告訴・告発の受理・処理の適正化と体制強化について(長野県警)

(審査案件第31号)
答 申
第1 審査会の結論
長野県警察本部長が、「告訴・告発の受理・処理の適正化と体制強化につい
て」(平成12年4月14日付け)、「告訴・告発の受理・処理の適正化と体制
強化について」(平成12年5月24日付け)、「知能犯に関する告訴・告発事
件の取扱要領について」(平成12年8月11日付け)を、長野県情報公開条
例(平成12年長野県条例第37号)附則第2項第2号の規定により同条例の
適用を受けない文書であるとした判断に誤りはない。しかし、「告訴・告発の
受理・処理の適正化と体制強化について」(平成12年4月14日付け)がす
でに警察庁のホームページにより公表されている資料であるにもかかわらず、
当該文書を審査請求人に情報提供せず、かつ、公表されていることを告知しな
かったことは不当であるから、審査請求人に対し速やかに情報提供ないし公表
の事実の告知をすべきであり、また、「告訴・告発の受理・処理の適正化と体
制強化について」(平成12年5月24日付け)及び「知能犯に関する告訴・
告発事件の取扱要領について」(平成12年8月11日付け)が「長野県警察
の施策を示す訓令等の公表基準」(平成13年2月26日情管発第51号)に
基づいてすでに公表されてしかるべき文書であるにもかかわらず、いまだ公表
していないことは明らかに不当であるから、速やかに公表すべきである。
第2 審査請求に至る経過
1 審査請求人は、平成15年4月17日付けで「告訴、告発の受付に際して、
注意しなければならない事項のわかる公文書」の公文書公開請求を長野県情
報公開条例(以下「本件条例」という。)に基づいて行った。
2 長野県警察本部長(以下「本件実施機関」という。)は、本件公文書公開
請求に対して、警察庁刑事局長「告訴・告発の受理・処理の適正化と体制強
化について」(平成12年4月14日付け、以下「本件対象文書1」という。)、
長野県警察本部長「告訴・告発の受理・処理の適正化と体制強化について」
(平成12年5月24日付け、以下「本件対象文書2」という。)及び同「知
能犯に関する告訴・告発事件の取扱要領について」(平成12年8月11日
付け、以下「本件対象文書3」という。)を本件対象文書として特定した。
3 本件実施機関は、本件対象文書に係る公文書公開請求を、本件条例附則第
2項第2号に該当することを理由に、同月30日付けで却下する決定を行っ
た。
1
4 審査請求人は、この決定に対し、同年6月10日付けで本件審査請求を行
った。
第3 審査請求人の主張の要旨
本件実施機関は、本件対象文書が、本件条例附則第2項第2号の規定により、
公開請求の対象となる期日以前に作成し、又は取得された文書であるとして、
公文書公開請求の却下を決定したが、現在でも警察の職務として、告訴、告発
の受理を行っている以上、その処理に必要不可欠となる公文書が存在し、警察
組織として現に活用しているはずである。
実施機関は、本件条例附則第2項第2号を盾にかたくなに公開を拒絶してい
るが、公開しては不都合な項目が記載されているのかどうか、その内容を知り
たい。本件対象公文書中には、個人情報に類するものはないと考えられる。
公益の立場から、また、広く一般市民に与えられた告訴・告発権(刑事訴訟
法第230条ないし第244条参照)の適切な権利行使をする立場から、告
訴・告発の受付に関する情報は広く国民全員に広報されるべきである。
情報を公開することで、国民は、警察に対する判断ができる。主権は、国民
一人一人にあり、情報の独占は許されない。
第4 本件実施機関の説明の要旨
本件実施機関が意見書及び意見陳述で主張した内容の要旨は、次のとおりで
ある。
本件条例では実施機関が作成又は取得し管理している文書を情報公開の対
象にしているが、本件条例附則第2項第2号はこれに対する特別規定を設けて
おり、公安委員会及び警察本部長が管理している公文書については、平成13
年4月1日以降に作成・取得して管理している公文書に適用することとされて
いる。
本件対象文書1は平成12年4月14日に警察庁において作成され、その直
後に本件実施機関が取得したものであり、本件対象文書2は同年5月24日に
本件実施機関が作成したものであり、本件対象文書3は同年8月11日に本件
実施機関が作成したものであるから、本件条例附則第2項第2号により、本件
条例は適用されない。
第5 審査会の判断理由
1 基本的な考え方
2
本件条例の制定目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の公開請求権を
保障するとともに、情報公開の総合的な推進を図ることで県の諸活動を県民
に説明する責務を全うし、県民参加による公正で開かれた県政の一層の推進
をすることにある。本件条例の実施機関においては、本件条例の制定目的に
基づき、公文書公開請求に対して本件条例の原則公開の理念を踏まえ適切に
対応するのみならず、本件条例第32条で規定される情報公開の総合的な推
進を図ることが求められている。
当審査会は、これらの点を踏まえて実施機関による本件処分を検討する。
2 本件対象文書の本件条例附則第2項への該当性
本件条例附則第2項は「改正後の長野県情報公開条例の規定は、次の各号
に掲げる実施機関が管理している公文書については、当該各号に定める日以
降に作成し、又は取得した公文書に適用する」とし、第2号で「公安委員会
及び警察本部長 平成13年4月1日」と定めている。
当審査会において本件対象文書の提出を実施機関から受けて確認をした
ところ、本件対象文書1は平成12年4月14日に警察庁において作成され、
その直後に本件実施機関が取得したものであり、本件対象文書2は同年5月
24日に本件実施機関が作成したものであり、本件対象文書3は同年8月1
1日に本件実施機関が作成したものであることが認められたことから、本件
対象文書がいずれも、本件条例附則第2項第2号により本件条例の適用を受
けないものであると認められた。
したがって、本件対象文書に対する公開請求を、本件条例附則第2項第2
号の規定により却下した本件実施機関の判断に誤りはない。
3 条例附則第2項の趣旨と本件対象文書が公開されないことの当否
(1)条例附則第2項の趣旨
本件条例附則第2項第2号は、実施機関に対し平成13年4月1日以降
に作成・取得した公文書について本件条例の対象とするものと定めている
ものの、その運用に際しては「第2項について、警察行政の円滑な運営の
ためには県民の理解と協力が何にも増して必要であるという認識に立ち、
平成13年3月以前の公文書についても、可能な限り情報の提供あるいは
情報の公表に努めることが必要である。」(『情報公開事務の手引』平成1
3年4月 長野県総務部行政情報室)とされている。したがって、実施機
関には、この運用基準に基づき、平成13年3月以前の公文書についても
情報提供・公表の努力義務が課されていることが明らかである。
この点を踏まえて、本件実施機関の対応について検討する。
(2)警察庁から取得した本件対象文書
本件対象文書1は警察庁により作成された文書で実施機関が取得した
3
文書である。警察庁においては、「警察庁訓令・通達公表基準」(平成12
年10月26日 警察庁丙総発第60号)により、「内部管理に関するも
の、専ら技術的・補足的事項を定めるものその他国民生活に影響を及ぼさ
ないものを除いたもの」(第2項(2))については、原則公表することと
されている。当審査会で調査したところ、この公表基準に基づき本件対象
文書1はすでに警察庁ホームページに全文が掲載されていることが認め
られた。
本件実施機関は意見陳述において、本件対象文書が公開請求された時点
で本件対象文書1が警察庁のホームページに掲載されていることを把握
していなかったとしているが、少なくとも、その事実を把握した時点で、
本件対象文書の公開を求めて審査請求が行われていることにかんがみ、速
やかに、審査請求人に対し当該文書を情報提供する、あるいは警察庁ホー
ムページに掲載されていることを知らせるべきであった。にもかかわらず
それが行われていないことは、本件条例の求める情報提供の努力義務に明
らかに反しており不当である。
(3)警察本部長が作成した本件対象文書
本件対象文書2及び3は、いずれも平成12年に本件実施機関の名で作
成されたものである。
本件実施機関は「長野県警察の施策を示す訓令等の公表基準」(平成1
3年2月26日 情管発第51号、以下「公表基準」という。)で、訓令
等の公表基準を定めている。また、公表基準の趣旨を継続させるため、平
成14年2月14日付けで警務部長の名で「長野県警察の施策を示す訓令
等の公表基準について」を発出していることが認められる。
公表基準はその策定目的を、訓令等について「原則として公表すること
により、県民の理解と協力の下に警察行政の円滑に運営することを目的と
する」(第1項)とし、施策を示す訓令等の範囲を「職務運営に関する事
項の指示命令事項及び法令等の解釈、運用等に関する示達事項等を内容と
する文書」(第2項(1))と定めている。また、訓令等が本件条例第7条
各号に定める非公開情報に該当しない場合は全文を公表するものとし、非
公開情報に該当する内容を含む場合は、原則として名称・概要を公表する
ものとしている(第3項(1)(2))。さらに、県警察の施策を示す訓令
等でなくとも、「県民の関心の高い事項を内容とするもの等については、
本基準の目的に照らし、可能な限り幅広く公表するよう努めるものとす
る」(第3項(3))としている。公表基準はさらに、平成13年4月1日
以後発出された訓令等については、速やかに公表することを求めており、
それ以前に発出された効力を有する訓令等について、県民の関心の高いも
のについては公表に努めることとされている(第4項)。
この公表基準に照らして本件対象文書2及び本件対象文書3に対する
決定を検討する。
本件対象文書2は告訴・告発の受理・処理の適正化、迅速化、捜査体制
4
の強化を図る目的で発出されたものであり、本件対象文書3は知能犯に関
する告訴・告発の受理・不受理及び処理の適正化を図るために発出された
ものであり、いずれも公表基準で定める職務運営に関する事項の指示命令
事項であると認められる。これらについて公文書公開請求により公開が求
められたことを踏まえると、いずれも県民の関心の高い訓令等と認められ、
公表基準第4項(2)の定める訓令等の公表の努力義務が課されているも
のと認められる。
公表基準を踏まえれば、審査請求人から本件対象文書2及び3の公開請
求を受けた時点で、本件条例附則第2項第2号の該当性について判断する
だけでなく、運用として求められている情報提供の努力義務、公表基準に
照らし適切に公開請求に対応すべきところであるが、本件実施機関の意見
陳述によれば、本件実施機関は公開請求を受けた際に公表基準に照らした
検討をおこなっていなかったことが認められる。この検討をおこなってい
れば、本件対象文書2及び3は公表されていたはずである。
したがって、本件対象文書2及び3が本件条例の適用を受けない文書で
あるとの判断に誤りはないものの、本来おこなうべき公表基準への当ては
めの検討をおこなわず、漫然と却下した処分は、本件条例附則第2項の趣
旨に明らかに反し、不当である。
(4)結論
以上のことから、本件対象文書について情報提供・公表について検討せ
ずに公開請求を却下したことは不当であり、「第1 審査会の結論」で示
すとおり、速やかな情報提供を行うべきである。
4 付言
確かに、公安委員会及び本件実施機関は本件条例附則第2項第2号により
平成13年4月1日以降の作成・取得文書に対して公開請求等に応じる義務
を課されている。しかし、本件条例附則第2項第2号は、平成13年3月以
前に取得・作成された文書に関する情報公開の要請を一切否定しようという
趣旨のものではない。
本件条例は、第一義的には本件条例の対象となる公文書について、公開請
求する権利(いわゆる開示請求権)を何人にも認めた制度である。開示請求
権が本件条例によって保障されることにより、県民が実施機関の保有する公
文書の公開を求める手続が整備され、非公開などにより公開請求した文書の
公開が受けられなかった場合の救済措置も講じられることになる。しかし、
本件条例の目的はそれだけではなく、目的規定で明示されているとおり、情
報提供施策の充実等を含めた「情報公開の総合的な推進」と相まって、従来
まで具体性の乏しかった、県民の知る権利を尊重し、実施機関の県民に対す
る「県の諸活動を県民に説明する責務」を総合的に図ることを最終的な目的
としている。
5
さらに、こうした制度の基礎となっている実施機関の「説明責務」は本件
条例によって初めて要請され、創設されたものではない。情報公開法では「説
明責務」について「憲法の定める民主主義の制度に由来するものであり、本
法で新たに創設されたものではない」(『詳解情報公開法』総務省行政管理局)
とされているように、民主主義の制度のもとで、執行機関として大量の情報
を保有している行政機関が情報の公開を通じて説明責務を全うすることは、
開示請求権制度の創設を待たずとも当然に要請されているところである。
以上を踏まえると、本件条例の対象となる公文書の公開請求に対応すれば
足りるとするのは誤りであり、公文書公開請求によってのみしか情報公開を
行わないという運用が本件条例によってなされるのであれば、まさに条例の
趣旨を逸脱した極めて不当な条例運用であるといわざるを得ない。実施機関
は常に政策的に総合的な情報公開の推進が求められていることを踏まえて、
公文書公開請求に対応することが求められているというべきである。
本件実施機関より当審査会に提出された、「平成13年4月1日以降に作
成・取得したものとすることとした理由」によると、捜査関係書類と一般行
政書類が渾然一体となって管理され、情報公開を想定した文書管理がされて
いなかったとされているが、「長野県警察の文書取扱いに関する訓令」等に
より文書の整理・保存が従前より行われていたこと、日常業務に用いる文書
は容易に検索できる状態で管理されていることなどの事情が容易に推定さ
れる。事実、本件実施機関は、当審査会において本件対象文書が請求時点で
作成・取得から2年程度であり、平素の執務の参考としていたので比較的容
易に確認できるものであったと説明したところである。
本件実施機関においては、平成13年3月以前に作成・取得された公文書
についても、情報提供の努力義務が課されており、公表基準等の情報提供の
推進のための各種政策を踏まえた情報公開の推進をすべきである。今後、こ
れらの公文書について公開請求が求められた場合は、文書の管理・利用実態
に応じて、本件条例の趣旨に照らし、情報提供を積極的に行うよう付言する。
第6 審査経過
平成15年 7月 3日 諮問
7月25日 審査会において諮問内容説明及び審議
8月20日 審議
12月15日 審議
平成16年 2月 3日 審査請求人からの意見聴取及び審議
2月27日 実施機関からの意見聴取及び審議
4月19日 審議
調査審議終結
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淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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