告訴・告発受処理状況調査票の不訂正決定に関する件(愛知県警)
不服申立て事案答申第115号の概要について
1 件名
告訴・告発受処理状況調査票の不訂正決定に関する件
2 事案の概要
審査請求人は、平成26年8月19日付けで愛知県個人情報保護条例(平成16年愛知
県条例第66号。以下「条例」という。)に基づき、「告訴・告発受処理状況調査票」(以
下「本件対象文書」という。)のうち、「告訴等の要件該当性」に関する部分(以下「本
件保有個人情報」という。)について自己情報の訂正請求を行った。
これに対し、愛知県警察本部長(以下「警察本部長」という。」が同年9月17日付
けで不訂正決定を行ったところ、審査請求人は、本件対象文書に記載のある「公訴時
効である。」は事実と異なるので、墨塗りの部分も含め公訴時効であるとした箇所の
訂正を求める等の理由で、不訂正決定の取消しを求める審査請求を行った。
3 実施機関の不訂正決定の理由
実施機関は、次の理由により本件保有個人情報を不訂正としたというものである。
(1) 告訴等事件の受理及び処理に係る行政文書
ア 告訴又は告発の相談を受理した場合の措置
告訴又は告発(以下「告訴等」という。)は、犯罪捜査の端緒として重要な意義
を持つが、その取扱いは、告訴人、告発人その他関係者の権利、義務に及ぼす影
響も大きく、また、犯罪捜査に対する県民の理解と協力を得る上において極めて
重要な役割を果たすものであることから、告訴等事件を迅速かつ適正に処理する
ための取扱いに関する告訴・告発事件取扱要綱(平成元年刑総発甲第17号。以下
「告訴・告発要綱」という。)を定めている。
イ 告訴・告発事件取扱責任者
告訴・告発要綱は、警察署に、告訴・告発事件取扱責任者(以下「取扱責任者」
という。)を置くことを定めている。
取扱責任者は、当該警察署長の指揮を受け、告訴等の受理、処理及び告訴等を
前提とした相談に関する事務を総括することとなっており、告訴等に係る事件の
捜査を担当する課の長又は課長代理をもって充てることとされている。
ウ 知能犯罪に関する告訴等の取扱い時における報告
知能犯罪に関する告訴・告発事件については、その適正な取扱いを図るため、
知能犯罪に関する告訴等の取扱い時における報告の徹底(平成 22 年刑二発乙第
153 号。以下「通達」という。)により、 取扱責任者は、告訴等を受理した場合
は、「告訴・告発受処理状況調査票」を作成し、当該事件の捜査状況及び参考事項
を「受・処理の経過」に記載して警察署長の決裁を受けた後、その写しを警察本- -
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部捜査第二課に送付することを規定している。
(2) 本件保有個人情報について
本件保有個人情報は、審査請求人が警察署に申し出た告訴に対し、警察署の取扱
責任者が作成した本件対象文書に記載された情報である。
(3) 不訂正決定の経緯
ア 条例第30条は、訂正請求をする者に、実施機関に対し、訂正請求の内容が事実
に合致することを証明する書類等を提示し、又は提出することを義務付けている。
請求を受けた実施機関は、条例第 32 条により、訂正請求に理由があると
認められる場合は、保有個人情報の利用目的の達成に必要な範囲内で、当該請求
に係る保有個人情報を訂正しなければならない。
イ 審査請求人が実施機関に対し、請求の内容が事実に合致することを証明する書
類として提出した「告訴・告発受処理状況調査票の写し」は、実施機関が請求人
に開示した本件対象文書の写しであることから、当該書類が、事実に合致するこ
とを証明する書類でないことは明らかであり、当該書類をもって、訂正を求める
部分が誤りであったことを認めることは不可能である。
また、実施機関において本件保有個人情報の内容を調査した結果、保有個人情
報の利用目的に照らし、訂正しなければならないような不備は認められなかった。
(4) 不訂正決定の理由
条例に定める、審査請求人が提出しなければならないとされている、「請求の内容
が事実に合致することを証明する書類」が、要件を満たしておらず、また、本件保
有個人情報に、保有個人情報の利用目的に照らし、訂正しなければならないような
不備も確認できないことから、当該請求に理由があるとは認められないため、不訂
正とする決定を行ったものである。
4 審議会の結論
本件保有個人情報について、不訂正とした決定は妥当である。
5 審議会の判断要旨
(1) 判断に当たっての基本的考え方
ア 条例は、第1条に規定されているとおり、県の機関の保有する個人情報の開示、
訂正及び利用停止を請求する個人の権利を明らかにし、もって県政の適正な運営
を図りつつ、個人の権利利益を保護することを目的として制定されたものである。
このうち、訂正請求については、正確でない個人情報に基づいた行政処分その
他の行政行為等により、本人が不測の権利利益の侵害を被ることを未然に防止す
るため、条例第29条で、開示決定等に基づき開示を受けた保有個人情報について
必要な訂正を請求することができると定めている。
訂正は「保有個人情報の内容が事実でない」場合に行われるものであり、訂正- -
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の対象は「事実」であって、評価・判断に及ばないものである。
また、条例第30条第2項で、訂正請求をする者は、訂正請求の内容が事実に合
致することを証明する書類等を提示し、又は提出しなければならないと規定して
いる。これは、訂正請求制度が、保有個人情報の内容が事実でないとの主張のみ
をもって訂正を求めることを認めるものではないという趣旨であり、実施機関は、
請求者から提示又は提出された書類等によって訂正請求の内容が事実に合致する
ことが証明されるかどうかの確認調査を行うことを予定していると解される。
調査等の結果、訂正請求に理由があると認めるとき、すなわち、請求どおり保
有個人情報が事実でないことが判明したときは、実施機関は条例第31条の規定に
基づき、当該訂正請求に係る保有個人情報の利用目的の達成に必要な範囲内で、
当該保有個人情報を訂正しなければならないとされている。
イ ところで、不服申立てがあった場合、審議会は、条例第46条第1項により、諮
問実施機関に対し、開示決定等に係る保有個人情報の提示を求めることができ、
同条第3項により、当該保有個人情報に含まれている情報の内容を審議会の指定
する方法により分類し、又は整理した資料を作成し、提出するよう求めることが
できるほか、同条第4項により、不服申立てに係る事件に関し、不服申立人、参
加人又は諮問実施機関に意見書又は資料の提出を求めること、適当と認める者に
その知っている事実を陳述させ、又は鑑定を求めることその他必要な調査をする
ことができる。
しかしながら、訂正請求の場合、前述のとおり、条例第30条第2項において、
訂正請求をする者に、訂正請求の内容が事実に合致することを証明する書類等の
提示又は提出を求めており、実施機関は、請求者から提示又は提出された書類等
によって訂正請求の内容が事実に合致することが証明されるかどうかの確認調査
を行うことを予定していることに鑑みると、条例は、審議会についても、不服申
立人及び実施機関から提出された書類等をもとに審査を行うことを予定している
のであり、それ以上に、審議会自らが訂正請求の内容が事実に合致することの証
拠を収集して事実の究明を行うことまで求めているものではないと解される。ま
して、審議会は裁判所のように強制力を伴った調査権限は付与されておらず、ま
た、不服申立人と実施機関とを当事者として審理に関与させ、その弁論を聴き、
その提出する証拠について当事者に防御権を尽くさせた上で、取り調べて判決を
下すという口頭審理を原則とする裁判手続類似の仕組みをとるものではなく、さ
らに、準司法的手続としての行政審判を行う権能及び権限を持つものでもない。
よって、当審議会においては、審査請求人及び実施機関双方の主張、提出資料
及び意見陳述等から得られた客観的な情報の範囲内で、訂正請求の内容が事実に
合致すると認められるか否かについて審査を行うこととなる。
ウ 以上のことを踏まえ、当審議会は、実施機関の保有する個人情報の訂正を請求
する個人の権利が不当に侵害されることのないように条例を解釈し、以下判断す- -
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るものである。
(2) 本件保有個人情報について
審査請求人が平成26年6月11日に行った「開示請求者が警察署に提出した告訴
状等について、告訴・告発受処理簿等の不受理、受理、送付の状況が分る情報。」と
いう自己情報開示請求に対して、警察本部長は本件対象文書等を特定した上で、平
成26年7月25日に一部開示決定を行った。
本件対象文書は、告訴・告発受処理状況調査票であり、この中の項目である「告
訴等の要件該当性」に関する部分について、「公訴時効である」を「公訴時効ではな
い」にするよう求める訂正請求が同年8月19日に提出された。これに対し、警察本
部長は同年9月17日に不訂正決定を行ったが、本件保有個人情報は、本件対象文書
のうち、「告訴等の要件該当性」に関する部分である。
(3) 本件保有個人情報が訂正すべき情報に該当するか否かについて
当審議会において実施機関に確認したところ、本件保有個人情報である「告訴等
要件該当性」に関する部分は、告訴等があった時点で厳格に確認し、チェック印が
なければ受理できないというものではなく、告訴等があった時点で必要最小限の要
件的な部分を確認する目安的なものであるとのことである。
審査請求人は、本件保有個人情報において「公訴時効ではない」の項目にチェッ
ク印がないことをもって実施機関が公訴時効であると判断したものと解釈し、訂正
を求めていると考えられる。
しかし、当審議会において実施機関に確認したところ、実施機関が告訴状を受理
した段階において、犯罪事実が複数ある告訴であり、その一部について、公訴時効
が完成しているものと完成していないものが混在していたので、本件保有個人情報
の「公訴時効ではない」の項目にチェック印を付けなかったとのことである。
そうであるなら、「公訴時効ではない」の項目にチェック印がないとしても、そ
れは「公訴時効である」とも「公訴時効ではない」とも表記したものではないこと
から、本件保有個人情報を訂正する必要があるとまではいえない。
(4) 審査請求人から提出された書類について
審査請求人が自己情報訂正請求書に添付した「告訴・告発受処理状況調査票の写
し」は、実施機関が平成26年7月25日付けの一部開示決定により審査請求人に交
付したもののうち、本件保有個人情報が記載された部分の写しであり、これをもっ
て訂正請求の内容が事実であることを証明することにはならない。
(5) 審査請求人のその他の主張について
審査請求人は、その他種々主張しているが、本件保有個人情報の訂正の要否につ
いては、前記で述べたとおりであり、審査請求人のその他の主張は、当審議会の判
断に影響を及ぼすものではない。 - -
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淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。