なぜ警察は告訴を受理したがらないのか?【元刑事が解説】
「明らかな犯罪被害なのに、警察が告訴を受理してくれない」
このような相談は非常に多く寄せられます。
結論から言うと、警察が告訴を嫌がるのには、構造的・制度的な理由があります。
元刑事の立場から、その実情をわかりやすく解説します。
1.告訴事件は複雑で立証が難しいケースが多い
自転車盗難や軽微な暴行のように、単純で証拠も明確な事件で告訴されることは稀です。
実際に告訴される事件の多くは、
- 関係者が多数いる
- 事実関係が錯綜している
- 証拠が間接的
- 時系列の整理が困難
といった 「立証が非常に難しい事件」 です。
告訴状の厚さが5cmを超えることも珍しくなく、一度読んだだけでは理解できません。
捜査には照会先が数十か所に及び、数か月〜1年以上かかるのが普通です。
日々110番対応や新規事件に追われる警察にとって、
告訴を1件受理するだけで業務負担が一気に増大します。
2.未処理の告訴事件がすでに山積している
忙しい警察署では、未処理の告訴事件を何件も抱えているのが現実です。
私が勤務していた警察署でも、
未処理の告訴状が20件以上あることは珍しくありませんでした。
- 1件を処理する間に
- 新たな告訴が2件受理される
という状況もあり、
このまま全て受理すれば公訴時効が成立してしまうのは明白でした。
3.告訴は必ず検察庁に送致しなければならない
ここが被害届との決定的な違いです。
- 被害届:送致義務なし
- 告訴:必ず検察庁へ送致義務あり
被害届の場合、
- 犯人不明
- 証拠不十分
- 示談成立
などで、事実上「終了」できます。
しかし告訴は、
一度受理したら、どんな結果でも必ず検察庁に送らなければなりません。
警察にとって「途中で終われない事件」なのです。
4.検察官が簡単に「送っていい」と言わない
告訴事件は、送致前に必ず検察官の事前チェックがあります。
刑事が「完璧だ」と思って持参しても、
- 「この証拠が足りない」
- 「この点を補強して」
と大量の宿題を出されるのが常です。
ようやく整えて再度相談すると、
「僕、再来月異動だから次の検事に引き継いでおくよ」
と言われ、振り出しに戻ることもあります。
警察官が告訴を嫌がるのと同様、
検察官も告訴事件を受けたくないのが本音です。
5.上司や同僚から歓迎されない
要件が整っていれば、告訴を拒否することはできません。
しかし現場では、
- 「この忙しい時期に、よく受理したな…」
- 「なんで今なんだ…」
という無言の圧力がかかることがあります。
受理した刑事は、
自分の首を絞める結果になることを皆わかっているのです。
6.告訴人・弁護士からの頻繁な催促
告訴事件を受理すると、
- 「捜査はまだ終わらないのか」
- 「早く逮捕しろ」
- 「もう1年経っている」
と、ほぼ毎日のように電話がかかってきます。
こちらは、
- 「順番に捜査しています」
- 「もう少しお待ちください」
と謝り続けるしかありません。
電話を切るたびに、
仕事へのモチベーションは確実に下がっていきます。
まとめ|警察が告訴を受理したがらない本当の理由
警察が告訴を嫌がるのは、
- 面倒だから
- 怠慢だから
ではありません。
制度上・業務上・心理的に「重すぎる手続き」だからです。
だからこそ、
告訴を確実に受理させるには、
- 内容を整理した告訴状
- 要件を満たした構成
- 立証ポイントの明確化
が不可欠です。
淺利 大輔
あさり だいすけ
行政書士淺利法務事務所 代表
私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。


