「告訴・告発・請求事件受理及び処理報告(開示請求者に係る過失傷害及び道路交通法違反(安全運転義務違反)被疑事件(告訴事件))」

答申第141号(諮問第153号)
答 申
1 審査会の結論
埼玉県警察本部長(以下「実施機関」という。)が、「告訴・告発・請求事件受理及び
処理報告(開示請求者に係る過失傷害及び道路交通法違反(安全運転義務違反)被疑事
件(告訴事件))」(以下「本件対象保有個人情報1」という。)、「警察本部長事件指揮簿
(様式第1号)( 開示請求者に係る過失傷害及び道路交通法違反(安全運転義務違反)被
疑事件(告訴事件))」(以下「本件対象保有個人情報2」という。)及び「警察本部長事
件指揮簿(様式第2号の2)( 開示請求者に係る過失傷害及び道路交通法違反(安全運転
義務違反)被疑事件(告訴事件))」(以下「本件対象保有個人情報3」という。)につい
て、平成29年11月14日付けで行った部分開示決定は、妥当である。
2 審査請求等の経緯
(1)処分の経緯
ア 審査請求人は、平成29年10月6日付けで、埼玉県個人情報保護条例(平成1
6年埼玉県条例第65号。以下「条例」という。)第15条第1項の規定に基づき、
実施機関に対し、「〇〇年〇〇月〇〇日発生の交通事故(私にかかる自転車同士の事
故)の実況見分調書(様式27号)及び告訴調書について、決裁したことがわかる
行政文書」の開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行った。
イ 実施機関は、平成29年10月23日付けで、条例第22条第2項の規定に基づ
き、保有個人情報開示決定等期間延長を行い、審査請求人に通知した。
ウ 実施機関は、平成29年11月14日付けで、条例第21条第1項の規定に基づ
き、部分開示決定(以下「本件対象保有個人情報1」についての部分開示決定を「本
件処分1」と、「本件対象保有個人情報2」についての部分開示決定を「本件処分2」
と、「本件対象保有個人情報3」についての部分開示決定を「本件処分3」という。)
を行い、審査請求人に通知した。
(2)審査請求の経緯 - 1 -
審査請求人は、平成29年11月24日付けで、行政不服審査法(平成26年法律
第68号)に基づき、実施機関の上級行政庁である埼玉県公安委員会(以下「諮問庁」
という。)に対し、本件処分1~3につき審査請求(以下「本件審査請求」という。)
を行った。
(3)審議の経緯
ア 当審査会は、本件審査請求について、平成30年7月3日付けで、諮問庁から条
例第42条の規定に基づく諮問を受け、弁明書の写しを受理した。
イ 当審査会は、本件審査請求について、平成30年9月13日、諮問庁の職員から
の意見聴取を行った。
3 審査請求人の主張の要旨
(省略)
4 諮問庁の主張の要旨
(1)本件処分1~3で不開示とした情報について
ア 警部補以下の職員の氏名及び印影
開示請求者以外の個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができ
るものであり、また、当該警察職員及びその家族等の生命、身体、財産等の保護に
支障を及ぼすおそれがあるなど、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが
ある情報であることから、条例第17条第3号及び第5号に該当する。
イ 開示請求者以外の個人に関する情報
開示請求者以外の個人に関する情報であって、条例第17条第3号イ、ロ又はハ
のいずれにも該当しないものであり、特定の個人を識別することができるものとし
て、条例第17条第3号により不開示とする情報に該当する。
また、本件対象保有個人情報1においては、開示することにより、記録に基づく
告訴事件の受理及び処理等の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、条
例第17条第7号に該当する。本件対象保有個人情報2及び3においては、開示す
ることにより、記録に基づく告訴事件の処理等の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ
があることから、条例第17条第7号に該当する。 - 2 -
(2)本件処分2で不開示とした「事件の概要」欄の一部について
警察職員が調査や捜査の過程で把握した情報あるいは捜査上の判断に係る情報であ
って、開示することにより、交通事故に係る調査や捜査等の適正な遂行に支障を及ぼ
すおそれがあるなど、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報であ
ることから、条例第17条第5号に該当する。
また、開示することにより、記録に基づく警察業務の適正な遂行に支障を及ぼすお
それがあることから、条例第17条第7号に該当する。
(3)本件処分3で不開示とした「伺事項」欄の一部及び欄外の一部について
刑事事件について司法警察職員が行う処分に係る保有個人情報に該当することから、
条例第60条第2項により、条例第4章(開示、訂正及び利用停止)の規定が適用さ
れない。
(4)弁明書
ア 本件処分1~3の共通の不備との主張について
本件対象保有個人情報1~3は、いずれも埼玉県警察本部交通部交通捜査課が、
〇〇警察署からファクシミリにより受信したものであり、それぞれの写しを部分開
示した。
審査請求人は、写しによる開示であったこと、写しが真正であるか不明であるこ
と、ファクシミリにより送信された文書でありながら送信元及び送信先の表示が消
されていることを理由として、本件対象保有個人情報1~3について、送信元及び
送信先の表示がある文書の開示を求める旨を主張する。
これに対し、平成〇〇年〇〇月〇〇日、実施機関は審査請求人に対して、本件対
象保有個人情報1~3の原本を閲覧させた。なお、原本閲覧における不開示部分は、
本件対象保有個人情報1及び2については本件処分1及び2と同様とし、本件対象
保有個人情報3については、本件処分3における不開示部分の一部を閲覧させた。
実施機関は、審査請求人に対し、本件対象保有個人情報1~3の原本を閲覧させ
ることにより、原本においてもファクシミリの送信元及び送信先が表示されていな
い旨を説明している。
イ 本件処分2について
審査請求人は、〇〇警察署長を含めた関係者を告訴していること、事故の相手方- 3 -
の不起訴処分に対して検察審査会に審査の申立てを行っていること、犯罪被害者と
して「事件の概要」の全部開示は必要であること及び不開示としたことは実施機関
による隠蔽工作の可能性があることを理由として、本件対象保有個人情報2の「事
件の概要」欄の全部開示を主張する。
実施機関は、「事件の概要」欄の不開示部分は、条例第17条第5号及び第7号に
規定する不開示情報に該当するものとして不開示としたものであり、審査請求人の
主張によって不開示情報該当性は否定されない。
ウ 本件処分3について
審査請求人は、本件対象保有個人情報3の文書の上端が欠損していること、「報告
事項」が不開示であること、「伺事項」の2行目から4行目までが不開示であること、
〇〇警察署長を含めた関係者を告訴していること、事故の相手方の不起訴処分に対
して検察審査会に審査の申立てを行っていること、犯罪被害者として事件概要部分
の全部開示は必要であること、「指揮事項」欄の「よろしい」の記入者は〇〇交通部
長であること及び不開示としたことは実施機関による隠蔽工作の可能性があること
を理由として、本件対象保有個人情報2の「事件の概要」欄の全部開示を主張する。
実施機関は、本件対象保有個人情報2の「事件の概要」欄の不開示部分は、条例
第17条第5号及び第7号に規定する不開示情報に該当するものとして不開示とし
たものであり、請求人の主張によって不開示情報該当性は否定されない。
なお、審査請求人は、本件対象保有個人情報2の「事件の概要」欄の全部開示を
求める理由として本件対象保有個人情報3の部分開示決定処分を指摘しているもの
であって、当該処分の取消しは主張していないことから、当該処分に係る弁明はな
い。
5 審査会の判断
(1)本件対象保有個人情報1~3について
本件対象保有個人情報1は、「告訴・告発・請求事件受理及び処理報告」に記載され
た審査請求人の個人情報である。「告訴・告発・請求事件受理及び処理報告」は、埼玉
県犯罪捜査規程(平成3年1月1日警察本部訓令第1号)に規定された様式であり、
告訴・告発等事件を受理した際に、その要旨や捜査の経過等が記載される文書である。 - 4 -
本件対象保有個人情報2は、「警察本部長事件指揮簿(様式第1号)」に、本件対象
保有個人情報3は、「警察本部長事件指揮簿(様式第2号の2)」に記載された審査請
求人の個人情報である。「警察本部長事件指揮簿(様式第1号)」及び「警察本部長事
件指揮簿(様式第2号の2)」は、いずれも埼玉県犯罪捜査規程に規定された様式であ
り、具体的事件に関して埼玉県警察本部長の指揮事項等の捜査事項が記載される文書
である。
諮問庁によれば、本件対象保有個人情報1~3は、〇〇警察署で作成され、〇〇警
察署長が決裁した後、ファクシミリで埼玉県警察本部交通部交通捜査課に送付され、
埼玉県警察本部において決裁を受けたものとのことである。
そして、審査請求人は、交通事故の実況見分調書及び告訴調書について、決裁した
ことがわかる行政文書の開示を求めているため、諮問庁は、本件開示請求からは実況
見分調書や告訴調書自体の開示を求めているものではないと判断できることから、告
訴事件処理の一連の流れにおいてそれらが決裁されたとわかる文書として本件対象保
有個人情報1~3を特定したと説明している。
審査請求人は、本件処分1~3に対して本件審査請求を行い、次のとおり主張して
いるので、当審査会は、本件対象保有個人情報1~3を見分した上で、それぞれ検討
する。
なお、審査請求人は、本件処分1及び3について、不開示とした部分の開示を求め
る審査請求をしていないことから、当審査会は、当該不開示部分の不開示情報該当性
についての判断はしない。
(2)送信元及び送信先が表示されていないこと等について
ア 審査請求人は、本件対象保有個人情報1~3について、審査請求人が閲覧した写
しが真正であるか不明であり、ファクシミリで送信された文書でありながら送信元
及び送信先の表示が消されているとして送信元及び送信先が表示された保有個人情
報の開示を求めている。
さらに、本件対象保有個人情報3において、文書の上端部の決裁欄に欠損部があ
り、欠損している欄は、「様式第2号の2」の印字の上に被っているため、偽造の可
能性があるとして、上端部の決裁欄並びに送信元及び送信先の表示された保有個人
情報の開示を求めている。 - 5 -
イ 諮問庁によれば、一般に、ファクシミリの送信元及び送信先の表示の有無は機器
の設定によるものと思料されるが、実施機関が所有するファクシミリの全てにおい
て、送信側及び受信側の設定が現在どのようになっているか、またそれが過去にお
いてどういった設定になっていたかは不明とのことであった。
さらに、本件対象保有個人情報3の上端部が欠損したことについては、ファクシ
ミリの送信時又は受信時等の何らかの要因により上端部がわずかに表示されなかっ
たものと思料されるとのことであった。
ウ 当審査会で本件対象保有個人情報1~3を見分したが、諮問庁の説明に不自然、
不合理な点は認められず、また、審査会事務局職員に実施機関がファクシミリで受
信し現在保有する他の複数の公文書を確認させたところ、送信元及び送信先の表示
の有無については保有する公文書により様々であることが認められた。
さらに、本件対象保有個人情報3の上端部が欠損していることにより、それが偽
造されたものといえるまでの理由も認められない。
エ したがって、本件開示請求に対して実施機関が本件対象保有個人情報1~3を特
定した点において、不備は認められない。
(3)本件処分2について
審査請求人は、本件処分2を取り消し、実施機関が不開示とした部分の開示を求め
ているので、本件対象保有個人情報2を見分した上で、不開示部分の不開示情報該当
性について以下検討する。
ア 警部補以下の職員の氏名及び印影の条例第17条第3号該当性について
条例第17条第3号は、「開示請求者(中略)以外の個人に関する情報(中略)で
あって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により開示請求者以外
の特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、開示
請求者以外の特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)(中略)
又は開示請求者以外の特定の個人を識別することはできないが、開示することによ
り、なお開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を不開示情
報として規定し、ただし書イ、ロ又はハに掲げる情報に該当する場合は不開示情報
から除くものとしている。
このうち、同号ただし書ハでは、「当該個人が公務員等(中略)である場合におい- 6 -
て、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公
務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」は開示するとしているが、当該公
務員等の氏名については開示することとしていない。
これは、公務員等の職及び職務の遂行に関する情報のうち当該公務員等の氏名に
ついては、開示した場合、公務員等の私生活等に影響を及ぼすおそれがあり得るこ
とから、私人の場合と同様に個人情報として保護に値すると位置付けたものと解さ
れる。
したがって、これら職務の遂行に係る情報の中に当該公務員等の氏名が含まれる
場合は、同号ただし書イ「法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ること
ができ、又は知ることが予定されている情報」に該当するときに限り開示すること
となる。このうち、「慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定
されている」場合とは、実施機関により氏名を公表する慣行がある場合や、実施機
関により作成され、又は実施機関が公にする意思をもってあるいは公にされること
を前提に提供した情報を基に作成され、現に一般に販売されている職員録に氏名が
掲載されている場合等が該当すると考えられる。
警部補以下の職員の氏名は、埼玉県職員録においても、また、新聞の人事異動情
報等でも公表されていない。そのため、これらの情報は、慣行として開示請求者が
知ることができる情報とはいえず、知ることが予定されている情報ともいえないこ
とから、同号ただし書イには該当しない。また、当該不開示部分が、同号ただし書
ロに該当する事情も認められない。
したがって、警部補以下の職員の氏名及び印影は、条例第17条第3号に規定す
る不開示情報に該当する。
なお、当該不開示部分については、上記のとおり条例第17条第3号に該当する
ことが認められるため、同条第5号該当性については判断するまでもない。
イ 開示請求者以外の個人に関する情報の条例第17条第3号該当性について
本件対象保有個人情報2の被疑者欄は、警察官が現場に臨場した際、事案を処理
するため開示請求者以外の当事者から聴取した内容が記載されており、当該記録は、
開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合するこ
とにより、開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなるものを- 7 -
含む。)と認められ、条例第17条第3号ただし書きイ、ロ又はハに掲げる情報に該
当する事情は認められない。
したがって、本件対象保有個人情報2の開示請求者以外の個人に関する情報は、
条例第17条第3号に規定する不開示情報に該当する。
なお、当該不開示部分については、上記のとおり条例第17条第3号に該当する
ことが認められるため、同条第7号該当性については判断するまでもない。
ウ 「事件の概要」欄で不開示とした部分の条例第17条第5号該当性について
条例第17条第5号は、「開示することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴
の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると
実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として規定して
いる。
同号で「おそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」と
されている点については、同号に規定する情報に該当するかどうかの判断は犯罪等
に関する将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認めら
れることから、実施機関の第一次的な判断を尊重し、その判断が合理性を持つ判断
として許容される限度内のものであるか否かを審理・判断することが適当であるた
め、このような規定となっているものである。
当審査会が本件対象保有個人情報2の「事件の概要」欄の不開示部分を見分した
ところ、実施機関による調査及び捜査によって得た事実が具体的かつ詳細に記載さ
れており、実施機関の視点及び関心等が明らかとなる部分であることが認められる。
したがって、当該不開示部分は、開示することにより、犯罪の予防や捜査等公共
の安全の維持に支障を及ぼすおそれがあるとした実施機関の判断には相当の理由が
あると認められることから、条例第17条第5号に規定する不開示情報に該当する。
なお、当該不開示部分については、上記のとおり条例第17条第5号に該当する
ことが認められるため、同条第7号該当性については判断するまでもない。
(4)その他
審査請求人は、その他種々主張するが、いずれも当審査会の判断を左右するもので
はない。
(5)結論 - 8 -
以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
早川 和宏、西田 幸介、東谷 良子
審議の経過
年 月 日


平成30年 7月 3日 諮問(諮問第153号)を受け、弁明書の写しを受理
平成30年 9月13日 諮問庁からの意見聴取及び審議
平成30年10月29日 審議
平成30年11月27日 審議
平成30年12月25日 審議
平成31年 1月21日 審議
平成31年 2月27日 答申 - 9 -


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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