埼玉県警察本部長(以下「実施機関」という。)が、「告訴・告発事件(知能犯関係)不受理報告書及び添付文書(平成〇〇年〇月〇〇日付け〇〇警察署保有分)」(以下「本件対象保有個人情報」という。)について、平成25年11月20日付けで行った部分開示決定は妥当である。

答申第88号(諮問第117号)
答 申
1 審査会の結論
埼玉県警察本部長(以下「実施機関」という。)が、「告訴・告発事件(知能犯関係)
不受理報告書及び添付文書(平成〇〇年〇月〇〇日付け〇〇警察署保有分)」(以下「本
件対象保有個人情報」という。)について、平成25年11月20日付けで行った部分開
示決定は妥当である。
2 審査請求等の経緯
(1)処分の経緯
審査請求人は、埼玉県個人情報保護条例(以下「条例」という。)第15条第1項の
規定に基づき、実施機関に対し平成25年10月31日付けで、「平成〇〇年〇月〇日
付で私は〇〇警察署に告訴状を提出しました。そして〇月頃に不受理の回答を受ける。
そしてその不受理の理由が〇〇署から埼玉県警察本部に報告されているとのこと。そ
の為その内容について開示願います。」との開示請求(以下「本件開示請求」という。)
を行った。
これに対し実施機関は、条例第21条第1項の規定に基づき平成25年11月20
日付けで本件対象保有個人情報(ただし、「開示しない情報及びその理由」欄で指定す
る部分及び訴訟に関する書類を除く。)について部分開示決定(以下「本件処分」とい
う。)を行い、審査請求人に通知し開示を行った。
(2)審査請求の経緯
ア 審査請求人は、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)に基づき、実施機
関の上級行政庁である埼玉県公安委員会(以下「諮問庁」という。)に対し、平成2
5年12月8日付けで、不開示部分の開示を求める旨の審査請求(以下「本件審査
請求」という。)を行った。
イ 諮問庁は、行政不服審査法に基づき、審査請求人に対し、平成25年12月13
日付けで、審査請求書の記載事項の補正命令を行った。 - 1 -
ウ 審査請求人は、審査請求書の記載事項について、平成25年12月15日付けで
補正を行った。
(3)審査の経緯
ア 当審査会は、本件審査請求について平成26年1月22日、諮問庁から条例第4
1条の規定に基づく諮問を受けた。
イ 当審査会は、本件審査請求について平成26年1月22日、諮問庁から理由説明
書の提出を受けた。
ウ 当審査会は、本件審査請求について平成26年2月20日、審査請求人から意見
書の提出を受けた。
エ 当審査会は、本件審査請求について平成26年6月25日、諮問庁からの意見聴
取を行った。
3 審査請求人の主張の要旨
(省略)
4 諮問庁の主張の要旨
(1)開示請求に係る保有個人情報
実施機関は本件開示請求につき、〇〇警察署の保有個人情報を検索し、平成〇〇年
〇月〇日付けで開示請求者が〇〇警察署に提出した告訴状に関して、〇〇警察署が警
察本部に対して行った告訴不受理の報告として、本件対象保有個人情報を特定した。
告訴・告発事件(知能犯関係)不受理報告書は、知能犯に関する告訴状の提出を含
む告訴等に係る相談を適切に処理し、捜査の迅速化を図るために制定された「知能犯
に関する告訴・告発事件取扱要領」(平成18年3月30日付け埼玉県警察本部長通達)
に規定された様式であって、相談のあった告訴等について警察署長が不受理とした際
に作成するものである。
(2)不開示情報
ア 警部補以下の職員の印影
印影により特定される警部補以下の職員の氏名は、埼玉県職員録においても、ま
た、新聞の人事異動情報でも公表されておらず、慣行として開示請求者が知ること- 2 -
ができる情報とは言えないことから、条例第17条第3号に規定する不開示情報に
該当し、また、その職務の特殊性から氏名を開示することにより当該職員及びその
家族等の生命、身体、財産等の保護に支障を及ぼすおそれがあるなど、公共の安全
と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報であることから、条例第17条第5
号に該当するものと認められる。
イ 職員番号
職員番号は、警察職員各人に付与された個人識別番号であり、開示請求者以外の
個人に関する情報であって、他の情報と照合することにより、特定の個人を識別す
ることができるものとして条例第17条第3号に規定する不開示情報に該当する。
また、一般に公表されていないことから、慣行として開示請求者が知ることがで
きる情報とは言えないため、同号ただし書きイには該当せず、本件対象保有個人情
報に職員番号が記録さているのは、専ら人事管理上の必要性によるものであること
から、同号ただし書きハにも該当しない。
ウ 調査や捜査等の警察活動に支障を及ぼすおそれのある情報
告訴・告発事件(知能犯関係)不受理報告書に記載された不受理の理由のうち、
実施機関は、警察職員が調査や捜査の過程で主体的に判断・把握した情報を不開示
としている。
そもそも、知能犯に関する告訴等を受理しなかったことについて、警察署が警察
本部に報告する目的は、犯罪構成要件を充足しているか否か等を確認し擬律判断を
行うに当たり、高度な専門知識を要することから、警察本部の主管課の指導及び助
言を求めるためである。
受理しなかった理由として警察本部に報告された内容は、警察署における調査や
捜査の過程で取得した情報及び、担当捜査員が当該告訴等について総合的に判断し
た理由が分かる情報であって、開示することにより、知能犯に関する証拠隠滅を容
易にし、犯罪行為を隠蔽するための手掛かりを与えることになりかねないから、実
施機関が、犯罪の予防や捜査等公共の安全の維持に支障を及ぼすおそれがあると認
めたことには相当の理由があると言える。
また、保有個人情報の開示対象者が開示請求者に限定されているからと言って、
情報自体の秘匿性は失われるものではない。犯罪の捜査等公共安全上の支障の有無- 3 -
については、犯罪等に関する将来予測としての判断を行う必要があることから、前
記のように相当の理由が認められる以上、条例第17条第5号の文理に照らし、専
門的・技術的知識を有する実施機関の裁量権が尊重されるべきである。
したがって、不受理の理由の不開示部分については、条例第17条第5号に該当
するものと認められる。
なお、犯罪の予防や捜査等公共の安全の維持は主たる警察業務のひとつであるか
ら、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある以上、当然ながら条例第17条第
7号にも該当する。
上記のとおり、実施機関の判断に不自然、不合理な点は認められないことから、原処
分は妥当なものである。
5 審査会の判断
(1)本件対象保有個人情報について
本件対象保有個人情報であるところの「告訴・告発事件(知能犯関係)不受理報告
書」は、「知能犯に関する告訴・告発事件取扱要領」に規定された様式であって、警察
署に相談のあった告訴等を不受理とした際に作成され、警察本部に提出されるもので
ある。
(2)本件審議の対象とする情報について
審査請求人は、不開示部分のうち警部補以下の職員の印影と職員番号については開
示請求したつもりはないと述べているので、当審査会ではその部分については判断し
ない。
(3)条例第17条第5号及び第7号該当性について
諮問庁は、本件対象保有個人情報に記載された不受理の理由のうち不開示部分(以
下「当該不開示部分」という。)は条例第17条第5号に該当すると主張しているので、
以下検討する。
条例第17条第5号は、「開示することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の
維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施
機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報と定めている。同号で
「おそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」とされている- 4 -
点については、同号に規定する情報に該当するかどうかの判断は犯罪等に関する将来
予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められることから、
実施機関の第一次的な判断を尊重し、その判断が合理性を持つ判断として許容される
限度内のものであるか否かを審理・判断することが適当であるため、このような規定
となっているものである。そこで、実施機関の判断に相当の理由があるか否かについ
て検討する。
一般に、告訴等の受理の可否については、捜査機関が犯罪の可能性を念頭に置きつ
つ、多角的に収集した情報を基に専門的見地を加え検討するものと考えられる。この
ため、これらの検討の経過及び結果をまとめたものである「告訴・告発事件(知能犯
関係)不受理報告書」は、捜査手法、捜査対象、捜査機関の視点や関心等、犯罪隠蔽
の手掛かりとなり得る情報が具体的に記載されるものであり、仮にそうした情報が開
示された場合、不受理と判断する際の着眼点や判断過程が具体的に明らかとなるため、
今後の犯罪における証拠隠滅等に利用されるおそれがある。
本件対象保有個人情報について当審査会が見分したところ、当該不開示部分には、
警察署における調査及び捜査によって得た当該告訴に関する情報とそれによって捜査
員が当該告訴の受理の可否について主体的に判断した結論等が、具体的かつ詳細に記
載されており、捜査手法、捜査対象、捜査機関の視点や関心等が明らかとなる部分で
あることが認められる。
したがって、当該不開示部分は、開示することにより犯罪の予防や捜査等公共の安
全の維持に支障を及ぼすおそれがあるとした実施機関の判断には相当の理由があると
認められることから条例第17条第5号に該当し、同条第7号については判断するま
でもなく不開示が妥当である。
なお、当該不開示部分は、警察署において当該告訴が犯罪構成要件を充足している
か否か等を確認するために、警察本部に対し、より高度な専門知識に基づく指導及び
助言を求める目的で記載されているため、審査請求人に口頭で説明したとされる不受
理の理由とは異なるものであると考えられる。
(4)審査請求人のその他の主張について
審査請求人は、その他種々主張するが、いずれも当審査会の判断を左右するもので
はない。 - 5 -
(5)結論
以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
大森三起子、髙佐智美、田村泰俊
審査会の経過
年 月 日
内 容
平成26年 1月22日 諮問を受ける(諮問第117号)
平成26年 1月22日 諮問庁から理由説明書を受理
平成26年 2月20日 審査請求人から意見書を受理
平成26年 3月13日 審議
平成26年 5月15月 審議
平成26年 6月25日 諮問庁からの意見聴取及び審議
平成26年 7月23日 審議
平成26年 9月 2日 答申 - 6 -


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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