審査請求人は、和歌山県個人情報保護条例第16条第1項に基づき、実施機関に対し、平成26年5月12日付けで「開示請求者が新宮警察署に提出した平成26年4月25日付け告訴・告発状と、その告訴・告発状を不受理とした責任者氏名及びその役職と、本件告訴が不備である明確な理由、及び本件被告発人による違法行為が継続しているにもかかわらず、その告発が時効となることが分かる情報。(告訴・告発事件相談簿等のその取り扱いを示す文書も含む。)」と記載された保有個人情報の開示請求を行った。
答
申
諮問第17号
第1 審議会の結論
和歌山県警察本部長(以下「実施機関」という。)が、審査請
求人に対し、平成26年6月30日付け捜二第211号で行った
保有個人情報部分開示決定(以下「本件処分」という。)は、妥
当である。
第2 審査請求に係る経緯
本件審査請求に至る経過は、以下のとおりである。
1 開示請求
審査請求人は、和歌山県個人情報保護条例(平成14年和歌山
県条例第66号。以下「条例」という。)第16条第1項に基づ
き、実施機関に対し、平成26年5月12日付けで「開示請求者
が新宮警察署に提出した平成26年4月25日付け告訴・告発状
と(書証は必要ない。)、その告訴・告発状を不受理とした責任
者氏名及びその役職と、本件告訴が不備である明確な理由、及び
本件被告発人による違法行為が継続しているにもかかわらず、そ
の告発が時効となることが分かる情報。(告訴・告発事件相談簿
等のその取り扱いを示す文書も含む。)」と記載された保有個人
情報(以下「本件開示請求」という。)の開示請求を行った。
2 本件処分
実施機関は、本件開示請求について、審査請求人が行った告
訴・告発に係る告訴・告発事件報告書(以下、「本件報告書」と
いう。)と特定し、次に掲げる部分を非開示情報等とした上で、
本件処分を行った。
(1) 条例第18条第2号(開示請求者以外の個人に関する情報)
に該当し、開示請求者以外の特定の個人を識別することがで
きる非開示情報
・ 警部補以下の警察職員の氏名
(2) 条例第18条第4号(公共安全等情報)に該当し、開示す
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ることにより、犯罪の捜査等、公共の秩序と安全の維持に支
障を及ぼすおそれがあると認められる非開示情報
・ 本件報告書の作成日
・ 警察署又は本部事件主管課への報告日
・ 年月日、対応・報告内容等の欄にある具体的な日付及び
措置内容
(3) 条例第59条第3項により、司法警察職員の処分に係るも
のとして開示請求の適用除外となる情報
・ 年月日、対応・報告内容等の欄にある司法警察職員の処
分に係る情報
3 審査請求
審査請求人は、平成26年7月17日付けで、行政不服審査法
(昭和37年法律第160号)第5条の規定により、本件処分を
不服として、実施機関の上級行政庁である和歌山県公安委員会に
対して審査請求を行った。
第3 審査請求の内容要旨
1 審査請求の趣旨
実施機関が部分開示決定した保有個人情報は私の求めるもの
ではないため、私の求める情報の速やかな開示を求める。
2 審査請求の理由等
審査請求人が、審査請求書及び意見書により、本件処分に関し
て主張する内容を要約すると、おおむね以下のとおりである。
なお、審査請求人は、審議会における意見の陳述を行わなかっ
た。
(1) 責任者の氏名等について
私が行った告訴・告発を不受理とした責任者氏名及びその
役職の開示がなされていない。加えて、責任者の氏名とは名
字だけを求めるものではない。
(2) 本件報告書の作成日及び警察署又は本部事件主管課への報
告日について
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本件報告書中、条例第18条第4号(公共安全等情報)該
当により非開示部分としている、本件報告書の作成日及び警
察署又は本部事件主管課への報告日については、次の理由に
より開示すべきである。
ア 告訴・告発に係る受理・不受理の判断に要する期間は犯
罪内容によって異なり、加えて、その時点において実施機
関で扱っている犯罪捜査件数によっても異なるものであ
るため、開示することにより、犯罪の捜査に支障が生じる
ことは認められない。また、告訴・告発人として、当然に
知ることが予定されている情報である。
イ 本件告訴・告発は不受理となっていることから、捜査等
は一切行われていない。よって、開示することにより、犯
罪の捜査に支障が生じることは認められない。
ウ 他の地方公共団体において、受理年月日が開示されてい
る事例がある。
(3) 司法警察職員の処分に係る情報について
本件報告書中、条例第59条第3項における司法警察職員
が行う処分等として適用除外としている部分について、本件
告訴・告発は不受理となっていることから、捜査等は一切行
われておらず、司法警察職員の処分も行われていないもので
あるため開示請求の適用除外となる理由はない。
第4 実施機関の説明要旨
実施機関の保有個人情報部分開示決定通知書及び理由説明書
並びに審議会における意見の陳述によって主張する内容を要約
すると、おおむね以下のとおりである。
1 本件開示請求の特定について
本件開示請求を、平成25年3月19日付け刑企、務、生企、
交企、公、第98号、和歌山県警察本部長通知「告訴・告発の受
理体制及び指導・管理の強化に関する細部事項について(普通)」
に従い作成した本件報告書と特定し、本件処分としたものであ
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る。
2 非開示情報について
(1) 責任者の氏名等について
本件報告書中、決裁欄にある責任者の名字及びその役職
は、警部補以下の警察職員以外の者であるため開示してい
る。
(2) 本件報告書の作成日及び警察署又は本部事件主管課への報
告日について
条例第18条第4号(公共安全等情報)に該当するため非
開示部分としている、本件報告書の作成日、警察署又は本部
事件主管課への報告日は、捜査経緯を示すものであり、事案
への対応に要する捜査期間は個別的である側面を持つが、捜
査の進捗状況や経緯が具体的にわかる重要な捜査情報であ
る。また、おおよその捜査期間が予測され得る等により、同
種詐欺行為を企てる者に対しては対抗措置を講じる有益な
情報となるおそれがあるため、開示することにより、犯罪の
捜査に支障が生じるおそれがある。
また、本件と関係する案件が、当時、他機関において対応
中であったため、本件処分については慎重な判断を要するも
のであった。
(3) 司法警察職員の処分に係る情報について
本件報告書中、条例第59条第3項における司法警察職員
が行う処分等として開示請求の適用除外としている部分に
ついて、当該部分は送致についての記載があり、司法警察職
員の処分に係る情報に該当する。
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成1
5年法律第58号)第45条第1項において司法警察職員が
行う処分に係る保有個人情報は開示請求等の適用除外とさ
れており、条例第59条第3項においても同様に開示請求等
の適用除外と規定されている。このことより、当該部分は条
例第59条第3項に該当し、開示請求の適用外とされるもの
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である。
第5 審議会の判断
当審議会は、本件処分の当否につき審議した結果、次のとおり
判断する。
1 本件開示請求の特定について
実施機関は、平成25年3月19日付け刑企、務、生企、交企、
公、第98号、和歌山県警察本部長通知「告訴・告発の受理体制
及び指導・管理の強化に関する細部事項について(普通)」に従
い、告訴・告発があった際に事務処理を行うものである。審議会
が当該通知を見分したところ、実施機関は、告訴・告発を事件と
して受理又は不受理としたときは、告訴・告発事件報告書を作成
し、受理した告訴・告発の事件については、告訴・告発受理事件
状況表を作成することとされている。このことより、本件は不受
理となった案件であるため、本件報告書のみが作成されているこ
とが認められる。
また、本件報告書とは、告訴・告発の認知及び捜査経過や受理
又は不受理の理由等、告訴・告発から当該告訴・告発の受理又は
不受理に係る状況が記載されているものであり、審議会が本件報
告書を見分したところ当該記載が認められた。このことから、本
件開示請求を本件報告書と特定した実施機関の判断は首肯でき
る。
2 非開示情報の妥当性について
(1) 責任者の氏名等について
審査請求人は、告訴・告発を不受理とした責任者の氏名及
びその役職が記載されていないと主張するが、本件報告書に
は、実施機関が主張するように決裁欄において、責任者の名
字及びその役職が開示されていることが認められる。
また、審査請求人は、責任者の氏名とは名字だけを求める
ものではないと主張している。このことについて、そもそも
保有個人情報開示請求制度とは、保有している個人情報をそ
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のまま開示決定等することが求められる制度であるため、保
有個人情報に追記等した上で開示決定等をすることは認め
られないものである。よって、本件報告書を確認すると責任
者の名字のみが記載されている部分があることが確認でき
るが、ここに責任者の名前を追記して開示決定等を行うこと
は認められないものである。このことから、責任者の名字の
みが記載されている保有個人情報をそのままに本件処分と
した実施機関の判断は妥当である。
(2) 本件報告書の作成日及び警察署又は本部事件主管課への報
告日について
実施機関は、本件報告書の作成日及び警察署又は本部事件
主管課への報告日について、開示することにより、捜査期間
が予測され得る等、同種詐欺行為を企てる者に対しては対抗
措置を講じる有益な情報となるおそれがあるため、犯罪の捜
査に支障が生じるおそれがある情報と主張している。
また、実施機関からの審議会における意見の陳述により、
本件処分を実施する当時において、本件と関係する案件が他
機関で現に対応中であったという特殊な事情が存している
ことが認められた。よって、本件処分については、案件を個
別的に判断するのではなく、他の関係案件も併せての判断を
要し、加えて、本件処分を実施する当時において、他機関へ
の影響を考慮する必要があるものであった。
このことに係る審査請求人の主張も理解できるが、上述の
特殊な事情を勘案すれば、本件報告書の作成日及び警察署又
は本部事件主管課への報告日を条例第18条第4号(公共安
全等情報)に該当するため非開示情報とした実施機関の判断
は是認できるものである。
なお、審査請求人は、他の地方公共団体において受理年月
日が開示されている事例を踏まえた上で、本件報告書の作成
日及び警察署又は本部事件主管課への報告日を開示すべき
であると主張しており、他の地方公共団体から開示された資
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料を提示している。しかし、当該資料と本件報告書は、どち
らも告訴・告発に関するものではあるが、その性質は異なる
ものであり、また、上述した特殊な事情についても異にする
ものと思われる。このことから、本件報告書について、他の
地方公共団体から開示された資料と同一の取り扱いとする
ことはできないものである。
(3) 司法警察職員の処分に係る情報について
審査請求人は、本件告訴・告発は不受理となっていること
から、捜査等は一切行われておらず、司法警察職員の処分も
行われていないものであるため、開示請求の適用除外となる
理由はないと主張しているが、審議会が本件報告書を見分し
たところ、告訴・告発に係る不受理の検討過程において、刑
事訴訟法(昭和23年7月10日法律第131号)における
司法警察職員による送致についての記述が認められた。当該
箇所は、条例第59条第3項の適用除外に該当するものであ
り、司法警察職員の処分に係る情報を条例第59条第3項の
適用除外とした実施機関の判断は妥当であると認められる。
3 結論
以上により、当審議会は、本件処分に関し「第1 審議会の結
論」のとおり判断する。
第6 答申に至る経過
年 月 日
審 査 の 経 過
平成26年 8月21日 ○諮問(実施機関)
平成26年 9月11日 ○実施機関から理由説明書を受理
平成26年 9月24日 ○審査請求人から意見書を受理
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平成27年12月22日 ○審議
平成28年 1月19日 ○審議
平成28年 2月22日 ○実施機関の意見の陳述
平成28年 4月15日 ○審議
平成28年 5月20日 ○審議
平成28年 6月10日 ○審議
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淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。