告訴事実の書き方(基本編~窃盗罪)【元刑事が解説】

 告訴状を作成するのに当たり、一番難しい項目が「告訴事実」です。逆に言えば、「告訴事実」以外の項目は難しくはありません。告訴事実さえ書けてしまえば、告訴状自体の作成は8割方終わったようなものです。
 告訴事実を作成するに当たり、まず何罪かを特定しないとなりません。参考書などを読むと「告訴状に罪名と法律条文の記載は必須ではない」などと書いてありますが、実務上、これらの記載が無い告訴状はあり得ないと考えます。よって、告訴事実を作成する前に、犯罪被害にあった内容がどの法律の何条に該当するかをまず特定しないとなりません。今回は、犯罪の中でも最も発生の多い、刑法第235条窃盗罪の告訴事実を取り上げます。 
 窃盗罪とは、他人が所持、保管、管理する物を無断で持ち去る(盗む)行為です。預けていたものを着服するのは横領罪になりますし、騙されて金品を渡せば詐欺罪になるので注意が必要です。盗むとは、被害者の同意なしにこっそり無断で持って行って「自分のもの」とする行為です。似ている犯罪に器物損壊罪があります。こっそり他人のバッグを持ち去り、すぐにそれを川や海に捨てれば、「自分のもの」としておらず、その目的でもないので、器物損壊罪になります。
 さて、職場で置いておいた財布が同僚に盗まれたとして、その告訴事実を書いてみます。

解説
 犯罪日時については、犯行が一瞬で終わったような場合で、ある程度時間が絞れていれば、事例のように○○分頃とします。反対に旅行中に家に空き巣に入られたような場合であれば、「令和6年9月1日午前10時0分頃から同年同月3日午後5時30分頃までの間」とします。犯行を目撃していて、同時に誤差のない時計で発生時刻を確認したのでない限りは「頃」を付けるのが一般的です。
 発生場所については、番地を東京都江東区豊洲1-4-10などとせずに、住居表示通りに正しく記載します。事例のように「○丁目○番○号」の場合もあれば「○丁目○番地の○」などの場合もあるので注意が必要です。住居表示方法がわからない場合は、地元の市町村役場に電話すれば教えてくれます。番地以下の場所名については、わかる範囲でなるべく詳しく書きます。株式会社については、略して(株)としないようにしてください。
 「告訴人がトイレに行くため席を離れたすきに乗じ、」この部分は必須ではありません。何のために席を立ったか記憶が曖昧であれば、入れる必要はありません。
 被害品については、所有者を必ず記載します。また、事例では「現金2万円入りの革製財布」としましたが、「革製財布(時価合計2万5000円相当)などと記載する方法もあります。財布の中に免許証やキャッシュカードなどが入っていた場合は、告訴状の「その他」の項目又は添付の陳述書等で明らかにします。現金の金額がよくわからない場合は「現金2万円くらい」と記載します。内訳がわかれば「一万円1枚、五千円札1枚、千円札5枚くらい」のように記載します。窃盗罪の場合、結びの言葉は必ず「窃取したものである」になります。

 自動車盗の場合

 置き引きの場合

告訴状の作成方法と告訴事実の重要性

告訴状を作成する際に最も難しい項目が「告訴事実」です。逆に言えば、「告訴事実」以外の項目は比較的簡単に作成できます。そのため、告訴事実を適切に記述できれば、告訴状全体の作成はほぼ完了したといえるでしょう。

告訴事実の作成手順

告訴事実を作成するにあたり、まず最初に特定すべきなのが「何罪に該当するか」です。法律の参考書などには「告訴状に罪名と法律条文の記載は必須ではない」と記載されていることがあります。しかし、実務上、罪名と条文が記載されていない告訴状は受理されにくいため、記載することを強く推奨します。

したがって、告訴事実を作成する前に、犯罪被害の内容がどの法律の何条に該当するのかを明確に特定する必要があります。今回は、犯罪の中でも発生件数が多い「窃盗罪」(刑法第235条)について詳しく解説します。

窃盗罪とは?

窃盗罪とは、他人が所持・保管・管理している物を無断で持ち去る、すなわち「盗む」行為を指します。

他の犯罪との違い

窃盗罪と似た犯罪として、以下のようなものがあります。

  • 横領罪(刑法第252条): 預かっていた物を着服する場合に適用。
  • 詐欺罪(刑法第246条): 騙されて金品を渡してしまった場合に適用。
  • 器物損壊罪(刑法第261条): 他人の物をこっそり持ち去った後、捨てるなどして「自分のもの」としない場合に適用。

例えば、他人のバッグを持ち去った後、川や海に捨てた場合、窃盗罪ではなく器物損壊罪となる可能性があります。なぜなら、その行為の目的が「自分のものにすること」ではなく、「他人の物を破壊すること」だからです。

告訴状における窃盗罪の記載方法

窃盗罪に関する告訴状を作成する際は、以下のポイントを明確に記述しましょう。

  1. 被害発生の日時・場所
    • いつ、どこで窃盗被害が発生したのかを具体的に記述。
  2. 被害品の詳細
    • 盗まれた物の名称、特徴、価値などを詳細に記載。
  3. 加害者の特定情報
    • 可能であれば、加害者の氏名、特徴、関係性を記述。
  4. 被害の経緯と証拠
    • どのような状況で盗まれたのか、証拠となる映像や証言の有無などを記載。

まとめ

告訴状を作成する際、最も重要かつ難しいのは「告訴事実」の記載です。適切な罪名を特定し、詳細な被害状況を記述することで、告訴の成功率が高まります。特に、窃盗罪については、他の犯罪との違いを理解し、適切な記述を心がけることが重要です。

告訴状の作成にあたっては、法律の専門家に相談するのも一つの方法です。正確な情報を基に、確実な告訴手続きを進めましょう。

犯罪日時の記載方法について
犯罪日時の記載は、犯行が瞬時に完了し、ある程度時間が特定できる場合は「○○分頃」と記載します。一方で、旅行中に自宅が空き巣被害に遭ったようなケースでは、「令和6年9月1日午前10時0分頃から同年同月3日午後5時30分頃までの間」のように、明確な時間範囲を記載することが適切です。犯行を目撃し、誤差のない時計で正確な発生時刻を確認していない限り、「頃」をつけるのが一般的な書き方となります。

犯罪の発生場所の正しい記載方法
犯罪発生場所を記載する際、番地表記を「東京都江東区豊洲1-4-10」のようにせず、住居表示に基づき正確に記載することが重要です。例えば「○丁目○番○号」や「○丁目○番地の○」といった表記方法があるため、記載時には注意が必要です。もし住居表示方法が不明な場合は、地元の市町村役場に問い合わせることで確認できます。また、番地以下の場所名については、可能な限り詳しく記載し、株式会社の表記は略さず「(株)」ではなく「株式会社」と正式に記述してください。

犯罪発生時の詳細な状況の記載について
告訴状の記載において、「告訴人がトイレに行くため席を離れたすきに乗じ、」といった情報は必須ではありません。もし、席を立った理由が曖昧である場合は、無理に記載する必要はありません。ただし、具体的な状況が明確であれば、できる限り詳細に書くことで犯罪発生時の状況を正確に伝えることができます。

被害品の正確な記載方法
被害品について記載する際は、必ず所有者を明示してください。例えば、「現金2万円入りの革製財布」と記載する方法のほか、「革製財布(時価合計2万5000円相当)」と記載することも可能です。また、財布の中に免許証やキャッシュカードが含まれていた場合は、告訴状の「その他」の項目、または添付の陳述書等で詳しく明記してください。現金の金額が不明な場合は、「現金2万円くらい」と記載し、内訳がわかる場合は「一万円札1枚、五千円札1枚、千円札5枚くらい」と具体的に記載するとよいでしょう。

窃盗罪に関する結びの言葉
窃盗罪の告訴状においては、結びの言葉を「窃取したものである」と明記する必要があります。これは、窃盗罪の成立要件を満たすために重要な要素であり、正確な告訴状を作成するためのポイントとなります。

このように、犯罪日時・発生場所・被害品の詳細な記載は、告訴状の正確性を高めるために重要です。適切な記述方法を守り、正確な情報を提供することで、捜査機関に対し的確な情報伝達が可能になります。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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