請求者以外の特定の個人が識別され,又は識別され得る情報であり,
かつ,条例第14条第3号ただし書に該当しない,若しくは,本件開示請求に
係る告発事件の捜査に関する情報であり,開示することとなると,当該個人
の権利利益が損なわれるおそれ又は犯罪の予防及び捜査等の公共の安全と
秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるため不開示とした。
(2)審査請求人の主張に対する弁明
審査請求人は,審査請求書において,「本件処分の対象となる本件対象文書
4に関し『告発の不受理決定』に至る内部における意思形成過程等が判明せず,
『不開示理由』には,正当性,合理性及び法理性は見当たらないとし,また,
自己情報部分開示決定通知書の『別紙4』における『開示手続について』とす
る『費用の内訳』だけを全てとするのでは,正当性,合理性及び法理性のある
開示手続きには当たらない」旨,主張している。
しかしながら,本件対象文書は,前記1の(1)の事実に基づいて特定し,
それぞれ不開示情報を除き全て開示しており,その開示判断に関しては,本件
対象文書の内容に係る事務の決裁などの意思形成過程等に左右されるものでは
ないことから,不開示理由に正当性や合理性などが見当たらないとする審査請
求人の当該主張は,失当である。
第5 審査会の判断
1 本件請求について
本件請求は,審査請求人が,実施機関に対して提出した本件告発状,本件公開
質問書及び実施機関から受け取った本件不受理通知について,実施機関の内部に
おける意思形成過程等が分かる資料等の開示を求めるものであり,実施機関は,
本件対象文書を特定し部分開示決定を行ったものである。
2 本件処分の妥当性について
(1)審査請求の内容について
審査請求人は,本件対象文書4では告発の不受理決定に至る内部の意思形成
過程等が判明せず審査請求人の知る権利等を侵害している旨,また,本件処分
の通知書における開示に要する費用の内訳に記載された内容が全てではない
旨主張していることから,本件審査請求は,本件対象文書以外の文書の特定及
び本件対象文書の不開示部分の開示を求めるものととらえるのが相当である。
よって,以下,本件対象文書の特定の妥当性及び本件対象文書の不開示情報
該当性について検討する。
(2)本件対象文書の特定の妥当性について
ア 実施機関の事務処理等について
本件請求は,告発に関連するものであるため,諮問実施機関に対して,警- 5 -
察署に告発が行われた場合の実施機関における事務処理の流れ及び作成さ
れる行政文書について確認したところ,次の(ア)から(オ)までのとおり
であった。
(ア)警察署における告訴・告発事件の事務を行っている警察署告訴センター
において,告発事件の相談としての受付が行われる。その際,当該告発を
直ちに受理するときを除き,告発人から告発状の原本を受領することはな
く,その写しを疎明資料として提出させる。
(イ)警察署告訴センターにおいて,告訴・告発事件処理要領に基づく「告訴・
告発事件相談受理票(以下「相談受理票」という。)」及び警察安全相談取
扱要綱に基づく「相談簿」を作成し,警察署長へ当該告発相談の報告及び
指揮伺いを行う。
(ウ)相談受理票の写しを,警察本部における告訴・告発事件の事務を行って
いる本部告訴センター経由で警察本部事件主管課へ送付し,報告する。
(エ)警察署告訴センターは,警察本部事件主管課の告訴事件専門官の意見を
踏まえ,告発の受理の可否について判断する。
(オ)不受理となった場合は,告発人へ不受理の理由の説明を行い,受理する
場合は,告発状(原本)の提出を受ける。
イ 本件対象文書等について
本件告発状,本件公開質問書及び本件不受理通知と本件対象文書の関係に
ついて,諮問実施機関に対して確認したところ,次の(ア)から(ウ)まで
のとおりであった。
(ア)審査請求人から,本件告発状に記載された内容と同じ相談が,本件対象
文書1に記載された相談日(平成29年12月26日)に行われ,当該相談は,
平成30年1月31日に不受理となって終結した。
(イ)その後,本件告発状が,本件対象文書2に記載された相談日(平成30
年2月19日)及び本件対象文書3の伺い日(平成30年2月23日)に,審査
請求人から廿日市警察署へ送付されたが,本件告発状に係る告発相談は不
受理とすることが決定していたことから,いずれも審査請求人に返送した。
(ウ)本件公開質問書は,本件告発状とともに,本件対象文書3の伺い日(平
成30年2月23日)に,審査請求人から廿日市警察署へ送付されたものであ
り,本件不受理通知は,本件告発状及び本件公開質問書を審査請求人に返
送する際に添付したものである。
当審査会において本件告発状を見分したところ,告発人は審査請求人ほか
1名であり,被告発人による告発事実に記載の所為が刑法に抵触すると思料
するため,捜査の上,処罰を求める旨記載されていた。そして,本件対象文
書1及び本件対象文書2には,「告訴・告発事件相談受理票」と題する様式
に,審査請求人を相談者とする本件告発状と同様の相談内容及び告発を不受
理とする旨の実施機関の対応結果が記載されており,本件対象文書3には,
廿日市警察署内の伺い文として本件告発状を審査請求人に返送する理由等- 6 -
が記載されており,本件対象文書4には,廿日市警察署内の伺い文として本
件告発状を不受理とする旨の連絡を行う審査請求人宛ての通知文案が記載
され,本件告発状及び本件公開質問書の写しが添付されていた。
ウ 本件対象文書の特定について
上記アの実施機関の説明によれば,告発相談が不受理となった場合におい
ても,告発相談が行われた場合には,実施機関において相談受理票及び相談
簿が作成されるということである。そして,本件告発状に係る告発相談の相
談簿は,本件請求1の対象文書として特定され,別途開示されていることが
確認できた。
そうすると,本件請求1に対して,当該相談簿に加え,本件告発状に係る
告発相談の内容が記載された相談受理票である本件対象文書1及び本件対
象文書2を特定したことは,実施機関における事務処理に則ったものであり,
実施機関の説明は,不合理ではない。
また,廿日市警察署に同時に送付された本件告発状及び本件公開質問書は,
審査請求人に返送されたということであるから,これらを返送する理由及び
その通知文案を伺う本件対象文書3及び本件対象文書4を本件請求の対象
となる文書として特定したことについても,特段不自然とは認められない。
エ 本件対象文書以外の対象文書の有無について
当審査会において本件対象文書3を見分したところ,本件告発状に係る告
発相談の経過として,平成29年7月20日に審査請求人が廿日市警察署へ来署
し,口頭告発を申し出ていること,また,平成30年1月24日に廿日市警察署
の職員が審査請求人宅を訪問し,情報提供を受けたことが記載されているた
め,両日における審査請求人への対応記録等の作成の有無を確認したところ,
次の理由により,本件請求の対象となる文書は存在しないとのことであり,
その説明に,不自然,不合理な点は認められない。
(ア)平成29年7月20日の来署時にも,相談受理票及び相談簿を作成している
が,本件告発状とは別の告発相談案件として対応し終結しているため,本
件告発状に係る告発相談とは別の意思形成過程と判断し,本件請求の対象
としていない。
(イ)平成30年1月24日の審査請求人宅の訪問は,本件告発状に係る告発相談
の事実確認のために行ったものであるが,その対応状況等については,本
件対象文書3に記載しているため,これとは別の行政文書の作成の必要は
ない。
オ 小括
以上のことから,本件請求の対象として本件対象文書を特定したことは妥
当である。
(3)本件対象文書における不開示情報該当性について
ア 条例第14条第3号及び第5号の不開示情報該当性について
条例第14条第3号は,「開示請求者以外の個人に関する情報(略)であっ- 7 -
て,開示請求者以外の特定の個人が識別され,若しくは識別され得るもの(他
の情報と照合することにより,開示請求者以外の特定の個人を識別すること
ができることとなるものを含む。)又は開示請求者以外の特定の個人を識別
することはできないが,開示することにより,なお開示請求者以外の個人の
権利利益を害するおそれがあるもの」を不開示情報として規定している。な
お,同号ただし書において,「イ 法令等の規定により又は慣行として開示
請求者が知ることができ,又は知ることが予定されている情報」,「ロ 人の
生命,健康,生活又は財産を保護するため,開示することが必要であると認
められる情報」,「ハ 当該個人が公務員等(略)である場合において,当該
情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務
員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報に
ついては,同号本文の不開示情報から除くこととしている。
また,条例第14条第5号は,開示することにより,犯罪の予防,鎮圧,捜
査,公訴の維持等の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情
報を不開示とすることを定めたものである。その場合,犯罪の予防,捜査等
に支障を及ぼすかどうかについては,専門的,技術的判断を要するため,実
施機関が認めるにつき相当の理由がある情報を不開示とするものである。
(ア)警察職員のうち警部補(同相当職)以下の職にある者の氏名及び印影に
ついて
当審査会において見分したところ,本件対象文書の決裁欄のうち係長の
欄の印影,本件対象文書1及び本件対象文書2の「担当者」欄及び「報告
担当者」欄の氏名,本件対象文書3の伺い者の氏名が不開示となっていた。
実施機関の職員の氏名及び印影については,開示請求者以外の個人に関
する情報であって,開示請求者以外の特定の個人が識別されるものである
から,条例第14条第3号本文の不開示情報に該当することは明らかである。
次に,同号ただし書イの該当性について検討する。実施機関では慣行と
して警部以上の階級にある警察官の氏名を公にしており,本件対象文書を
見分したところ,不開示とされた印影及び氏名は全て警部補以下の階級に
ある者である。しかしながら,仮に,本件対象文書1及び本件対象文書2
の「担当者」欄及び「報告担当者」欄並びに本件対象文書3の伺い者の部
分が,告発の相談者に直接対応した職員の氏名が記載されることになって
いるのであれば,同号ただし書イに該当する場合も考えられる。そこで,
当審査会から諮問実施機関に対して,これらの欄等に記載される職員につ
いて確認したところ,相談受理票(本件対象文書1及び本件対象文書2)
における「担当者」欄には,警察署告訴センターの対応担当者(署事件主
管課長又は事件担当係長)の氏名が,「報告担当者」欄には,相談受理票
を作成し,警察本部事件主管課へ報告する職員の氏名が,告発状の返送伺
い書(本件対象文書3)の伺い者の部分には,告発を受理できない事情及
び相談の経緯に精通している職員の氏名が記載されるということであり,- 8 -
必ずしも,告発相談に直接対応した職員の氏名が記載されるとは限らない
ということであった。
そうすると,不開示とされた実施機関の職員の氏名及び印影は,同号た
だし書イには該当せず,同号ただし書ロに該当する事情も認められない。
なお,同号ただし書ハは,識別される特定の個人が公務員等である場合
において,当該個人の情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当
該情報のうち当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容にかかる部分を
例外的に開示することとするものである。そして,「当該職務遂行の内容」
とは,公務員等が分掌する職務を遂行する場合におけるその情報をいうが,
当該公務員等の氏名については,同号ただし書イにより開示の可否を判断
するものである。
よって,不開示とされた実施機関の職員の氏名及び印影は,同号ただし
書きハにも該当せず,条例第14条第3号の不開示情報に該当するため,実
施機関がこれらを不開示としたことは妥当である。
(イ)本件対象文書3の添付資料(「○○に対する対応状況」と題する文書)
の不開示部分について
当審査会において本件対象文書3の添付資料を見分したところ,平成29
年12月26日及び平成30年1月31日に廿日市警察署に来署した審査請求人
以外の個人(以下「特定個人」という。)の氏名,平成29年12月26日に行
われた審査請求人ほか2名の告発相談に対する実施機関内部の対応の内
容(以下「本件対応」という。)及び平成30年1月24日に,廿日市警察署
の職員が,審査請求人から情報提供を受けた情報源に対して事情聴取をし
た際の,当該情報源による発言の内容(以下「本件発言」という。)の3
項目が不開示となっていた。
なお,当審査会から諮問実施機関に対して,これらの項目の不開示情報
の根拠規定を確認したところ,特定個人の氏名は条例第14条第3号,本件
対応は同条第5号,本件発言は同条第3号及び第5号であるということで
あったため,以下,それぞれの不開示情報該当性について検討する。
a 特定個人の氏名について
特定個人の氏名は,開示請求者以外の個人に関する情報であって,開
示請求者以外の特定の個人が識別されるものであるから,条例第14条第
3号本文の不開示情報に該当することは明らかである。
次に,特定個人は,審査請求人とともに,告発相談の目的で来署して
いることから,同号ただし書イの「慣行として開示請求者が知ることが
でき,又は知ることが予定されている情報」に該当するかどうかを検討
する。
本件対象文書3においては,平成29年12月26日に廿日市警察署に来署
した者として,審査請求人及び特定個人の氏名のほか,1名の者(以下
「特定来署者」という。)の氏名が記載されており,特定来署者の氏名- 9 -
は開示されていた。また,平成30年1月31日には,審査請求人と特定個
人は2人で来署していた。
そこで,当審査会から諮問実施機関に対して,特定来署者の氏名を開
示した理由及び実施機関が審査請求人,特定個人及び特定来署者の氏名
を確認した状況を確認したところ,次のとおりであった。
(a)本件告発状は,審査請求人及び特定来署者の氏名が記載され,連名
で告発人となっていることから,審査請求人と特定来署者はお互いの氏
名を知っていることになり,特定来署者の氏名については,審査請求人
が提出した告発状に記載があるため,審査請求人の個人に関する情報と
判断し,開示した。
(b)告発相談に当たった職員は,来署した一人一人から直接かつ個別に
人定事項に関する質問を行い,それぞれ住所や氏名などの回答を得てお
り,複数職員で対応したため,審査請求人が,職員による聴取内容を把
握できたか否かは判然としていない。
上記の説明によれば,実施機関は,同時に来署した複数の者であって
も,それぞれの氏名を個別に聴取しており,来署者同士で氏名等の情報
を共有するよう促す状況ではなかったものと認められ,また,審査請求
人が特定個人の氏名を把握していると客観的に判断できる事情も存在
しない。
よって,特定個人の氏名は,同号ただし書イには該当せず,同号ただ
し書ロ及びハに該当する事情も認められないことから,条例第14条第3
号の不開示情報に該当するため,実施機関がこれを不開示としたことは
妥当である。
b 本件対応について
本件対応は,実施機関において告発相談を受けた際の対応方法に関する
ものであり,開示すると,告発相談に関する実施機関内部の対応の手法,
判断の基準及び着眼点が明らかとなるため,犯罪の予防及び捜査等の公共
の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
よって,本件対応は,条例第14条第5号の不開示情報に該当するため,
実施機関がこれを不開示としたことは妥当である。
c 本件発言について
本件発言は,告発相談に係る告発事実を特定するために行った捜査の際
に,特定の者から得られた発言内容であるため,開示すると,告発相談に
関する実施機関内部の判断の基準及び着眼点が明らかとなるため,犯罪の
予防及び捜査等の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある
と認められる。
よって,本件発言は,条例第14条第5号の不開示情報に該当するため,
同条第3号の該当性について判断するまでもなく,実施機関がこれを不開
示としたことは妥当である。 - 10 -
イ 条例第14条第7号の不開示情報該当性について
条例第14条第7号は,「県の機関又は国,独立行政法人等,他の地方公共
団体若しくは地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって,
開示することにより,(略)当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業
の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開示とすることを定め
ている。
(ア)警察電話番号について
当審査会において見分したところ,本件対象文書1及び本件対象文書2
の「担当者」欄及び「報告担当者」欄に記載された警察電話番号が不開示
となっていた。
警察電話番号は,別の審査請求事案における当審査会の答申において,
次の理由を挙げて,広島県情報公開条例(平成13年広島県条例第5号)第
10条第6号の不開示情報に該当する情報であり,これを不開示とした決定
は妥当であると判断している。
a 警察法(昭和29年法律第162号)第2条第1項において,「警察は,
個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧及び捜査,
被疑者の逮捕,交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることを
もつてその責務とする。」旨規定されている。
b 警察電話は,警察の連絡・調整事務のために使用するもので,使用者
は原則として警察職員に限られており,一般電話回線等からの架電も交
換室を介してのみ可能とされているなど,厳格に運用されている。
c 実施機関においては警察電話番号を部外者に対して明示することも
あるが,それは,当該部外者との関係や必要性を考慮し,一定の場合に
限って行われている。
d 上記のような実施機関における警察電話の運用実態や,取締りや許認
可等,県民の権利利益に影響を及ぼす警察業務の特殊性に鑑みると,警
察電話番号を公にすると,警察の捜査や事務を妨害する目的で電話をか
け続けるといった行為等によって,警察電話本来の使用目的である警察
の業務上の連絡・調整事務に著しい支障を及ぼすこととなり,警察業務
の適正な執行に支障を及ぼすおそれがあるとの諮問実施機関の説明は
首肯できる。
上記の判断は,自己情報開示請求における取扱いにおいても異なること
はないため,条例第14条第7号の不開示情報に該当するとして,実施機関
が警察電話番号を不開示としたことは妥当である。
(イ)県警ブラウザの番号について
当審査会において見分したところ,本件対象文書1及び本件対象文書2
の上部に「県警ブラウザ」と表示され,その文字の横に表示された番号が
不開示となっていた。
当審査会から諮問実施機関に対して,不開示部分の具体的内容について- 11 -
確認したところ,県警ブラウザとは,実施機関内部の各種システムを閲覧
するソフトの総称であり,不開示部分は,当該ソフトを利用するために必
要な内部管理情報であるということであった。
諮問実施機関の説明によれば,当該不開示部分を開示すると,実施機関
の情報システムの管理事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると
認められる。
よって,条例第14条第7号の不開示情報に該当するとして,実施機関が
県警ブラウザの番号を不開示としたことは妥当である。
3 審査請求人のその他の主張について
審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右す
るものではない。
4 結論
よって,当審査会は,「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
第6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は,別記のとおりである。 - 12 -
別 記
審 査 会 の 処 理 経 過
年 月 日
処 理 内 容
30.8.31
・諮問を受けた。
30.11.19
(平成30年度第8回第2部会) ・諮問の審議を行った。
30.12.17
(平成30年度第9回第2部会) ・諮問の審議を行った。
31.2.22
(平成30年度第11回第2部会) ・諮問の審議を行った。
参 考
【第2部会】
答申に関与した委員(50音順)
兒 玉 浩 生 弁護士
日 山 恵 美 広島大学大学院教授
山 田 健 吾
( 部 会 長 )
広島修道大学教授 - 13 -


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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