刑事警察被害者支援推進要領

刑事警察被害者支援推進要領
第1 目的
この推進要領は、警視庁犯罪被害者支援要綱(平成9年1月21日通達甲
(副監.総.企.被1)第1号)及び警視庁指定被害者支援実施要領(平成
12年3月14日通達甲(副監.総.企.被1)第3号)に基づき、刑事警
察における被害者支援の推進について、その基本的事項を定めることを目的
とする。
第2 被害者支援の推進
刑事警察は、警察が行う犯罪捜査の中心を担っているが、犯罪捜査活動に
は、被害者等(被害者、遺族及び被害者が少年の場合等の保護者をいう。以
下同じ。)の救済という側面がある一方、その進め方によっては、被害者等
に、犯罪者から直接被る被害に加えて、更に精神的又は経済的な負担を与え
かねないという側面もあると言える。
したがって、被害者等と最も密接に、かつ、長期間にわたって接触し、被
害者等の置かれた状況をよく知り得る立場にある刑事警察に従事する者は、
犯罪捜査活動においては、被害者等の人権を尊重し、被害者等の立場に立っ
て、その要望に対応した諸対策を推進するとともに、捜査過程における被害
者等の精神的負担等の軽減に努め、被害者等が犯罪捜査活動に協力しやすい
状況を作り出す必要がある。
第3 個別分野施策の推進
1 指定支援の実施
(1) 初期支援及び被害者連絡の実施所属
ア 初期支援は、原則として被害を認知した警察署において行うもの
とする。
イ 被害者連絡は、原則として当該事件を処理する警察署(以下「事
件処理警察署」という。)において行うものとする。
ウ 事件処理警察署は、次に掲げる事項に該当する場合は、被害者等
の居住地を管轄する警察署(以下「被害者居住地管轄警察署」とい
う。)との協議により、被害者居住地管轄警察署に被害者連絡を依
頼することができる。この場合、事件処理警察署は、被害者居住地
管轄警察署に対し、当該被害者連絡に必要な情報を提供すること。
(ア) 面接による被害者連絡を行う必要性が高い場合
(イ) 電話による連絡ができず、かつ、居住地が遠隔地である場合
(ウ) その他被害者居住地管轄警察署が行うべき捜査上の必要性が
ある場合
(2) 被害者連絡実施期間
ア 被害者連絡の実施期間については、原則として、被害者連絡に着
手したときから当該事件の被疑者が検挙・起訴され、処分が確定し
たときまでとする。
イ 指定支援責任者は、次のいずれかに該当する場合は、警察署長(以
下「署長」という。)の承認を受けて被害者連絡を終結するものと
する。ただし、終結した後に被害者連絡を再開すべき事情が生じた
ときは、署長に報告して再度実施すること。
(ア) 被害者等が、明確な意思表示により被害者連絡を拒否した場

(イ) 被疑者未検挙のまま公訴時効が成立した場合
(ウ) 被疑者が死亡した場合
(エ) その他諸般の事情から、指定支援責任者が被害者連絡を終結
することが適当であると認めた場合
(3) 被害者支援総合管理システムによる登録
署長は、刑事警察における初期支援を実施した場合及び被害者連絡を
終結した場合は、被害者支援総合管理システム(以下「管理システム」
という。)に登録するものとする。
(4) その他
対象事件以外の事件の被害者等についても、この推進要領に準じた適
切な対応に努めるものとする。
2 訪問・連絡活動との関係
(1) 被害者等の要望の有無の確認
ア 被害者連絡員は、被害者等に対し、訪問・連絡活動の実施を要望
するか否かを確認することとするが、当該要望の確認は、捜査状況、
被害者等の状況等を十分に勘案し、訪問・連絡活動が行われても捜
査活動上支障がないと認められるようになったときに行うものとす
る。
イ 被害者連絡員は、被害者等に対して前アによる確認をする場合は、
訪問・連絡活動の制度があることを教示するだけでなく、その趣旨
についても十分に説明するものとする。
ウ 被害者連絡員は、前記アによる確認の結果を管理システムに登録
するとともに、指定支援責任者に報告するものとする。
(2) 訪問・連絡活動依頼時の留意事項
ア 自署管内に居住する被害者等が訪問・連絡活動の実施を要望した
ときは、指定支援責任者は、訪問・連絡活動責任者に訪問・連絡活
動の実施を依頼するものとする。この場合、指定支援責任者は、次
により、地域課との円滑な連携に努めること。
(ア) 訪問・連絡活動の要請
訪問・連絡活動を実施する際に地域警察官が配意すべき事項
(以下「配意事項」という。)がある場合は、事件担当捜査員
は、その配意事項を指定支援責任者に報告し、これを受けた指
定支援責任者は、その旨を訪問・連絡活動責任者に対して連絡
すること。
(イ) 被害者連絡員に、前(ア)の配意事項を管理システムに登録し、
被害者連絡経過票により明らかにしておくものとするが、その
内容が捜査の遂行又は被害者等のプライバシー保護の観点から
支障がないと認められる場合に限り入力させること。配意事項
が複雑な場合は、「訪問・連絡活動を実施する際の配意事項が
あるため、実施前に被害者連絡員あて連絡を要する。」などと
入力させること。
(ウ) 被害者連絡員に、当該訪問・連絡活動を実施する地域警察官
と連絡を密にとらせること。
イ 被害者等が警視庁の他署管内に居住している場合において、被害
者等が訪問・連絡活動の実施を要望したときは、当該警察署の指定
支援責任者に対し、依頼する訪問・連絡活動についての留意事項等
を連絡するものとする。
(3) 訪問・連絡活動の実施状況の把握
指定支援責任者は、訪問・連絡活動責任者との連絡を密に行い、訪問・
連絡活動の実施状況を確実に把握し、未実施又は活動が停滞しているよ
うな状況があれば、実施するよう申し入れるとともに、把握した内容に
ついては、被害者連絡員に確実に伝えるものとする。
(4) 訪問・連絡活動中止の要請
指定支援責任者は、実施中の訪問・連絡活動を捜査上の理由から中止
させたい場合は、訪問・連絡活動責任者に対し、当該活動を中止するよ
うに要請するものとする。この場合、指定支援責任者は、被害者等に対
し、訪問・連絡活動を中止する旨及び必要によりその理由を説明するこ
と。
3 告訴・告発、被害届等の適正な受理
(1) 告訴・告発、被害届等の受理に当たっては、被害者等の立場に立って
対応し、的確な事件判断及び立件措置に努めるとともに、当該事案に関
して刑事以外の部門又は他の機関での対応が必要であると認められる
ものについては、これらに引き継ぐなどの適切な措置をとるものとす
る。
(2) 告訴・告発の相談及び受理に当たっては、告訴及び告発の取扱いにつ
いて(平成15年4月1日通達甲(副監.刑.2.資)第15号)によ
るほか、次により、適正な対応に努めるものとする。
ア 被害者連絡状況の記載
知能犯に関する告訴及び告発取扱要綱の制定について(平成15
年4月1日通達甲(刑.2.資)第3号)別記様式第2号の「告訴
(発)事件捜査メモ」及び警察総合相談業務等管理システム当該相
談に係る事案の概要、措置等を入力した告訴等相談簿に告訴人・被
害者等に対する連絡内容を記載し、被害者連絡の経緯を明確にして
おくこと。
イ 事件引継時の措置
事件を他所属に移送した場合又は人事異動等で他の捜査員に事件
を引き継ぐ場合は、必ず告訴事件捜査メモ及び告訴等相談簿の写し
を事件記録に添付し、告訴人・被害者等の実態、連絡経過等を確実
に引き継ぐこと。
4 被害品の速やかな還付手続等の徹底
犯罪捜査等において、被害品の発見等に至った場合は、次の事項に配慮
して還付又は仮還付の手続による速やかな被害回復に努めるものとする。
(1) 留置の必要性の的確な判断
既に留置の必要性が失われている押収物を漫然と占有することなく、
留置の必要性がないと判断される押収物については、還付の申立ての有
無にかかわらず、還付しなければならない。
(2) 留置の必要性の有無は、事件ごとに、次の事項を総合して判断するこ
と。
ア 犯罪の態様
イ 押収物の証拠としての価値・重要性
ウ 押収物を還付した場合に、それが隠滅、毀〔き〕損等されるおそ
れの有無
エ 押収を継続することによって生じる被押収者の不利益の程度
オ その他諸般の事情
5 性犯罪被害者支援の推進
(1) 性犯罪捜査指導官は、性犯罪捜査指導官及び性犯罪捜査員運用要綱
(平成17年3月1日通達甲(副監.刑.1.性1)第1号)等により、
警察署における性犯罪捜査の指導等に当たるものとする。
(2) 署長は、自署管内で性犯罪事件が発生したときは、強姦等の性犯罪の
被害者が警察の事情聴取により受ける精神的負担を緩和するため、可能
な限り性犯罪捜査員を直ちに現場等に臨場させ、被害者からの事情聴取
等の捜査活動を行わせること。やむを得ない理由により自所属の性犯罪
捜査員を運用することができないときは、機動捜査隊等に勤務する性犯
罪捜査員の派遣要請を考慮すること。
(3) 指定支援責任者は、性犯罪捜査員に対し、性犯罪被害者に対する被害
者連絡を行わせること。この場合において必要があるときは、刑事課幹
部と共に行わせること。
(4) 署長は、性犯罪捜査員が講習等のやむを得ない理由で不在のときは、
捜査第一課、機動捜査隊、自動車警ら隊、鉄道警察隊又は生活安全特別
捜査隊の性犯罪捜査員を被害者連絡員として要請することができる。
第4 被害者等に対応する場合の具体的留意事項
1 基本的留意事項
(1) 被害者等に対応する場合は、被害者等の立場に立って真摯〔し〕に
対応し、事務的な取扱いや命令的な態度で応接することによって被害
者等に不快感や恐怖心を与えることのないように配意するものとす
る。
(2) 被害者等は、精神的にも痛手を受けているため、警察官の事情聴取
に的確に対応することができないこともあることを理解しておくもの
とする。
(3) 死亡が明らかでない事件等の場合は、生存の可能性を考慮し、人命
救助又は治療の措置を最優先に行うものとする。
(4) 殺人事件等の犯罪捜査活動は、葬儀等の行事と並行して行われるた
め、遺族等の心情を理解し、死者及び遺族に対する礼を失することの
ないよう礼節ある態度で応対するとともに、遺族に対して刑事手続等
を説明し、無用の心配を掛けないように配意するものとする。
(5) 強姦等の性犯罪事件の場合は、被害者のしゅう恥心に配意した対応
をするとともに、被害者側にも落ち度があるといった言動・態度をし
ないものとする。
2 捜査活動推進上の留意事項
(1) 被害の受理
ア 被害者の安否の確認を優先し、必要があれば迅速に救急車を手配
するものとする。
イ 通報者を落ち着かせ、冷静に受理するとともに、事案の概要及び
手配に必要な事項を優先的に聴取して確実に組織に乗せることに
より、不必要な重複聴取を避けるものとする。
ウ 被害者等の外観等から受ける第一印象による先入観に基づく差
別的な取扱いは、厳に慎むものとする。
エ 事案の概要等を聴取した後に、直ちに臨場し、関係者等を報道機
関,近隣者等の面前から早期に隔離するものとする。
オ 現場保存等を通報者に依頼する場合は、通報者の事情等も考慮
し、過度の依頼をしないものとする。
カ 強姦事件等の臨場に当たっては、一見して警察車両と分かる車両
の利用は避けるとともに、できる限り私服で臨場し、臨場後は、早
期に医師の診察を受けさせるように配意するものとする。
(2) 被害者等の呼出し
ア 被害者等に呼出しの連絡をする場合は、被害者等の意向を尊重し
て時間及び場所を選定し、被害者等に迷惑が掛からないよう十分配
意するものとする。
イ 出頭した被害者等が行き先に困らないように、警察署等の受付担
当者に対し、呼び出している被害者等の氏名をあらかじめ連絡して
おくことなどの配慮をするとともに、必要に応じて送迎等の便宜を
図るものとする。
ウ 約束した時間等を厳守し、警察の都合で被害者等を待たせたり、
時間及び場所を変更したりしないものとする。
エ 検察庁からの呼出依頼を受けた場合は、その理由について分かり
やすく説明するとともに、必要に応じて送迎等の便宜を図るものと
する。
(3) 事情聴取
ア 刑事担当課長等の捜査幹部は、事情聴取を行う者を指名するなど
により、重複聴取を避けるものとする。
イ 被害現場での事情聴取は、必要最小限度にとどめ、被害者等を付
近の居住者又は報道関係者の目にさらさないように配意するもの
とする。
ウ 事情聴取を行う場所は、被害者等のプライバシーの保護を第一に
考えて選定するものとする。
エ 事情聴取時間をできるだけ短くするため、あらかじめ聴取事項を
まとめておくものとする。ただし、事情聴取を短時間で済ませるた
めに、その場限りの安易な約束をしてはならない。
オ 事情聴取を行う者は、事情聴取をする前に、氏名等を明らかにし
て被害者等に無用な不安感を与えることのないようにするととも
に、侮辱を与えるような言動をとらないように注意するものとす
る。
カ 事情聴取の終了後は、謝辞と今後の協力依頼を告げることを忘れ
ないものとする。
キ 事情聴取が長時間にわたる場合は、食事、休憩等に配意するとと
もに、自宅等に残されている老人、幼児等の家族に対する配意を怠
らないものとする。
ク 事情聴取を行う者は、被害者等の要望事項については、刑事担当
課長等に報告し、適切な措置を講ずるものとする。
ケ 検察庁での取調べ、証人出廷、被害回復・救済方法の概要等につ
いて教示しておくものとする。
(4) 聞き込み
ア 被害者等の名誉・プライバシーを侵害するような方法での聞き込
みは避けるとともに、聞き込みで得られた情報を開示したり、情報
源を漏らすようなことはしてはならない。
イ 聞き込み先において、被害者等の状況を察知されないように注意
するとともに、聞き込み事項等が安易に口外されないよう配意する
ものとする。
ウ 第三者に対して性犯罪被害者等についての聞き込みを行う場合
は、安易に被害者が判明されぬよう注意するものとする。
(5) 遺体の取扱い
ア 遺体の搬送に当たっては専用バッグを使用するなど、遺体が第三
者の目に触れることがないよう配意するものとする。
イ 検視の施設がない場合においても、遺族に不快感を与える場所で
の検視は努めて避けるものとする。
ウ 解剖の必要性について、遺族に十分理解させるとともに、死亡原
因については、捜査に支障のない範囲で説明するものとする。
エ 解剖後の遺体の引渡予定について、確実に遺族に説明しておくも
のとする。
オ 区・市役所等に対する死亡届の提出手続等についての説明は、事
後の紛議が起こることのないよう、複数の遺族に対して行うものと
する。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

Profile Picture