いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説

明治大学法学部創立百三十周年記念論文集会一O二-二-一)

いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説
目次
はじめに
一いわゆる「告訴権の濫用」とは何か
二法的対応論序説
むすびにかえて
( l )
はじめに

i畢

刑事司法手続における犯罪被害者の法的位置づけは、 一九九0年代前半までは、 一般に、付審判請求(刑事訴訟法
〔以下、「刑訴法」と略す〕二六二条以下)や検察審査会への審査中立て(検察審査会法)を除いて、参考人としての取
調べ(刑訴法一一一一一二条)、証人尋問における証人としての証言(刑訴法一四三条以下)などに見られるように、原則と
して受動的なものと考えられていた。
170
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しかし、告訴(刑訴法二三O条以下)は、告訴関係書類・証拠物の検察官への迅速な送付(刑訴法二四二条)、起訴a
不起訴処分等の通知(刑訴法二六O条)、不起訴処分の理由の告知(刑訴法二六一条)などに見られるように、 一九九
0年代前半までも、少なくとも法規定上は、 一定の範囲で犯罪被害者の積極的・直接的関与を認めていたといってよ
ぃ。もっとも、判例においては、必ずしもそのような位置づけにはなっていなかった。すなわち、最高裁平成二年二
( 2 )
月二O日判決は、「犯罪の捜査及び検察官による公訴権の行使は、国家及、ひ社会の秩序維持という公益を図るために行
われるものであって、犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではなく、また、告訴は、捜査
機関に犯罪捜査の端緒を与え、検察官の職権発動を促すものにすぎないから、被害者又は告訴人が捜査又は公訴の提
起によって受ける利益は、公益上の見地に立って行われる捜査又は公訴の提起によって反射的にもたらされる事実上
の利益にすぎず、法律上保護された利益ではないというべきである。」と述べていた。
その後、 一九九0年代後半になると、刑事司法手続における犯罪被害者の法的位置づけが実務レベルで見直される
ようになり、さらに二0 0 0年代に入ると被害者の保護や積極的関与の方向で新立法・法改正が相次ぐようになった。
代表的なもののみを挙げても、二0 0 0年のいわゆる「犯罪被害者保護ご怯」、二0 0四年の「犯罪被害者等基本法」、
二O O五年の「犯罪被害者等基本計画」閣議決定、二O O八年の「被害者参加制度」および「損害賠償命令制度」の導
( 3 )
入、二O一O年の公訴時効一部撤廃・延長などがある。しかし、最高裁は、犯罪捜査との関係での犯罪被害者の法的
( 4 )
位置づけについて、従前の枠組みを変更していない。
本論文は、このような立法・判例・実務の動向を念頭におきつつも、いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論に焦点
を合わせる。本論文の目的は、犯罪被害者の法的権利として従来の法制度においても認められていた告訴権について、
その濫用という限界問題を考察することで、犯罪被害者の権利の正当化の根拠とその本質的限界を探ることである。
以下では、 一で、いわゆる「告訴権の濫用」の概念を確認したのち、一一で、その法的対応の全体像を僻搬する。
いわゆる「告訴権の濫用」とは何か
一一いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説一一
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一般に「告訴権の濫用」と呼ばれるものには、大きく分けて二つのものがある。ひとつは「告訴権の濫用的行使」で
あり、もうひとつは「告訴権の濫用的不行使」である。これら二つは、実務においてそれぞれ問題が生じることは少
なからずあったが、統一的に学理的に整理されておらず、専門用語として定着しているものでもない。そこで、まず
これら二つの概念から確認することとする。
告訴権の濫用的行使
告訴権の漉用的行使とは、告訴をすることができないのに告訴をする場合、または、告訴をすることができるがそ
の行使が不適切な場合をいう。このうち、後者を「狭義の濫用的行使」と呼ぴ、前者を含めたものを「広義の濫用的
行使」と呼ぶこととする。両者に共通するのは、形式的に見れば〈告訴する〉場面の法的問題ということである。
広義の濫用的行使のうち狭義の濫用的行使に含まれないものは、端的に言えば、違法ないし不適法な行使である。
ひとつの比較的明白な具体例としては、事件とは関係のない第三者が告訴をしようとした場合が挙げられる。この場
合、告発(刑訴法二三九条)としては適法となりうるが、行使の前提となる一定の条件が要求される告訴としては不
適法となる(刑訴法二三O条以下を参照)。しかし、このような具体例についても、急を要する実務においては、法に
適合するか否か、すなわち告訴権者に該当するか否かなどの判断に困難を伴うことが少なくない。
問題がより大きいのは、狭義の激用的行使である。形式的には法に合致する告訴権の行使であるように見えても、
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ぞれが実質的に法の趣旨に反するものである場合(この場合、解釈論として違法・不適法と評価することも可能であ
る)や、何らかの理由から告訴としての法的処現を回避すべき(回避したいと考えられている〉場合などがある。こ
れらは、告訴という制度を、犯罪被害者、被害者支援者、警察官、検察官、被疑者・被告人、弁護人、裁判官などのど
( 5〉
の立場から考えるかによって、様々な実質的解釈・評価が成り立ちうる。
2
告訴権の濫用的不行使
告訴権の粧用的不行使とは、告訴をする義務があるのに告訴をしない場合、または、告訴をするのが適切なのに告
訴をしない場合をいう。後者を「狭義の濫用的不行使」と呼び、前者を含めたものを「広義の濫用的不行使」と呼ぶ
こととする。両者に共通するのは、形式的に見れば〈告訴しない〉場面の法的問題ということである。さらに、告訴
取消制度(刑訴法二三七条一項)は、いったん行使された告訴を事後的に撤回するものであり、その法的効果に着目
すれば、告訴権の濫用的不行使のカテゴリーに含むことができる。
広義の濫用的不行使のうち狭義の濫用的不行使に含まれないものは、端的に言えば、違法ないし不適法な不行使で
( 6〉
ある。刑訴法においては、「告訴」義務は規定されていないため、これが正面から問題となることはない。
実務や学現において問題とされるのは、狭義の濫用的不行使である。形式的には告訴をしないことが法に合致する
ように見えても、それが実質的に法の趣旨に反するものである場合(この場合、解釈論として違法・不適法と評価す
ることも可能である)や、何らかの理由から告訴がなされる必要性が高い場合などがある。これらも、告訴という制
度をどの立場から考えるかによって、様々な実質的解釈・評価が成り立ちうる。これらは、とくに告訴が公訴提起の
必要条件になっている親告罪において、大きな問題が生じうる。
( 7〉
法的対応論序説
濫用的行使への法的対応
一一いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説一一
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告訴権の行使には、ぞれが濫用的なものであるかどうかは別として、捜査機関・訴追機関がその対応に慎重になら
ざるを得ない事情が存在している。具体的には、告訴事件の場合、警察から検察官に書類・証拠物を迅速に全件送付
する義務(刑訴法=四二条)、検察官から告訴人に起訴・不起訴処分等を迅速に通知する義務〈刑訴法二六O条)、告
訴人から請求があった場合に検察官から告訴人に不起訴処分の理由を迅速に告知する義務(刑訴法二六一条)があり、
その前提として捜査義務が発生すると考えられている。そして、捜査が開始されれば、被疑者への捜査というかたち
( 8 )
(ご刑事訴訟法における法的対応
で、被告訴者のプライバシーや財産権などをはじめとする権利・利益の制約が生じる可能性が高まる。告訴権の濫用
的行使の問題を検討するにあたっては、このような事情を、良いか悪いかは別として、考慮に入れる必要がある。

告訴権者
刑訴法一二一一 O条以下は、告訴をするととができる者(告訴権者)を規定する。告訴権者は被害者およびその関係者
等に限定され、それ以外の者は告訴をすることができない。刑訴法は、告訴を取り巻く具体的な前提事情を考慮して、
法定代理人による告訴(刑訴法一一三一条一号)、被害者が死亡した場合の一定親族による告訴〈同条一一号)、さらに、親
告罪について告訴権者がいない場合の告訴権者の指定(刑訴法一二ニ四条)などを規定している。
濫用的行使との関係では、他人を陥れるために告訴権者でない者が告訴権者(例えば、被害者)の名をかたって告訴
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する場合などが想定できる。親告罪では起訴が有効か否かとい、ヱスきな法的取扱いの差異が生じるが、非親告罪では、
現行刑訴法上は、代理人による告訴(刑訴法二四O条)などの一部の例外を除いて、告訴か骨発かによってその法的
取扱いに差異がない。具体的には、書類・証拠物の検察官への迅速な送付(刑訴法二四二条)、起訴・不起訴処分等の
通知(刑訴法こ六O条)、不起訴処分の理由の告知(刑訴法ニ六一条)に関する諸規定においては、それぞれ告発が告
( 9〉
訴と併記されており、文言上は告訴と告発は同列に取り扱われている。したがって、非親告罪においては、告訴権者
の範囲の画定という段階では、告訴権の濫用的行使に対して別途の法的対応を設ける必要性は低いということになる。

告訴期間
(日)
刑訴法一一一一一五条は、性犯罪等を除く親告罪について、六ヵ月という告訴期間を規定する。その根拠・趣旨は、

に、刑事訴追を私人の意思にかからせる状態を長期間放置することによる弊害の回避と説明され、より具体的には、 φ
を有利にする)
(叩)
(ロ)
「犯人の地位の安定」と①「公訴権の適正行使」の二つの観点が含まれるとされている。①については、公訴時効制度
との整合的な説明ができない、告訴期間の始期である「犯人を知った」か否かどいうことが犯人の知らない事柄であ
〈日)
り犯人の人権とは関係がないとの批判がある。②については、申立期間のない親告罪や他の告発・請求制度との比較
から、そもそも親告罪における告訴に対して期間制限を設けることが必要不可欠あるいは論理必然というわけではな
く、申立ての主体が私人である点を考慮した政策的判断による法制度設計であることがわかる。
濫用的行使との関係では、六カ月を過ぎるど告訴権の撒用的行使のリスクが高まると考えられているようである。
具体的には、民事崩れ(民事訴訟での勝算がない場合に、刑事事件に移行させる、あるいはそれによって自己の地位
( M )
の告訴が増加するおそれがあるとの指摘がある。
しかし、仮にいわゆる民事崩れの場合であっても、告訴という事件への対応手段を犯罪被害者等に残しておくべき
である。また、そもそも告訴権の濫用的行使に法的対応をとるには、その前提として、告訴を取り巻く状況を含めた
実質的検討によって、濫用的な行使であるか否かを判断する必要がある。そのような実質的検討にまで立ち入らずに、
期間制限という抑止的で形式的な制限を設け、適法・正当な告訴にも一律に制限を及ぼすのは、公訴時効が完成する
まで告訴が可能である非親告罪と比べて法的な不均衡が生じることとなり、法制度設計としての妥当性を欠いている
一一いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説一一
175
と考えられる。結論として、親告罪制度の趣旨や、告訴(とくに親告罪における告訴)が被害者等の事件・紛争に対
する自己の意思決定の表明という重大な意義を有する点を考慮し、告訴期間制度は全廃されるべきである。

告訴が取り消された場合の再告訴禁止
刑訴法二三七条二一項は、「告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができないことして、告訴取消しの場合の
再告訴禁止を規定する。

告訴不可分の原則
(日〉
濫用的行使との関係では、制度趣旨として、国家刑罰権の適正・公平な行使、手続の法的安定性、被疑者を必要以
(民)
上に不安定な立場に置かないことなどがあげられている。告訴取消しの期間制限と再告訴禁止の適用範囲は、親告罪
(汀)
における告訴に限定されるというのが通説の理解であるが、告訴事件の捜査義務、起訴・不起訴処分等の告訴人等へ
の通知(刑訴法二六O条〉、不起訴理由の告知(刑訴法二六一条)、付審判請求制度(刑訴法一工ハ二条)、検察審査会制
度(検察審査会法)などを考慮に入れて、仮に濫用的行使への対応の必要性を強調するならば、再告訴の禁止は、非
親告罪における告訴にも適用すべきとの解釈も成り立ちうる。
刑訴法二三八条一一項は、「親告罪について共犯の一人又は数人に対してした告訴又はその取消は、他の共犯に対して
も、その効力を生ずる。」として、告訴の主観的不可分を規定する。また、明文の規定はないものの、解釈論上、告訴
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には、犯罪捜査規範六五条の規定に従い、資料を提出させたり、追加説明を求めたりして、告訴の趣旨を理解しても
理する捜査機闘が告訴と被害屈との異同を教示していないことなどが推測される。
濫用的行使との関係では、告訴の方式・形式(刑訴法二四一条を参照)を厳格に取り扱うことが考えられる。具体的
(鉛)
規範六一条一項を参照)の異同を一般市民が知らないこと、また、告訴事件における捜査義務などを背景にして、受
で等
はの
な受
く理
被を
害警
届察
等に
が義
な務
先づ
れけ
品売
~他
お方
圧で
倒的雲
足等
日宙開
.,.
~[!
あ表
音量
は33
必起
て重
自関
全犯
r 罪
で宣
2桑
が亙
丘ユ
~
訴苔
主届
破け
害出
届苓
犯望
罪一
捜告
査訴
内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。」と規定し、告訴
犯罪捜査規範六三条一項は、「司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があったときは、管轄区域

告訴の方式・形式、捜査機関による説得行為、不受理
ぃ、ぇヲ匂。
的解釈が示されている。この有力な見解による実質的な分析は、濫用的行使の問題性をより具体的にとらえていると
(時)
一個の犯罪についての処置を検察官の判断に留保する)、②とくに客観的不可分について、告訴という意思表示の合理
扱上の不当な差別が生ずることを防止する、客観的不可分は、公訴不可分の原則をあくまで貫徹し親告罪の場合でも守
176
る必要があるとの政策的考慮(主観的不可分は、告訴人の私的な感情によって一つの犯罪に関与した共犯者の間に取
れてきた。しかし、有力な見解によれば、①検察官の公訴権の行使に枠をはめないでできる限り自由な活動を保障す
告訴が不可分とされる根拠は、 一般に、告訴が被害を受けた「犯罪」についてその処罰を求めるところにあるとさ
実のすべてに効力が及ぶと考えられている。
の客観的不可分も認められており、 一個の犯罪事実の一部について告訴又はその取消しがあったときは、その犯罪事
らうよう努めつつ、告訴が濫用的に行使されないよう説得したり、濫用的に行使された告訴を不受理とすることが想
(幻)
定できる。たしかに、説得や不受理という対応は、刑事司法とくに捜査・訴追に関わる資源を適正に配分するために
は一つの手段として考えられ、究極的には他の事件の犯罪被害者の利益や社会全体の利益につながるともいえる。こ
のことは、とりわけ広義の濫用的行使のうち違法ないし不適法な行使に対して説得や不受理という対応をとる場合に
一一いわゆる告訴権の濫用とその法的対応覇者序説一一
177
あてはまる。
しかし、検察実務の取扱いによれば、既に時効が成立している、既に刑事処分がなされているなどの形式的不備が
( M M〉
存在する場合であっても、告訴の受理が可能とされていることから、捜査機関に告訴の受理義務を認めることも運用
上不可能ではない。また、告訴権に関する捜査・訴追の適正化の担保としての機能を発揮させるためにも、捜査機関
に告訴の受理義務を認め、告訴の事実を聞に葬ることなく公式な手続に乗せる必要がある。そして、そもそも濫用的
(引品〉
を踏まえて、しかるべき対応をとるべきである。

不起訴
(幻)
行使であるとは限らないことから、告訴をいったん受理した上で、告訴が濫用的行使であるか否かという実質的判断
刑訴法二四七条は国家訴追主義・検察官起訴独占主義を、刑訴法二四八条は起訴便宜主義を規定する。これらの規
(お)
定によって、告訴と起訴が法的拘束力という意味では分断される。
濫用的行使との関係では、告訴権の濫用的行使が行われた場合、検察官が当該事件について起訴せず、告訴の影響
(鉛)
を起訴・公判にまで及ぼさないという役割を果たす。実際に、告訴事件の不起訴率は通常事件よりもかなり寓い。不
起訴処分がなされる場合は、検察官不起訴の裁定において、親告罪における告訴の欠如・無効(事件事務規程(法務
省訓令)七二条二項五号〉、罪とならず(同二ハ号〉、嫌疑なし(同一七号)、嫌疑不十分(同一人号)、さらに起訴猶予
(同二 O号)などの形式をとることが想定できる。
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しかし、検察官による不起訴処分という判断が常に妥当であるとは限らない。そのため、周知のように、起訴・不
起訴処分等の告訴人等への通知(刑訴法二六O条)、不起訴理由の告知(刑訴法二六一条)、付審判請求制度(刑訴法
一一六二条)、検察審査会制度(検察審査会法)などのように、検察官による起訴・不起訴の裁最を適正化するための諸
制度が議論・整備されているのである。

訴訟襲用の負担
刑訴法一八三条一項は、「告訴: : :により公訴の提起があった事件について被告人が無罪又は免訴の裁判を受けた場
合において、告訴人:・:に故意又は重大な過失があったときは、その者に訴訟費用を負担させることができる。」と規
定する。また、同条二項は、被疑者が不起訴となった場合でも、被疑者国選弁護制度の費用負担がありうるとする。
(幻)
(お)
はなく、「重大な過失」が要求されている。
(ニ)刑事訴訟法以外における法的対応

虚偽告訴罪
懲役に処する。」と規定する。
濫用的行使との関係では、この訴訟費用の負担という制度は、告訴の濫用的行使に対する事前抑止と事後対応の両
面の意味をもっ。ただし、必要以上の委縮効果を招くことは望ましくなく、費用負担の要件としては、単なる過失で
刑法一七ご条は、「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴: : :をした者は、三月以上十年以下の
濫用的行使との関係では、この虚偽告訴罪によって、濫用的行使に対して事前抑止と事後対応がなされる。しかし、
狭義の濫用的行使に対しては、それが形式的には法に合致する告訴を問題としているため、虚偽告訴罪による事前抑
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一一いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説一一

名誉致損罪
刑法二三O条は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毅損した者は、その事実の有無にかかわらず」名誉致損罪とし
て処罰されるとする。ただし、その「行為が公共の利害に関する事実に係り、かっ、その目的が専ら公援を図ること
にあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」(刑法
二三 O条のこ第一項)とされるとともに、「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利
害に関する事実とみなす。」(同条二項)とされる。
濫用的行使との関係では、この名誉致損罪によって、事前抑止と事後対応がなされる。具体的には、まず、告訴に
おける事実の摘示の「公然」性の要件が問題となる。しかし、告訴権行使を取り巻く濫用的状況(例えば、告訴事実
をマスメディアを用いて公表するなど)がこの要件に該当することはありうるが、捜査関係者の守秘義務(国家公務
述の告訴の不受理に際して虚偽告訴罪の存在を理由とすることはできなくなる。
(回)
態におかれた時点とし、現実に受理して捜査に着手することは必要としていない。この既遂時期の解釈によれば、前
(別〉
期が問題となる。この点について、判例・通説は、虚偽の申告が相当捜査官署に到達し、捜査官などの閲覧しうる状
(私生活の安全)も含むとする。
また、同罪による法的対応の限界を考えるにあたっては、未遂犯の処罰規定が存在していない虚偽告訴罪の既遂時
由を知ることができるからである。この点について、判例・通説は、間家的法益(司法作用)に加えて、個人的法話
(叩)
瀧法とされ処罰の対象とされる根拠にもなっているため、法システムが告訴権の糠用的行使を敵視する最も大きな現

同は
君主
よ法
るな
法も
的の
対に
応近
に接
関す
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ても
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まど
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そ定
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保ち
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益とをも
検円
手事
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必対
要応
占宮

み汚
切与
保警
護?
法る
盗童
はヰ


一定の告訴権の行使が








員法一 O O条一項、地方公務員法三四条一一項)および名誉侵害防止義務(刑訴法一九六条)を考慮すれば、告訴その
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(お)
ものについては、原則として名誉致損罪は成立しないと考えられる。また、目的の公益性について、判例は要件を緩
(斜)
和していると考えられるとともに、真実性の証明についても、真実性の誤信に関する議論を通して実質的にその要件
(お)
を緩和しており、名誉段損罪が濫用的行使への法的対応として実質的に効果を発揮するのは、濫用の程度が著しいも
のに限定されると考えられる。

不法行為による損害賠償責任
民法七O九条以下は、不法行為による損害賠償責任を規定する。
濫用的行使との関係では、これらの規定により、 一定の濫用的行使に対して事前抑止と事後対応がなされる。しか
し、民法七O九条は損害賠償責任の発生事由として濫用的行使を文言上明確に規定しているわけではなく、濫用的行
使があったとしても同条の要件を満たすか否かによって、事後対応がなされない場合も生じる。その反面、狭義の濫
(鉛)
用的行使にも柔軟に対応できる含みをもつのが、この損害賠償責任の特徴である。
2
濫用的不行使への法的対応
告訴権の濫用的不行使については、とりわけ告訴が訴訟条件となっている親告罪において問題が大きい'とされる。
なぜなら、告訴が行われない場合、公益の見地から刑事訴追が必要だと考えられる犯罪・事件についても、公訴提起
が法的に封じられるからである。
(ご刑事訴訟法における法的対応

法定代理人である告訴権者が被疑者または被疑者の近親者である場合
刑訴法二三一一条は、「被害者の法定代理人が被疑者であるとき、被疑者の配偶者であるとき、又は被疑者の四親等内
の血族若しくは三親等内の姻族であるときは、被害者の親族は、独立して告訴をすることができるよと規定する。
濫用的不行使との関係では、親権者などの法定代理人が被疑者または被疑者の近親者である場合に、被害者本人が
告訴をすることが事実上困難であることを前提として、法定代理人が被疑者または被疑者の近親者であるために、法
定代理人による告訴(刑訴法一一一三条一項)も期待できないという場面が想定できる。そのような濫用的不行使の場
一一いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説一一
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(釘)
面に、この規定は、他の親族による告訴を期待している。

告訴期間
告訴期間制度は、告訴権の濫用的行使の場面のみならず、濫用的不行使の場面においても、法的対応手段となりう
る。例えば、仮に告訴をしないことを示談交渉の材料として利用する場面を想定すると、そのような状況は六ヶ月と
いう告訴期間で終了するのである(その他の詳細は、前述二1 (一) ②を参照)。

告訴取消しの期間制限と再告訴禁止
刑訴法二三七条一項は、「告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。」として、告訴取消しの期
間制限を規定する。また、同条ニ項は、「告訴の取消をした者は、吏に告訴をすることができないιとして、告訴取
消しの場合の再告訴禁止を規定する。
濫用的不行使との関係では、告訴取消しの期間制限は、制度趣旨として、国家刑罰権の適正・公平な行使、手続の
法的安定性、被疑者を必要以上に不安定な立場に置かないこと(告訴取消しが損害賠償交渉の手段とされる弊窓口)な
(お)
どがあげられている。また、再告訴禁止は、濫用的な告訴取消しの事前抑止となりうる。なお、告訴取消しの期間制
(鈎)
限と再告訴禁止の適用範囲は、親告罪における告訴に限定されるというのが通説の理解である。

告訴不可分の原則
告訴不可分(主観的不可分、客観的不可分)の原則は、告訴のみならず、告訴の取消しにも及ぶ(刑訴法二三人条
182
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一項を参照〉。また、告訴を可分として、共犯者の一部や犯罪の一部のみを告訴することは、逆から見れば、他の共犯
者や残された犯罪の一部分を告訴していないこ七となり、撤用であるかどうかは別として、告訴権の不行使の問題と
なりうる(その他の詳細は、前述二l (一) ④を参照)。

親告罪において告訴が欠ける場合の捜査
親告罪における告訴は、文言上は、公訴を提起するための条件であり(刑法一八O条一項等)、捜査の条件とはなっ
ていない。
この点について、現在の多数説は、親告罪において告訴が欠ける場合、当該親告罪の趣旨を考慮して、
(伺)
に制約が生じるとする。私見では、親告罪において犯罪被害者等が告訴をしない意思を明確にした場合には、親告罪
( 4 )
を参照)によるべきである。

一罪の一部起訴
一定の捜査
の個別の趣旨を没却してしまうようなものは、強制捜査であれ、任意捜査であれ許されない「捜査制止機」と考えて
いる。この場合に生じる不都合は、捜査機関・訴追機関による適切な教示や濫用的原因・状況への宜接対応(後述⑦
現行刑訴法が当事者主義を原則とし、審判対象の設定権も検察官に委ねている(刑訴法二四人条・二五六条三項・
一一二一一条一項・三七八条三号を参照〉ことを前提にして、検察官が捜査によって知りえた犯罪事実の一部のみを起訴
(必)
するという一罪の一部組訴という方式がとられることがある。
濫用的不行使との関係では、親告罪において告訴がない場合に、親告罪の一部を起訴することが想定できる。具体
的には、強姦罪の手段である暴行行為のみを独立して起訴するような場合である。この具体例のような場合には、親
(必)
告罪の趣旨を没却するものとして、
一罪の一部起訴は許されない。

捜査機関・訴追機関による説得行為、濫用原因・状況への直接対応
親告罪とされている犯罪において、具体的な犯罪・事件が公益の見地から刑事訴追の必要があると考えられる場合
であっても、告訴権者によって告訴がなされないことがある。この背景として、親告罪における告訴を示談交渉の材
一一いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説一一
183
科などとして利用しているととが考えられる。とのような場面において、捜査機関・訴追機関が、告訴権者に対して、
告訴をするよう説得すること、また、 一度なされた告訴を取り消さないよう説得することが考えられる。
しかし、このような説得行為は、告訴権者である被害者等にニ次被害を生じさせるおそれがあり、極力避けるべき
である。他方で、法テラスと連携する(総合法律支援法七条を参照)などして、濫用的不行使の状況を生じさせてい
( M H )
る原因に直接対処するなどの方策をとるべきである。
(二)刑事訴訟法以外における法的対応
① 手続法・実体法レベルでの非親告罪化
常用的不行使の問題がより大きく生じるおそれのある親告罪制度そのものに修正を加えるのが、非親告罪化とい、っ
対応である。これには、手続法レベルの非親告罪化と実体法レベルでの非親告罪化がある。
まず、手続法レベルの非親告罪化とは、犯罪類型・構成要件を維持しつつ、その犯罪類型・構成要件を非親告罪化
する場合である。例えば、名誉段損罪等を親告罪と定めている現行刑法一一一一一一一条を削除するなどである。
これに対して、実体法レベルの非親告罪化とは、親告罪となっている犯罪類型・構成要件を細分化あるいは独立化
し、その一部を非親告罪にすることが挙げられる。例えば、親告罪である強姦罪の一部を非親告罪の集団強姦罪とし
て独立させるなどである(ただし、実際の刑法典のものは先に手続法レベルで対応した)。この実体法レベルの非親告
(必)
罪化は、手続法レベルの非親告罪化と連携したものといえる。
184
明治大学法学部創立百三十周年記念論文集

条件付親告罪
ドイツ刑法で採用されているいわゆる「条件付親告罪」とは、「第O条のO O罪は、刑事訴追官庁が刑事訴追に対す
る特別な公益があるために職権による介入が必要だと認める場合を除いて、告訴がなければ訴追されない」とするも
のである。
濫用的不行使との関係では、条件付親告罪においては、検察官は、刑事訴追に対する特別な公訴を肯定することで、
職権による訴追が可能になる。ただし、親告罪制度の本質との整合性、刑事訴追に対する特別な公益の意味、その判
(必)
断の妥当性などが問題として指摘されている。

権利行使と脅迫罪・強要罪・恐喝罪
濫用的不行使は、場合によっては犯罪となることがある。具体的には、告訴をしないこと、または、すでにした告
訴を取り消すことを条件にして、示談金額の上乗せを図ったり、義務のないことを行わせたり、権利行使を妨害した
(灯)
りした場合に、刑法解釈学において、権利行使と脅迫罪・強要罪・恐喝罪などとして論じられている。
とれらは、とりわけ告訴が訴訟条件左なる親告罪において問題が大きいとされる。しかし、告訴事件の捜査機関・
訴追機関の法的処理義務を考慮すると、非親告罪においても程度の差はあれ同様の問題が生じうる。例えば、認知前
の犯罪の場合、告訴をすることで犯罪が発覚することがある。

不法行為による損害賠償責任
不法行為による損害賠償責任は、告訴権の濫用的行使の場面のみならず、濫用的不行使の場面においても、法的対
応手段となりうる。例えば、告訴権の植用的不行使が、刑法上の脅迫罪・強要罪・恐喝罪を構成する場合には、民法
上も不法行為が成立し、損害賠償責任が発生する場合が多いであろう。
むすびにかえて
一一いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説一一
185
本論文は、いわゆる「告訴権の韓用」に関する序説として、その問題状況の整理とその法的対応論の全体像を備隊す
るにとどまった。今後、実務上の取扱いについてさらに調査を進めるとともに、個別の法的対応論について法制史・
比較法などの視点からの再検討を行った上で、改めて体系的な整理を行う予定である。

本論文は、科学研究費補助金・若手研究 ( B ) ( 課題番号M S g g「告訴権・親告罪制度からみた犯罪被害者と刑
事司法過程との関係のあり方」)の助成による研究の成果の一部である。
〔二
O一一年六月二七日脱稿〕

( 1 ) 本論文は、二O一O年一 O月七日に開催された二O一0年度第三回法学研究会(明治大学法律研究所)での口頭報告「いわゆ
る告訴機の濫用とその践的対応論」の報告要旨(法律論叢第八三巻第六号〈明治大学法律研究所、ニO二年)二六七頁以下)
に、設を付して参考文献等を示すとともに、著者の従前の研究成果および報告後の研究成果も踏まえて加筆したものである。
( 2 ) 裁判集民事一五九号二ハ一頁。
( 3 ) 最近の法改正に関する紹介・論考は極めて多いが、とくに、阿部千寿子「被害者参加制度に関する一考窓T被害者参加の根
186
明治大学法学部創立百三十周年記念論文集
拠・被害者参加の目的・被害者の法的地位」同志社法学六二巻四号(二O一O年)九六三頁以下、滝沢誠「刑事訴訟における犯
罪被害者等の権利利益について(一 ) j (三・完こ法学新報一一五巻三・四号(二O O八年)五一頁以下、同巻五・六号(二O
O八年)二九頁以下、同巻七・八号(二O O九年)一四七頁以下、吉村真性「刑事手続における被害者参加論(一 ) j (三・
完ご龍谷法学三九巻二号(二O O六年)一八五頁以下、同巻三号(二O O六年)三三五頁以下、同巻四号(二0 0七年)六四
五頁以下等を参照。
( 4 ) 最判平一七・四・ニ一数時一三八六円万五頁(拙稿「犯罪被害者と刑事司法過程との関係のあり方|告訴・判明告罪制度を参考に
して|」被害者学研究一九四方(二O O九年)五O頁以下、拙稿「被答者関係法令の全体像」被害者法令ハンドブック編纂委員会
編著門被害者法令ハンドブック』(中央法規出版、三O O九年)二人頁も参照)。
( 5 ) 例えば、検察の立場から、「真撃な申告であるものも多い反商、民商事の取引や紛争を有利に解決するためや怨恨を晴らすた
めに、本来犯罪とは認められないような事実につき虚偽・誇張にわたって申告するものがしばしばみられ、ときには妄想に基
づく虚偽申告もある」との指摘がある(久木元伸「授査の端緒|検察の立場から」三井誠ほか編『新刑事手続I』(悠々社、二
O O二年)一一一一一一頁以下)。また、「一部の特定人に、従来検察官の不起訴処分により一度で結了したような事案につき、再三、
再四にわたり、執叫刊に告訴・告発を反復する傾向が見られる。この種の〔告訴・〕告発人の中には、相手方を中傷したり、自己
の利益を図るため、可能な限り公権力を利用するなどきわめて不純な動機で告訴・告発に及ぶものや、粗雑な解説書等を一読、
一一
のs a匂¥ S 1。s a s h『S込町(回目間・)唱切。宗門酢問。国民円四
盲信して、告訴・告発に凶執するものが多数見受けられる」との指摘がある(増井清彦「新版告訴・告発し(立花書房、再訂版、
O O一一一年)一一一人頁以下を参照) o また、ドイツにおいても、「告訴権の濫用(呂町田V S回舎内田g p S F巳包問団円。口町宮)」に関す
る議論の中で、民事訴訟を有利に准めるための告訴、憎しみ・妬み・報復感情の充足のための告訴などの問題が指摘されてい
る(〈住- h g g s w z r s見当2 3 5 ι 田県民Dロ仏 g g S F巳包間P H U E- ω ・5ω 同ム旬。ロ s a Fミロピ R N E M〉ロ P E【凶器
g s守S問。由 B P U得。。江口町呂田国 g z o p邑官補∞・臼再・山可。
5 9 4 h g h F =富山田町 g n V R 母m g g P 5 3間m Y H R hま乱立与
o g B gロ∞可えH o n g国主自 S R E P F田仲間口『同時二位門出。-- g E F ζ a R
E s h- E印同一司氏、3 a h w司コ岳民
¥ 5-- s田町。同町 H O E S仏問。 S S E- s z z n y即日浮円民自可呂田円。 n F M C Oタ∞- H N島)。
( 6 ) なお、刑訴法上は、公務員が「その批判務を行うことにより犯罪があると思料するとき」の「告発」義務(刑訴法一一一一一九条二
項)がある。また、民法上は、相続人の欠格事由として、「被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴し
なかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限
一一いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説一一
187
りでない。」との規定がある(民法人九一条二号)。
( 7 ) 本論文のもとになった口頭報告・前掲注 ( 1 ) では、実体法的対応と手続法的対応に分類したが、法的対応に関してその法的
性質に検討の余地のあるものが含まれているため、本論文では、実定法規にあわせて、刑訴法における法的対応と刑訴法以外
における法的対応に分類する。
( 8 ) 法的には告訴と被告訴者(被疑者)の権利・利益の制約は必ずしも直結しているわけではなく、また、実務の運用においては
直結させるべきではない。すなわち、捜査・訴追機関は、告訴への真撃な対応が求められる一方で、被疑者等への権利・利益の
制約を極小化することが求められる(刑訴法一九六条を参照)。
( 9 ) しかし、歴史を振り返ってみると、事件処理の通知(刑訴法二六O条)の対象は、大正刑訴法においては、告訴人に限定され
ていた(大正刑訴法二九四条)。さらに、治罪法や明治刑訴法においても、告訴と告発とは法的取扱いが大きく異なっており、
原則として告訴により手厚い法制度設計がなされていた(拙稿「告訴権の歴史的発展と現代的意義」法学研究論集一人号(二
O O三年)一一貝以下、拙稿「明治初期の告訴制度の形成過穏|刑事手続法における関連諸規定の概観|」宮大経済論集五三巻
二号(二O O七年)一人三頁以下を参照)。他方で、現行刑訴法への制度改正において事件処理の通知の対象を告発等に拡大し
たことは、捜査・訴追権限へのコントロールかつ刑事手続への民主的コントロールとして位置づけられるとの分析がある(新
屋達之「不起訴処分の通知制度について」法学六二巻六号ご九九九年)九三六頁以下) 0
(叩)告訴権者に関して、学理上は、告訴権者とされる「犯罪によb,害を被った者」が、実体的な地位か、手続的・訴訟的な地位か
という議論があるが、一般に、手続的な地位とされている(加藤克佳H樵橋隆幸H川崎英明「論争・刑事訴訟法(第一一一回) |
対談・犯罪被害者の刑事手続上の地位」法学セミナー五七三号(二O O一一年)人人頁以下、拙稿・前掲注 ( 9 ) 現代的意義人頁
以下を参照。さらに、川出敏裕「犯罪被害者の刑事手続への参加」ジュリスト一一ニO二号(二O O五年)四一頁、川崎英明「犯
罪被害者と刑事手続1検討の視点と課題」犯罪と刑罰一九号(二O O九年)一五頁以下も参照。)。なお、訴訟段階における「被
害者」の概念について、水野陽一「刑事訴訟における被害者概念についてlドイツにおける被害者概念に関する議論を素材と
して|」広島法学一二四巻四号(こO二年)一七六頁以下合参照。
(日)性犯罪等については、犯罪被害者の精神的状況を考慮し、二0 0 0年の刑訴法改正で告訴期聞が撤廃された〈拙稿「告訴期
間制度の批判的検討」法学研究論集一七号(二O O二年)二貝以下および同論文に引用した文献を参照)。
( U ) 佐藤道夫〔伊藤栄樹ほか〕『新版注釈刑事訴訟法(第三巻〉」(立花書房、一九九六年)二八六頁、高崎秀雄〔藤永幸治ほか
188
明治大学法学都創立百三十周年記念論文集
編〕『大コンメンタlル刑事訴訟法・第三巻』(青林書院、一九九六年)六人一一貝、寺崎嘉博「刑訴法二三五条一項にいう「犯
人を知った」の意義」「平成一 0年度重要判例解説』(有斐閣、一九九九年)一八五頁等を参照。なお、ドイツでは、親告罪の
告訴には原則として三ヶ月の期間制限がある(ドイツ刑法七七条b ) が、この趣旨については、法的安定性を考慮するもの
(切 Z F 3 3 P P 0・(〉ロ g・3 L山・巳凶)、法的安定性と法的平和を考慮するもの ( h h aコ白 z h a Eュ
Eミ3 3 N日開。 n F E g E
S門回目ロ冨吉田円 p g p g p丘町品目 L D E ' m・目印〉、法的安定性と公の秩序を考慮するもの(勺a g注目 3 X G E営団 F S ¥昌吉E S
匂E口F F広島町 ¥ m E同日仏句史S R 2 2 N g s問。 B B E S F M∞・〉口出- u M C H O岨聞寸言問何回レ)などからもわかるとおり、「法的安
定性宿泊n v z a各一向宮山けとが広く認められている趣旨といえるが、その具体的な内容は必ずしも明らかではない。
(日)高崎・前掲注(悶)六八二頁以下、寺崎・前掲注(ロ)一人五貨を参照。
(凶)椎橋隆幸「性犯罪の告訴期間の撤廃」研修六二六号(二0 0 0年)八頁を参照。
(日)拙稿・前掲注(日)一頁以下も参照。
(時)今崎幸彦〔藤永幸治ほか編〕『大コンメンタlル刑事訴訟法・第三巻』(青林書院、一九九六年)六九二頁以下、とくに六九九
頁以下、佐藤・前掲注(ロ)二九O頁等を参照。なお、大正刑訴法における立法理由について、法曹会編『刑事訴訟法案理由
主之(法曹会、一九二二年)一六八頁を参照。また、拙稿「親告罪における告訴取消しの可能性と検察官・警察官の対応」刑事
法ジャーナル二二号(二O一O年)九二頁以下。
(げ)今崎・前掲注(羽}占ハ九三頁を参照。
(凶)そして、結論として、主観的不可分の規定-そ創設するか否かは刑事政策的な選択によるものであり、客観的不可分の根拠は
薄くむしろ親告罪を認めた趣旨の延長線上の問題であるとする(高田卓爾「告訴の不可分」平場安治ほか編寸団藤重光博士古
稀祝賀論文集(第四巻)」〈有斐閣、一九八五年)一五四頁以下、とくに一七O頁以下〉 0 私は、立法論および解釈論として、原
則として告訴を可分にすべきと考えている(揃稿・前掲岱 ( 9 ) 現代的意義九頁以下)。
(国)警察における認知の端緒に関する統計を見る限りでも、平成一二年の交通関係業過事件を除く刑法犯について、認知件数の
総数一七O万三O四四件のうち、告訴が六七人O件であるのに対して、被害者・被害関係者の届出(一一 O番通報を含む)が一
五二万六二二二件である(警察庁編『平成幻年の犯罪(犯罪統計書)』(警察庁、二O一O年)一七四頁を参照)。
(却)刑訴法二四一条一一項は、告訴の方式について「書面又は口頭」によることと定めるとともに、受理権者について「検察官又は
司法警察員」と定める。告訴の方式については、刑事訴訟規則五人条以下の裁判所へ提出すべき書類の作成方法が適用・準用
一一いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説
189
ないし類推適用されるか否か、電報、ファクシミリ、電子メ1ル、電話などによる告訴も認められるか否か等も問題となりう
る(電話について、東京高判昭三五・二・一一高刑集一一一一巻一号四七頁を参照)。
(幻)例えば、検察実務{永からは、「告訴・告発の受理にあたって、告訴・告発人から犯罪事実の概要、告訴・告発の真意を聴取し、
刑事事件として取り上げることのできないものについては、直ちにその旨を告知し、犯罪の端緒になり得るものについても、
場合により適切な捜査機関への告訴・告発を勧奨し、その他その救済に適した機関、施設を教示、説得することにより、事実
上、不相当な告訴・告発を思い止まらせる」との運用についての意見が表明されるとともに、東京地方検察庁では特捜部に直
告受理係を設置して老練な検察官を配置している事炎が指摘される(増井・前掲注 ( 5 ) 二一一一 O頁以下を参照)。その他、狭義
の濫用的行使に関して、判例研究会「捜査機関の告訴・告発の不受理について松山地裁大洲支部平成一四年一二月二O日判決
」捜査研究六一 O号(二O O二年)六七頁以下、樋口晴彦「捜査機関の告訴・告発の不受刑刊についてl松山地裁大洲支部平成
一四年三月二O日判決」警察学論集五五巻二一号(二O O二年)一一一一一一頁以下を参照。さらに、小尾仁「刑事判例研究(三六
四)申告している犯罪事実が不明確な告訴・告発について、検察官には受理義務がないとされた事例(大分地裁平成一四・三・
二七判決こ警察学論集五六巻一号(二O O三年)一五二頁以下も参照。また、広義の濫用的行使のうち違法ないし不適法な濫
用的行使に関して、今崎・前掲注(国)七六六頁、小川賢一『告訴・告発事案の捜査要領』(東京法令出版、二O O二年)一一一二
八頁、判例研究会・前出六七頁を参照。また、判例として、大阪高決昭五九・二了一四判タ五五三号二四六頁を参照。
これに対して、告訴の不受理の問題性を指摘するものとして、日本弁護士迎合会犯罪被害者支援委員会『告訴アンケートに
関する報告』〈一一 O O六年四月五日公開)〈Z G一¥¥ヨ 2- E n v F O回同一 S・a- v h o ¥ g自E 3 2 ¥民団之E r g o F口県 D E-宮目。を参
照。同報告沓によれば、調査範聞内(回答総数弁護士一一一一一一人)では、多くの弁護士が警察の告訴不受理問題について問題を感
じており、二O O O年の法改正以降でも調査時までに、告訴が拒否されることが凶五パーセント以上であり、最終的仁受理さ
れないことも三Oパーセント以上である。また、告訴状の受理ではなく、「コピーのみ預かり」という運用もなされている(日
弁連・前出五頁以下を参照)。この「コピーのみ預かり」という運用は、警視庁を例にすると、警視庁二O O三年通達では、「第
3告訴等の取扱いに関する基本的留意事項」の「4資料提出等の要求」の「( 4 ) その他捜査上参考となる資料」において、
「相談に際して提出資料を預かる場合には、事後の誤解や紛議を防止するため、告訴等の受理ではない旨を明確に説明して了解
を得るとともに、告訴状等の原本は預からないことo」との注意書きがあり(警視庁「平成一五年四月一日付・通達甲(副監固
刑.二・資)第一五号」五頁を参照)、これに依拠している可能性もあるという(日弁連・前出一六頁)。さらに、元検察実務家
190
明治大学法学部創立百三十周年記念論文集
も、告訴・告発状について、検討を要する場合には、「仮に預り保管する」のではなく、「写しを提出」させることを示唆してい
る(増井・前掲注 ( 5 ) 二三三頁) 0
(辺)増井・前掲注 ( 5 ) 二三三頁。
(お)江橋崇は、告訴制度は、「ただたんに捜査の端緒として理解されるべきではなく、捜査の端緒をなすという面で捜査当局への
国民の協力を制度化したものであると同時に、他面で、捜査当局の行動を監視し、その適切な運営を確保しようとする制度でも
あると理解されなければなるまい」としたうえで、「血口訴・告発の受理は、一連の権利義務関係の起点を確定するものとしてき
わめて重要である。道に、告訴・告発の不当な受理拒杏は、一連の権利義務関係の発生を妨げ、告訴・告発の法的効果を意味す
る」とする。そして、「野祭官による権力犯罪〔本件では、特別公務民職権准用罪〕の告訴を受理しないことは、国民が権力犯罪
を追求する法的な可能性をその初めの段階において断ち切り、権力犯罪を聞にほうむる便法であった。この怠味でそれは、権力
犯罪を隠蔽する脱法行為である。」とする(江橋崇「告訴の不受理は許されるか」法学セミナー一七七号(一九七O年)一八頁)。
(鈍)拙稿・前掲注 ( 9 ) 現代的意義一一一一貝以下参照。さらに、歴史的に見ると、新律綱領・改定律例では、「越訴」の例外として、
本来受理すべき官司が受理しなかった場合にその上司へ陳告(告発・告訴)することが許されていた。また、「承告不理」条で、
二疋の重罪について、告発(告訴を含む)の受理義務を定めていた。これらの規定から告訴等を尊重する態度がうかがわれる
(拙稿「明治初期の告訴権・親告罪刑事実体法における関連諸規定の概観l」富大経済論集五二巻二号(二O O六年)三O入
賞以下を参照)。
(お)歴史的に見ても、治罪法三条においてすでに告訴と起訴の原則的分断が定められていた。
(加)年によって増減は見られるものの、全国の検察庁で処理される事件のうち交通関係業過・道交法違反を除く全事件の起訴率
は六割程度であるのに対して、告訴・告発事件の起訴率は三割程度、告訴の直受事件に限定すれば起訴率は数パーセントに過
ぎない(各年の法務省大臣官房司法法制部司法法制課編『検察統計年報』(法務省)の統計表第お表「既済事由別既済となっ
た被疑事件の捜査の端緒別人員」を参照。また、拙稿・前掲注( 9 )現代的意義一一頁以下も参照。)。
(訂)刑訴法一八三条の趣旨について、「謹告ないし濫告訴等を防止」するための「制裁」という視点を指摘するものとして、増井
清彦〔伊藤栄樹ほか〕『新版注釈刑事訴訟法〔第二巻〕』(立花書房、一九九七年)四七七頁。「間接的に虚偽告訴等又はそれに近
い濫告訴等を防止」することを指摘するものとして、福崎伸一郎〔河上和雄ほか編〕「大コンメンタlル刑事訴訟法・第三巻』
(青林書院、第二版、二O一O年)四六四頁。なお、ドイツ刑訴法四六九条以下は、訴訟費用の負担を規定するが、そこでは検
一一いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説一一
191
察官・被告人の必要的支出金も対象となっている。この点についての比較法的検討は、別の機会に行う予定である。
(羽)福崎・前掲注(釘〉四六四頁を参照。
(却)また、法的対応の限界を画定する意味においては、同罪における「虚偽」の意義と故意・目的の内容などの構成要件が問題と
なるが、本論文では割愛する。
(叩)判例として、大判明四五・七・一刑録一人輯九七一一員、大判大元・=でこO刑録一人輯一五六六頁等、学説として、大塚仁
『刑法概説(各論〉同(有斐関、第一一一版、一九九六年)六一一一一頁、徳江義典H川見裕之〔大塚仁ほか繍〕町大コンメンタール刑法・
第八巻』(青林書院、第二版、一一O O一年)三一一一一貝以下および三二六頁以下等を参照。さらに、橋本正博「虚偽告訴等の罪の
保護法益と危険概念」刑事法ジャーナル五巻一 O号(二O O一一一年)一七頁以下も参照。
(凱)大判大五・一一-一一一O刑録一一二輯一八三七頁は、郵便の場合には到着すればよく、現実に閲覧されたり、捜査などに着手され
たりすることを不要としている。学説として、大塚・前持法(叩)六一五頁等を参照。
(担)拙稿・前掲注 ( 9〉現代的意義一六頁注(河)。
(問)取り調べを受けている者の検事及ぴ検察事務官への発言について公然伎を否定したものとして、最決昭三四・二・一九刑集
一三巻二号一人六賞。
(担)最判昭五六・四・二ハ刑集三五巻三号八四頁(いわゆる月刊ペン事件判決)を参照。告訴の公議的側面と私益的側面につい
て、拙稿・前掲注 ( 4 ) 関係のあり方五O頁以下を参照。
(部)最大判昭四四・六・二五刑集ニ三巻七号九七五頁を参照。
(部)歴史的に見ると、濫用的行使とそれに対する民事損害賠償責任は、強く結び付けて考えられていたことがうかがわれる。す
なわち、治罪法一六条は、被告人が免訴・無罪の言渡しを受けた場合等に告訴人に悪意重過失が認められるときの賠償義務を
定めていた。そこでは、刑事手続法の一部に民事実体法が融け込まされ、事態の一体的解決が図られていたのである〈拙稿・
前掲注 ( 9 ) 明治初期の告訴制度司二四頁以下参照)。
(訂)高崎・前掲注(悶)六七O頁を参照。
(路)今崎・前掲注(加)六九二頁以下とくに六九九頁以下、佐藤・前掲注(四二五O頁等を参照。なお、大正刑訴法における立
法理闘について、法曹会編・前掲注(団)一六人頁を参照。また、拙稿・前掲注 ( M ) 九二頁以下。
(却)今崎・前掲注(団〉六九三買を参照。
明治大学法学部創立百三十周年記念論文集
(品)拙稿・前掲注(団)九O頁以下。
(必)また、そもそも親告罪制度そのものが、訴訟条件という手続法・訴訟法的性質のみではなく、実体法的性質からも分析され
るべきものである(拙稿「告訴権・親告罪の法的性質に関する一試論|親告罪における告訴は訴訟条件にすぎないのか|」官聞
大経済論集五一巻一号(二O O五年)一七頁以下参照)。
(必)条件付親告罪とその問題点の詳細については、拙稿「ドイツにおける条件付親告罪の構造と問題点」法律論叢七七巻四・五
合併号(菊田教授古稀) (二O O五年)五九頁以下参照。
( U ) 京藤哲久「権利行使と恐喝」西国典之ほか編『刑法の争点同(有斐閣、こ0 0七年)一九六賞以下等を参照。なお、これとは
逆に、親告罪において告訴をしないよう暴行・脅迫した場合も、強要罪が成立しうる(大判昭七・七・二O刑集一一巻一一 O四
頁を参照)。
192
(胡)高田卓爾『刑事訴訟法』(青林書院新社、ニ訂版、一九八四年)一一一一六百円、田宮裕〔田宮裕編著〕『刑事訴訟法I』(有斐閣、
一九七五年)二四頁、松尾治也『刑事訴訟法(上)』(弘文堂、新版、一九九九年)四一一貝を参照。なお、犯罪捜査規範二二条
も参照。
(川町)拙著『告訴権・親告罪に関する研究- (明治大学大学院、二O O七年)一七二頁以下。
(位)最決昭五九.一了.二七刑集三入巻一三口号官方d 二
学院論集五悶号万(二 O O九年)五}忍怠頁以下、新屋達之「犯罪事実の一部起訴」松尾治也H井上正仁編吋刑事訴訟法の争点」(有斐
閣、第一三版、二 O O三年)一 O入頁以下、虫明満「親告罪における告訴の欠知と一罪の一部起訴」香川法学九巻一号二九八九
年)五一九頁以 F等を参照。
(崎)最判昭二七・七・一一刑集六巻七号八九六頁を参照。


淺利 大輔

あさり だいすけ

行政書士淺利法務事務所 代表

私は、警視庁警察官として32年間勤務し、そのうち25年間刑事(捜査員)をやってきました。さらにその中でも知能犯捜査関係部署(主として告訴・告発事件を捜査する部署です)の経験が一番長く、数々の告訴・告発事件に携わってきました。刑事部捜査第二課員当時は警視庁本庁舎(霞が関)1階にある聴訴室で、電話帳のように分厚い告訴状や告発状を持参して来られる弁護士先生方を毎日のように相手にし、ここで大いに鍛えられました。
これまでの経験を活かし、告訴事件の相談を受け告訴状をリーズナブルな料金で作成することで、犯罪被害者の方たちを支援できるのではと考えたからです。
「淺利に頼んで良かった」依頼人の方からそう思っていただける行政書士を目指していきます。

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