「開示請求者が警察署に提出した告訴・告発状の告発の部分について、受理・不受理等どのような取扱がされたのか分かる情報。」について自己情報の開示請求
不服申立て事案答申第116号の概要について
1 件名
「警察安全相談等・苦情取扱票」等一部開示決定に関する件
2 事案の概要
審査請求人は、平成26年8月19日付けで愛知県個人情報保護条例(平成16年愛知
県条例第66号。以下「条例」という。)に基づき、「開示請求者が警察署に提出した告
訴・告発状の告発の部分について、受理・不受理等どのような取扱がされたのか分か
る情報。」について自己情報の開示請求を行った。
これに対し、愛知県警察本部長が同年11月28日付けで別記に掲げる保有個人情報
(以下「本件保有個人情報」という。)を特定し、一部開示決定を行ったところ、審査
請求人は、審査請求人の求める情報の開示を求める等の理由で、一部開示決定の取消
しを求める審査請求を行った。
3 実施機関の一部開示決定の理由
実施機関の主張は、次の理由により本件保有個人情報を一部開示としたというもの
である。
(1) 告訴又は告発の相談受理に係る行政文書
ア 告訴又は告発の相談を受理した場合の措置
告訴又は告発(以下「告訴等」という。)は、犯罪捜査の端緒として重要な意義
を持つが、その取扱いは、告訴人、告発人その他関係者の権利、義務に及ぼす影
響も大きく、また、犯罪捜査に対する県民の理解と協力を得る上において極めて
重要な役割を果たすもので、告訴等事件を迅速かつ適正に処理するため、その取
扱いに関して告訴・告発事件取扱要綱(平成元年刑総発甲第17号。以下「要綱」
という。)が定められている。
要綱において、告訴等を前提とした相談があった場合には、誠実に、かつ、で
きるだけ迅速に告訴等としての受理・不受理を判断し、不受理の場合は、相談人
の心情を十分に理解し、救済に適した機関、施設を教示するなど適切な措置を執
ることとされているが、こうした措置は、暴力団関係相談の措置結果等を記載し
た相談簿を作成した場合を除き、警察安全相談等及び苦情の取扱いに関する規程
の運用(平成24年務住発甲第27号。以下「運用」という。)に定める様式「警察
安全相談等・苦情取扱票(以下「取扱票」という。)」等に記録し、その経過を明
らかにしておくこととされている。
イ 警察安全相談等・苦情取扱票等の取扱い
警察安全相談等とは、犯罪等による被害の未然防止に関する相談その他県民の- -
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安全と平穏に係る相談、並びに警察行政に係る要望、意見、感謝、激励、事件情
報等をいい、その取扱いについては、警察安全相談等及び苦情の取扱いに関する
規程(平成24年愛知県警察本部訓令第4号。以下「規程」という。)及び運用に
その手続等が定められている。
これらの規程及び運用に基づき、警察安全相談等を受理した場合は、取扱票を作
成し、速やかに申出者、申出の内容等を所属長に報告するものとされている。
なお、取扱票には、申出内容、処理経過等の要旨を記載すれば足り、申出者と
の会話のやりとりを一言一句記載しなければならないものではない。
(2) 本件自己情報開示請求に係る保有個人情報の特定
本件自己情報開示請求は、警察署保管に係る「開示請求人が警察署に提出した告
訴・告発状の告発の部分について、受理・不受理等どのような取扱がなされたのか
分かる情報」の開示を求めるものであるが、開示請求者が申し出た告訴等に係る文
書、警察安全相談等に係る取扱票等を検索し、平成26年8月19日現在、警察署が
管理する経過票等が添付された取扱票合計2通(写し1通を含む。以下「本件取扱
票」という。)を特定した。
なお、本件自己情報開示請求に係る保有個人情報には、取扱票に添付された様式
「告訴・告発事件相談簿」(以下「相談簿」という。)があるが、これは要綱の一部
改正(平成25年刑総発甲第48号)により削除された旧様式であり、告訴等を前提
とした相談を受理した職員が、その経過を誤って旧様式に記録したため、後日、取
扱票にその旨を記して添付されたものである。
(3) 一部開示決定した理由
ア 条例第17条第2号の該当性
(ア) 本件取扱票には、受理者の職員番号が記載されている。これらの情報は、開
示請求者以外の個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、その他
の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの又は
開示請求者以外の特定の個人を識別することはできないが、開示することによ
り、なお開示請求者以外の個人の権利利益を侵害するおそれがあるものに該当
するため、本号に該当すると判断し、不開示としたものである。
(イ) また、個人が公務員等である場合においては、本号ただし書ハでは、当該情
報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち当該公務員等の
職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分は開示することとしているが、
この例外として当該公務員が規則で定める職にある警察職員である場合にあっ
ては、当該公務員等の氏名に係る部分は除くこととしている。
この氏名を不開示とする警察職員の範囲は、知事の保有する個人情報の保護
等に関する規則(平成17年愛知県規則第10号。以下「規則」という。)第8
条において、「警部補以下の階級にある警察官をもって充てる職及びこれに相- -
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当する職にある警察職員」と規定されていることから、取扱票の受理者氏名、
取扱票に添付された相談簿の取扱者、本部報告受信者名及び決裁欄に記載され
ている警部補以下の警察職員の印影の部分について、これらの公務員は全て警
部補以下の階級にある警察官であることから、本号に該当すると判断し、不開
示としたものである。
イ 条例第17条第6号の該当性
本号に基づき不開示とした部分は、取扱票に添付された相談簿のうち、告訴
事件の相談に対し捜査した内容、結果や判断、捜査状況、捜査方針の検討状況
等が記載された部分である。
告訴を受理し検察庁へ送付するためには被疑者等の取調べ、証拠の収集、裏
付け等の捜査をしなければならず、これらの手続自体は警察として当たり前の
捜査手法であり特別な捜査手法ではないが、不開示とした個別事件に関する法
令解釈や捜査上の着眼点、検討及び判断の過程等が分かる部分を開示すれば、
今後、犯罪を行い又は行おうとする者が、開示された情報をもとに証拠隠滅等
の隠蔽工作やその他捜査機関に対する対抗措置、防衛措置を講じる等、将来の
捜査に支障が生じるおそれがあると認められたため、本号に該当すると判断し、
不開示としたものである。
ウ 条例第17条第8号の該当性
本号に基づき不開示とした部分は、取扱票に添付された相談簿に記載された、
告訴事件の相談に対し捜査した内容、結果や判断、捜査状況、捜査方針の検討状
況等が記載された部分である。
告訴事件の相談に関する内部的な検討や処理方針等に係る情報は、警察内部に
おける当該事案を処理するためのものであり、これらを開示すると相談を解決す
るために必要とする事務の想定を超えた対応を求められるおそれがある。
また、担当職員又は関係職員が、こうした事態を招くことを憂慮し、ありの
ままに意見評価等を述べたり、取扱票に記載することを躊躇ちゅうちょ
することにより、
組織内において正確な事実を把握して適切な検討を行い、的確な方針を策定する
ことが困難になるなど警察業務の適正かつ円滑な遂行に支障を及ぼすおそれが
あるため、本号に該当すると判断し、不開示としたものである。
エ 条例第44条の該当性
本条に基づき不開示とした部分は、取扱票に添付された相談簿に記載された、
刑事事件に関する処分結果が記載された部分である。
これは、請求人に係る告訴等事件に関連した刑事事件に関して、行政機関法第
45 条第1項の規定にある「刑事事件等に係る裁判、検察官、検察事務官若しくは
司法警察職員が行う処分等に係る保有個人情報」に該当し、行政機関法第4章の
規定が適用されない保有個人情報であることから、条例第44条の規定に基づき、- -
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不開示としたものである。
4 審議会の結論
本件保有個人情報について、別表に掲げる部分を不開示としたことは妥当である。
5 審議会の判断要旨
(1) 本件保有個人情報について
本件保有個人情報は、審査請求人が申し出た苦情等に関して実施機関が作成又は
取得したものであり、その内訳は、別記に掲げるとおりである。この特定に対して、
審査請求人は、何ら意見を述べていないことから、本件保有個人情報の特定に誤り
はないものと認められる。
実施機関は、別表に掲げる本件情報1及び2を条例第17条第2号に該当するもの
として、本件情報3を同条第6号及び第8号に該当するものとして、本件情報4を
条例第44条に該当するものとして不開示にしている。
(2) 条例第17条第2号該当性について
ア 本件情報1は、審査請求人から申出のあった相談等に係る事務を行った警察職
員の氏名及び印影であり、審査請求人以外の個人に関する情報であって、審査請
求人以外の特定の個人を識別することができるものに該当すると認められるため、
条例第17条第2号本文に該当する。
ところで、本号ただし書ハは、個人が公務員等である場合において、当該個人
に係る情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公
務員等の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分は開示することとして
いるが、この例外として、当該公務員等が規則で定める職にある警察職員である
場合にあっては、当該公務員等の氏名に係る部分を除くこととしている。この氏
名を不開示扱いとする警察職員の範囲は、規則第8条により、警部補以下の階級
にある警察官をもって充てる職及びこれに相当する職にある警察職員と規定され
ている。
よって、本件情報1は、条例第17条第2号ただし書ハに該当しない。
また、本件情報1は、法令若しくは条例の規定により又は慣行として審査請求
人が知ることができ、又は知ることが予定されている情報とは認められないので、
本号ただし書イには該当せず、同号ただし書ロにも該当しないことは明らかであ
る。
したがって、本件情報1は、条例第17条第2号に該当する。
イ 本件情報2は、警察職員の職員番号で、職員ごとに付与される個人識別番号で
ある。当該番号のみから直ちに個人を特定することは困難であると認められるが、
職員番号は、職員の人事、給与、共済事業等に関する広範な情報を管理するため- -
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の各種業務システムにおいて使用されているものであり、公になると、そうした
各種業務システムの不正利用等が行われるおそれがあることを否定できない。
よって、本件情報2は、その性質等からみて特定の個人を識別することはでき
ないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を侵害するおそれがある情報
であると認められるため、条例第17条第2号本文に該当する。
また、本件情報2は、法令若しくは条例の規定により又は慣行として審査請求
人が知ることができ、又は知ることが予定されている情報ではなく、本号ただし
書イには該当しない。そして、本件情報2は、公務員等の職務の遂行に係る情報
であるとは認められず、同号ただし書ハには該当しないとともに、同号ただし書
ロにも該当しないことは明らかである。
したがって、本件情報2は、条例第17条第2号に該当する。
(3) 条例第17条第6号該当性について
本件情報3は、告訴事件の相談に対し捜査した内容及び結果や判断、捜査状況等
及び捜査方針の検討状況等に関する情報である。
実施機関は、本件情報3を開示すれば、個別事件に関する法令解釈や捜査上の着
眼点、検討及び判断の過程等が分かり、今後、犯罪を行い又は行おうとする者が、
開示された情報をもとに証拠隠滅等の隠蔽工作やその他対抗措置、防衛措置を講じ
る等、将来の捜査に支障が生じるおそれがあると主張する。
当審議会において、本件情報3を見分したところ、当該部分は、審査請求人から
の告訴事件の相談に対して、実施機関が捜査した捜査状況や処理方針、捜査手法な
どが分かる内容の記載が認められた。これらの情報を開示することにより、将来の
犯罪捜査等に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理
由があるものと認められるため、本件情報3は、条例第17条第6号に該当する。
なお、本件情報3は、条例第17条第8号にも該当するとして実施機関は不開示と
しているが、当該部分は、同条第6号に該当することから、同条第8号該当性を論
ずるまでもなく、不開示情報に該当する。
(4) 条例第44条該当性について
当審議会において、本件情報4を見分したところ、当該部分は、審査請求人に係
る告訴事件に関して、検察官、検察事務官又は司法警察職員の処分を受ける者に係
る保有個人情報であることが認められた。これは、行政機関法第45条第1項に規定
する検察官、検察事務官又は司法警察職員が行う処分に係る保有個人情報に該当し、
条例第44条の規定に基づき、自己情報の開示の規定の適用を受けないものと認めら
れる。
(5) 審査請求人のその他の主張について
審査請求人は、その他種々主張しているが、別表に掲げる部分の不開示情報該当
性については、前記(2)から(4)までにおいて述べたとおりであることから、審査請- -
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求人のその他の主張は、当審議会の判断に影響を及ぼすものではない。
別記
【警察署 警務課保管のもの】
文書1 警察安全相談等・苦情取扱票
【警察署 刑事課保管のもの】
文書2 警察安全相談等・苦情取扱票の写し
別表
開示しないこととした部分
【本件情報1】
警部補及び同相当職以下の警察職員の氏名及び印影
(文書1及び2)
【本件情報2】
職員番号
(文書1及び2)
【本件情報3】
告訴事件相談に対し捜査した内容及び結果や判断、捜査状況等
及び捜査方針の検討状況等が記載された部分
(文書1及び2)
【本件情報4】
告訴事件相談に対し捜査した結果が記載された部分
(文書1及び2) - -
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淺利 大輔
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。